Ja/Je
R-18

【 Absynthe 】
【3】









 ジャレッドとは、一度だけ躰を合わせたことがあった。


 その日は撮影が長引いて異例なことに24時間以上も続き、体は完全にくたくたで疲労しきっているのに、逆に疲れ過ぎていて互いに少しハイになっていた。

 翌日が週末でオフということもあり、家に帰ってからヤケになったみたいにいつものビールに始まっていくつかの酒瓶をふたりで空けるくらい呑んだ。

  点けっぱなしのTVにケチをつけたり突っ込みを入れながら、馬鹿みたいに何もかも可笑しくて、何を話したのかも覚えていないのにものすごく楽しかった。



 そのうち、少しくらりと視界が2重になるのを感じた。

 あぁ、呑み過ぎだ…そろそろ寝るべきだな、そう思って、最後に呷った酒で濡れたくちびるを舌で舐めてから、ジャレッドにもう寝る、と告げようと思って彼を見た時。

 ジャレッドは、すごく酔っている筈なのに、何故か酔いが醒めたような顔をして俺を見ていた。


 「ジャレ……ッ」

 
 どうした?と、気分でも悪いのかと、聞こうとするよりも前に、ジャレッドは唐突に立ち上がるとソファに座っていた俺の肩を掴んで押し倒し、くちびるを合わせてきた。

 驚きに目を見開く。

 酒のせいか、ジャレッドの唇も舌も熱く、深く口腔を探られて、一瞬抵抗するように腕を掴んでいた手から力が抜ける。


 バーカ、なに考えてるんだよ、このでかい俺を女の子と勘違いしてるのか?と。 

 そう言って頭をはたいて、このキスを酒の上での冗談にしてやらなくては、と頭では思っているのに。

 呼吸が荒くなるまで絡め合った舌をジャレッドがチュッ…と小さな音を立てて離そうとした時、僅かに伸び上がり、もう一度くちびるを合わせて、キスをしたのは、俺のほうだった。

 離れようとしたジャレッドが、一瞬動きを止めて、それからすぐさまもう一度ソファに押し付けられ、噛み付くようなキスをくれる。

 その後はもう、めちゃくちゃに絡み合い、互いを求め合った。

 引き千切るように服を脱がせ合って、何も着けない肌を触れ合わせる。

 唇と舌で肌をたどられて、酒で熱くなっている筈の肌が、更に与えられる熱に震えて熱くなる。




 堰を切ったように感情がジャレッドへ向かって溢れ出す。 

 腕を伸ばし、強く抱き締めてゆびであいつを感じ、これ以上ない程に全身で激しく求めた。

 理由なんて必要なかった。

 もうあとは、身体を求め合う以外に近づく方法がないほどに、俺達は惹かれ合っていたのだと思う。

 日々冗談で誤魔化し、他愛のない触れ合いを繰り返し、

 でももうそれだけではどうしたって足りなかった。


 心を重ねて、全てを明け渡し、見せて見られて、どうしても互いの欲望の在り処を知りたかった。

 堪え切れずに漏れる熱い吐息がジャレッドの情熱に染め上げられていく。

 自分の中に、こんなにも激しい欲望が眠っていたなんて知らなかった。

 こんなにも強く誰かを欲しいと思ったことなど今までになかった。

 どうなってもかまわない。

 そんな、激しく燃え盛る炎のような恋に自分が落ちるだなんて。



 ―あいつも、同じ気持ちだと、そう信じていたのに。




 自分が馬鹿だったと知ったのは、翌朝のことだった。







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