※ご注意です※ |
以下は赤毛兄弟の妄想SSです。 意味のわからない方、興味のない方は、 ご覧にならないようにお願い申し上げます。 一応オットー(弟)×グスタフ(兄)的な感じですが、 二人は特に出来てません。 オットーはおにいちゃんだいすきっ子ですが、 多分このままふたりは できあがらず、くっつき双子のまま 仲良く年をとっていくのだとおもいますvv ※単行本未掲載(雑誌掲載分)の 設定を使っています※ |
【 Daily Life 】 |
「兄貴、喜べよ!ミスター・ホームズの新作が手に入ったぞ!」 そういいながら俺が店のドアを開けた時。 賄いを担当しているアイリッシュ女が片付け残した鍋をこすっていたグスタフの目は丸く開かれ、それから俺が手にしている雑誌に目を留めるとみるみる頬を染めた。 「オットー、お前…ほんとうなのか?」 慌てて鍋を放り出してすっとんできた兄貴は前掛けで手を拭き、恐る恐る本を受け取るとまじまじと見つめた。 半年前の「ハーパーズ・ウィークリー」。 だが、アルファベットが読めない兄貴には、そこに載っている話が読めるわけではない。 眉をひそめ、縋る様な眼で俺を見上げる。 「まさか、疑ってるのか?」 確かにこれが実はホームズの話が載っているなんていうのが俺のからかいで、三文作家の下らない男女の恋愛ものしか載っていない風俗雑誌であったとしても―俺としてはむしろそっちをよんでみたいところだが―兄貴には分からない。 だが、兄貴のお陰で字が読める様になった俺が、そんな安い悪戯をする筈もない事は、 きっと兄貴自身が一番良く分かっている筈だった。 案の定、兄貴は首を振った。 「いいや、早く読みたいだけだ。だがお前…、よくこんなもの手に入れられたな」 「ほんとうだよ!滅多にないラッキーだ。チーズの仕入れに行った先で、捨てる為により分けてある「どうぞご自由に」箱の中のいらない雑誌を置いてある棚を見てたらこれが出て来たんだ。 盗んできたわけでも拾ってきたわけでもない、ちゃんと許可を取ってもらってきたんだぜ」 今日、寝床に入る前に読んでやるから、というと兄貴は喜びにか興奮にかわなわなと手を震わせさえしてこっくりと大人しく頷いた。 ところで、新作といっても、それは「俺達にとって」の最新作なのであり、偉大なるホームズ先生の直近の事件というわけでもなければワトソン先生の最新作というわけでもない。 そんな読み古しの雑誌が手に入ったと言うだけで、兄貴は鍋を擦る作業に戻りながら泡だらけの手ですでにぼうっとした顔で妄想に耽っている。 このくらいの年になると、そうそう何事かに没頭したり、心から堪能したり、叶わぬ夢を抱いたりということが極端に少なくなってくる。 襲い来る現実のあまりの厳しさに、自分の限界を知り、残りの人生の先行きが見えた様な気になってくる。 だが、グスタフときたらホームズ先生の事件に浸っているときだけは、まるで10代の夢見る少年のようにぽーっと自分の世界に入り込んでしまう。 だけ、じゃない。 ホームズ張りに事件に足を突っ込んで、必死に謎を解こうとしている時も、兄貴は真実夢の中にいるのだ。 だが、その夢の中を溺れながら泳ぐような金にもならない探偵稼業が、実に数人の人間の命や人生を救う事もあった。 生き甲斐を求めてやったこととはいえ、それは俺ひとりでは到底やろうとは思えない所業だ。 兄貴が、「お前だって十分に探偵に足を突っ込んでる」というけど、俺がやっているのはこうして金魚のフンよろしく兄貴の後にくっついて回りながら兄貴と共に追った事件の記録を日々まとめること。 そして兄貴が暴れ馬の手綱から手がはずれてまっさかさまに落馬しない様に、見張りながらまた後をついてまわることくらいだ。 * 店の片付けを終え、明日仕入れるべき物を簡単にリストにチェックすると、簡単に顔を洗ってぺらぺらのタオルで躰を拭う。 それを終えると、グスタフは待ち切れないと言うようにいそいそと靴を脱いだ。 店の奥にある俺達の部屋の、ベッド代わりにしているダブルのキルトの上に腰を下ろすと、ちらりと俺に目をやる。 いつものように何やってんだこのうすら大木とも、早くしろこののろまとも言わず、目をきらきらさせて早く読んで欲しいとグスタフは俺を無言で急かす。 勿論、そんなときだけは俺は兄貴を茶化したり焦らしたりはしない。 俺は発注を担当しているグスタフより先に仕事を終えて躰を拭いて既にさっぱりしていたから、同じように靴を脱いで、キルトの壁際にもたれる。 そうして大切にベッドサイドに置いた小さな本棚にしまっておいた僥倖によって得たハーパーズウィークリーを恭しく取り出すと、ふと思い立って足を開いた。 「兄貴、」 うん?というように首を傾げたグスタフをこいこいと手で呼ぶ。 こんなときだけはやたら素直な兄は、膝で俺にいざり寄ってくる。 ぐいっと肩を押し、薄い腹に手をかけてひっぱり、俺は兄貴の躰が自分の足の間に収まる様に移動させた。 