Ja/Je
R-18

【 Absynthe 】
【4】









 本当に綺麗だよな、とはいつも思っていた。


 4年以上もシーズンの撮影中はほぼ毎日のように一緒に仕事をして、少し前からは一緒に住んで。

 それでも、ふとした瞬間に見せる彼の姿にハッとさせられる事がある。

 慣れる、ということを赦さない美貌。


 でもその美しさよりも尚、魂を掛けるような仕事への打ち込みに、

 普段は隠している内に秘めた真摯な情熱に、

 そして不意に見せる心を開いた笑顔に、

 思わず抱き締めたくなるほど胸にクる儚い脆さを内包した本気の泣き顔に。

 
 次第に自分が心惹かれていくのはどうしても止められなかった。



 なんて綺麗なんだろう、彼は。

 姿も、そして心までもが澄んだ水のようで。

 こんな人、逢ったことがない。



 何かを演じるたびに、その現場の脚本家や、共演者達が彼に心酔していくという話を耳にする。

 当然だ、と納得する思いと、彼のことをよく知りもしないくせにという相反する嫉妬のような感情が沸き起こり、少し混乱した。

 彼のことを最もよく知っているのは僕なのに、と。


 そんな思いをインタビューの場でも、撮影現場でも力いっぱいアピールして、彼自身からは呆れられながらも、周りからは本当の兄弟みたいだと笑われたり、二人のケミストリーは最高だと絶賛されるようになった。 


 同居していても、彼は僕のプライベートエリアを決して侵そうとはしない。

 ルームシェアの経験が何度かあるだけあって、気を遣わない程度に気遣いをしてくれる。まるで家族と住んでいた時の様に、家の中で一緒に過ごしていても、気楽なのに落ち着いて過ごせる、最高のルームメイトだった。



 あの日。

 彼にキスをしたとき僕は、後先のことなんて全く考えてもいなかった。


 寒い中での長時間の撮影が続いて、ぐたぐたに疲れていた。

 1人ならやってられるかよと思ったような繰り返しの作業でも、同じように全力で頑張る彼の姿が目の前にあったから、耐えられた。そのくらいに疲れる撮影だった。

 ようやく撮り終え、苦笑しながらからかいあって二人で家に戻る。

 翌日はオフだったから、シャワーを浴びてさっぱりした後、彼の好きなルートビアと僕の好きなクアーズとつまみを大量に並べて、チップスを摘みながらゲラゲラ笑ってTVを見ながら話した。

 キッチンにあったワインとバーボンを追加したあたりから、彼の目が少しとろんとしてきたのには気付いていた。

 疲れてるんだよな、と思った。

 この一週間寝る時間以外はほぼずっとスケジュールが詰まっていて、二人して撮影とインタビューに追われていたから。   

 もう寝かせてやらなきゃ、と酔いがまわった頭でぼんやりと思ったとき、彼がグラスに少しだけ残った黄金色のバーボンを呷った。

 のけぞったその白い喉元が目に入り、ぞくりと身体に震えが走った。

 グラスを置きながら、酒で濡れたくちびるを無意識にかぺろりと彼が舐める。

 濃いピンクの舌が僅かに覗く。

 長い睫がスローモーションのように震える。

 ゆっくりと視線をこちらに寄越し、潤んだ瞳で彼は僕を見て、何か言った。


 全くその言葉は耳には入らず。

 気付けば、僕は彼を押し倒して乱暴にくちびるを貪っていた。







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