Ja/Je R-18 |
【 Absynthe 】 【7】 |
同情されているんだとわかっていた。 腕を押さえ付けられた口付けの途中で、開放された腕をジャレッドの首に回して引き寄せたことで、誰が見ても俺の気持ちは明白なものになった筈だった。 多分、こいつは俺の気持ちに気付いていて。 そして、自分が何気なく渡した香水を身に付け、何でか知らないが涙を零した俺を、慰める為にこうしてくれているのだと。 ジャレッドは優しい。誰にでも。 そのなかでも、俺に向ける気持ちは、どこか特別なような気がしていた。 今は、その優しさがただ苦しく、胸を引き絞られるように切ない。 いっそ冷たい言葉で切り捨ててくれたら楽になれるのに。 触れ合った後でも変わらない態度で接してくるジャレッドが憎らしくて、でもまだ好きで。 混乱したまま、それでもそばにいられるだけ、見ていられるだけでいいと思っていた。 シーズン5で前シーズンまでの記録を塗り替える勢いの最高の視聴率に後押しされるように、全ての撮影が終了した時。あぁ終わったんだな、と俺は思った。 こいつのそばにいることを赦されていた時間が終わった。 絶望すると共に、少し安心した。 この焦がれ続けた苦しさからようやく解放される。 多分、ディーンがサムを求める気持ちに、シナリオに入り込むタチの俺は引き摺られているんだ。 離れれば、いつか忘れられる。 そう思っていた。 「ジェン…ジェンセン」 ジェン、と数え切れないほど何度もジャレッドが呼ぶ声に耐えられず、また涙が零れる。 呼ばれるたびに、応えたくなる。 ジャレッド、ジャレッド! でも、一度でも名前を呼んでしまえば、この想いを全て吐露してしまいそうで、そうしたらもうこの先ジャレッドと離れて生きていくことすら苦痛になりそうで、その名を呼ぶことは決して出来なかった。 がらんとした薄暗い部屋の、それだけが残ったベッドの上で、名を呼ばれる以外には言葉を交わすこともなく抱き合う。 何も言いたくない、何も聞きたくない。 躰だけでも愛してくれるのならそれでいい。 同居を解消すれば、こんな風に戯れに触れることももう二度とないだろう。 今度は互いにアルコールは一滴も入っていない。 酔っていた、という言い訳は通用しない事は分かっていた。 口付けを繰り返しながら服を脱がせ合う。 悲しさと愛しさの相反するジレンマに涙が止まらなかった。 その涙を、ジャレッドはゆびさきでくちびるで困惑したように吸い取ってくれた。 躰中を辿るジャレッドの熱い唇に悶えて髪を掴んで引き寄せる。 それだけで狂ったみたいに感じて、勃たせて先端を濡らしている俺を、こいつがどう思うのかなんて考えたくなかった。 ジーンズを脱いでいないジャレッドの前も昂ぶっているのが分かる。 ジャレッドがそれを脱ぐのを待ち切れず、昂ぶりに手で触れると、驚いたような視線を返されて恥ずかしさに死にたくなる。 けれど、すぐに全てを脱ぎ捨てたジャレッドが圧し掛かり、二人の充血した性器を擦りあわせるように握り込まれる。 腰を動かしながらねちねちと擦り合わされて、いやらしい音と感触に気が遠くなりそうだった。 でも、そうじゃない、この間みたいなのじゃなくて、ちゃんとセックスがしたい。 最後に、どうかお前を躰の奥で感じたい。 そう希うのにどうしてもそんな風に強請る事はできず、前を擦り合わせ、先端を弄られて殆ど同時にふたりぶんの熱を腹に受ける。 困惑と衝撃とに目を閉じて荒い息を繰り返していると、腹の上の精液を掬われる。 そのまま、足を広げられて膝に口付けられながら後ろに触れられる。 気持ちをわかってくれたことが嬉しくて、でも何故か悲しくて震えた。 くちびるを噛み締めて、異物感を耐える。 受け入れたいのに恐ろしく、震えながら萎えた前に気付いたのか、後ろをゆびで拓きながらジャレッドが顔を伏せた。 足の付け根や性器の周りにキスを落とされて軽くキツく吸い上げられ、触れる髪がくすぐったい。 予想外なことに、性器にもキスをするようにくちびるを這わせられ、快感と共にジャレッドがそんなことをしてくれたという夢みたいな事実に興奮して一気に性器が撓った。 躰を横向きにされ、半分うつ伏せになったようなかたちで左足を持ち上げられて、後ろにジャレッドが宛がわれる。 挿れる前に耳元に軽く口付けられ、泣きたくなる。 そんなに優しくしないでくれ。もっと滅茶苦茶に抱き壊してくれていい。 慈しむようにされればされるほど、まるで愛されているような錯覚を覚えてしまうから。 余計に想いが募って、忘れられなくなる。 押し込まれる初めてのジャレッドの熱に、俺は堪えきれない喘ぎを洩らして目を閉じた。 鳥の声さえも聞こえなくなった、夜半。 カーテンを閉めた部屋には、僅かな月明かりだけが洩れ入る。 ぐったりした身体をベッドに預け、薄く目を開ける。 「ジェン……?」 何度か優しく声を掛けられて、顔を覗き込まれる気配がしたが、眠った振りをした。 寝た振りや死んだ振りは、俳優としての演技で慣れている。 眠った振りに気付かなかったのか、ジャレッドは、俺を起こさないように気を配りながら、そっとベッドを降りて部屋を出て行った。 多分、シャワーを浴びに行ったのだろう。 むくりと起き上がって手早くフットボードに掛けられていた服を引き寄せて身に付ける。 おおきなモノを突っ込まれた狭間の奥は鈍い痛みが残っていたが、このままここにいたらまた顔を合わせてしまう。 どうにか身支度を整え、放り出されたバッグを拾い上げてひりひりする躰を何とか誤魔化して立ち上がる。 最後に、まだ抱き合った余韻を残したベッドを、何も無い部屋を振り返る。 一瞬、言葉に出来ない程の寂寥感に包まれた。 ―どうして、こんなに好きになってしまったんだろう。 人間なんて世界中に溢れるほど居て、あいつよりずっと魅力的な人間だって数え切れないくらいたくさんいる。 なのに。 どれだけ人が溢れていても。 どんなに素晴らしい人に好意を寄せられても。 年下で、ドジで、悪戯好きで、大食らいで、バカでかい、あいつが。 笑顔が可愛くて、頭の回転が速くて、 そして はじめて誰よりも深く俺の事を分かってくれた、あいつが。 ―ジャレッドがいい。 ジャレッドしか、いらない。 あとは何もいらない。 本当に、バカだ俺は。 くちびるをかみ締めて、もう振り返ることなく部屋を後にする。 足早にガレージへと向かった。 |
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