「おいっ、なんだこれ」 後ろから覆い被さる様にしてハーパーズウィークリーを広げた俺に、グスタフから文句が出る。 「こうやってれば、兄貴も文字を目で追えるだろ? 読んでる気分になるってことも重要かと思って」 言って俺が読むぞ、と声をかけると、グスタフは黙って大きな弟の足の間で大人しくなった。 せいぜい丁寧に読み始めてやりながら、俺はここのところ空き時間にグスタフがぼろぼろになった雑誌を眺めているのを思い出す。 文字通り眺めるだけ―そう、兄貴は字が読めない。 ABC…D,くらいまではいけるのだが、多分それ以降はアルファベットの読み方すら認識できていない。 だけど兄貴は頭が悪いわけじゃない。 むしろそんじょそこらの名前ばかりの下手な学校を出たお坊っちゃんより、ずっと勘もいいし応用も効く。 彼が文盲なのは、俺達兄弟のせいだ。 今は亡き、母や俺を含めた兄弟達の為に、幼い頃からずっと働き続けてくれたから。 だから俺が彼の為の朗読者になるのは当然のことで、それを厭うたことは一度たりともない。 けど、時折思うんだ。 グスタフが、もし字が読めたらって。 もしそれができたら、兄貴はもっといい職につけるんじゃないか。日給1ドルに満たない牛追いのカウボーイなんかじゃなくて、探偵とはいかなくとも、街でこぎれいな服を着て、真っ当な対価を貰える安定した職業に。 考えながら多少臨場感をもって読み進めてやると、いつの間にかグスタフはおれのズボンの膝をぎゅっと掴んでいる。 目は開かれたハーパーズウィークリーに向けられ、さも読んでいるかのようだが、完全に意識は話の中に入り込んでしまっている。 兄貴の唯一で最大の娯楽。 いつも偉そうで無口な兄貴が、夢中になって俺の朗読に聞き入っている。 そうして読み終えれば、かならずグスタフはほう、と熱い息を吐き、そうしてしばらく余韻を堪能した後こう頼むんだ。 「オットー、もう一度読んでくれ」 俺は勿論その頼みを断らない。たとえ泥のように疲れていても、豪雨が牛を逃がしてしまいそうな時でも、ちょっと後でと言う事はあれど、グスタフの「読んでくれ」という頼みを断った事はない。 けれど、こんなにまで熱中されると、ちょっとだけ意地悪をしてやりたくもなるんだ。 一瞬だけ、迷うように時間を置くと、振り返ったグスタフの顔色がみるみる曇る。 まさか読んでもらえないのか、と思ったに違いない。 バカだな。 「もちろんいいぜ。だけど、ちょっとだけ、喉をうるおして、美声を整えてからでもいいかな」 そう言うと、滅多に笑わないグスタフはパッと砕顔してビールを取ってくる、と慌てて立ち上がった。 ばたばたと厨房へ向かう痩せた後ろ姿をぽかんと見送りながら俺はぶるぶると頭を振った。 ―ヤバイ。 嬉しそうに笑ったグスタフの顔が、今日チーズを仕入れに行った農場のブロンドのケイトより、ずっと可愛く思えただなんて。 俺は、どっか頭がおかしくなっちまったのだろうか? そうだ、こうやって毎晩一緒のキルトでくっついて寝てるから親近感のあまり、そんな風に脳がバカな事を思うんだ。 そう考えを打ち消すけれど、いそいそとビールを二本持って戻ってきたグスタフがはやく読んでくれと言わんばかりのきらきらした目でそれを差し出すにいたっては胸のどっかがきゅんと甘く疼いた。 ―仕方ない。 俺はグスタフと一緒のキルトで眠る日々に正直言って何の文句もないし、他の家族を全て失ったときの恐怖感を思えば、むしろ一緒に寝てくれるほうがずっと安心する。 一台しかない粗末なベッドを当たり前のように二人の寝床にしようと言い出した兄貴に至っては、たぶん俺と一緒に寝ることに疑問の一つも持っていない。 いつの間にか大木のように伸びた弟を、時折まだ三歳児だと思っている節があるのだからどうしようもない。 時折ずっと前に、数ドルで貸し出される夜の恋人の役をしてくれた女性の柔らかさが思い出されて疼く夜もあるが、それを我慢する方が、このがりがりで目ばかりがぎょろぎょろした兄、グスタフを失うよりよっぽどいい。 結局、俺達は究極のブラコンなのだろう。 もう一度読んで欲しくて、ビールを煽りながらもちらちらと俺と開いたままの雑誌に目をやってるグスタフに、苦笑して俺はもう一度さっきと同じ姿勢を取るとこいよ、と兄を促す。 兄は飛び跳ねたウサギのように喜んで応じた。 その夜、兄弟の小さな店の奥からは、ぼそぼそと一人劇を演じる若い男の声が、空が白み始め、声が枯れかけるまで、延々と聞こえ続けていたのだった。 END★ -------------------------------- 赤毛兄弟のすてきなところ★ オットーのほうが女の子に積極的 おにいちゃんは超照れ屋で奥手 でも原作設定で兄弟は ダブルのキルトで同衾。 そしてもんくをいいつつも、ふたりともじつはおたがいのことがだいすき★ すごくかわいい兄弟です★★ こんな素敵な本を教えてくださった某さま、ありがとうございましたvv |