※ご注意です※
以下はRPS JaJeの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

※R-18要素を含みます※
【 Stoicism junkie 】












 先程からジャレッドは、苛々しながらずっと奥の部屋を気にしていた。

 帰って来てからドアの前まで行ってみたものの、再びの謝りの言葉は出てこず、ドアノブに引っかけたお詫びのつもりの有名店のダークチョコレートを使ったトリュフの装飾的な紙袋は、微動だにせずそのままだ。

 怒っている。
 それはわかるのだが、二回謝って許してもらえなかったジャレッドは切り出し方がもう思い浮かばない。


 気も漫ろなまま、買ってきたテイクアウトのピッツァを齧り、シャワーを浴びてビールを飲む。

 キッチンやバスルームをうろうろする物音はきっと聞こえている。
 ジャレッドが帰ってきている事に気付いているのだろうに、ジェンセンは起きている様子さえ分からないほどひっそりと部屋に閉じこもっている。

 閉じこもり始めた初日に、買い置きしてある水のボトルが少し減っていたから、水分だけは採っているだろうと思う。

 けれどそれだけでは生きていけない。―とくに彼は。

 最後に『食事』をしてからもう一週間。

 どれほど飢えていることだろう。

 たったひとこと、ジャレッドにねだってくれさえすれば、それはすぐさま簡単に叶えられる願いなのに。




 リビングのドアを開け放し、電気の点いていない突き当たり奥の部屋のドアを見つめながら溜息をつく。
 しかたない、もう寝るかと電気を消し、立ち上がった時、唐突にカチリとドアノブが周る音がした。

 ハッとして立ち上がり、思わず何故か慌ててソファの裏側に周ってしゃがみこむ。
 ソファの背の狭間から、そっと見ると、そろりと出てきたジェンセンもまた、きょろきょろとジャレッドが部屋に戻っていることを確認するかのようにあたりを見回している。

 そうしてようやく安心したのか、ぺたぺたとちいさく裸足の足音を立てて出てきた彼は、まっすぐキッチンに向かうと、冷蔵庫のドアを開けた。

 開けたのは中段にある解凍室。

 電気の消えた部屋の中、冷蔵庫の庫内を照らすライトに薄ら照らし出された彼の顔は、可哀そうなほど憔悴している。

 良く眠れていないのか―もしくは泣いたのか、まぶたもわずかに腫れていて、それを見たジャレッドの胸は締め付けられるように痛んだ。

  どう考えても彼をあんなに消耗させたのは自分だ。

自分が、ささいなことで拗ねて喧嘩をして、そして―彼を、望まないハンガーストライキに追い込んだ。


 解凍室から、恭しいほど丁寧なてつきで彼はそれを取り出す。

 ぺろり、とふっくらしたくちびるをなまめかしく舌が舐める。

 幾分うっとりした表情で、それがちゃんと解凍されているかを触れてたしかめたあと、我慢しきれなくなったのか、解凍室のドアさえ閉めないまま、よろよろとしゃがみこむ。

 床にぺたりと膝を崩して座りこむと、震える手でパックにチューブを刺し、吸いつこうとした。

 それを見て耐え切れなくなって立ち上がる。

「ジェン」

 声をかけると、彼はびくッと可哀そうなくらいに竦み上がった。

 限界まで乾いているのだろうに、なのに目の前のひとくちものむこともできず、おそるおそる振り返る。

「ごめん、僕が悪かった。こっち、飲んで」

 謝りながら近付くと、怖いのか、はたまたまだ怒っているのか首を振りながらずるずるといざって逃げる。

 背中が壁に当たって逃げられなくなるまで這い、そうして取られると思ったのか、握りしめていた血液の入ったパックを背中に隠した。

 中にはジャレッドの血液が入っている。

 万が一残業であるとか、もしくは事故や災害であるとか。

 そういった非常時の為に、日を分けて数本、ジェンセンの為に採った血液パックを冷凍しておいたのだ。

 彼が必死に隠しているのはそのうちのひとつだ。

 飢えに耐えられなくなって解凍を待っていたのだろう。


 一歩ジャレッドが近付くと、ジェンセンはまた強く首を振った。

「来るな…」

 言われて、それ以上近付けなくなる。

「でも、…腹、へってるんだろ?」

「…これがあるからいい」

 俯いて言うジェンセンが、限界に近く飢えているのはわかっている。

「頼むよ、そんな冷たいのより、僕から直接飲むほうがいいだろ?
もう意地張らないで―」

 そこまで言うとジェンセンはぴたりと首を振るのを止め、まじまじとひざをついたジャレッドを見上げた。

「おれは意地なんか張ってない。酷い事をしたのは、お前だ」

「わかってる。だからごめんて―」

「お前は、おれが飢えて苦しんでるのを愉しんでたんだろ?
 なかなか帰ってこないし、電話してもでないし…俺が、どんな思いで」

「だから、謝ったし、どうか僕から飲んでくれって頼んでるだろ!」

 うるうると目を潤ませ、怒りに眉をひそめて言うジェンセンに耐えられなくなって叫ぶが、ジェンセンの覚悟は固かった。

「もうお前の血なんかいらない」

 ジェンセンはきっぱりと言った。

 衝撃を受ける。

「もっと、意地悪じゃなくて、いつでも血をくれる奴を探す」

 そう言われて、腹の底から熱いものが込み上げる。

 怒りと拗ねを露わにしてひかないジェンセンは、だがジャレッドの血液パックからは手を離そうとしない。とりあえずあれを飲む気はあると言う事だろう。

 生身のジャレッド自身からはほしくないというのに、

 血液だけなら飲めると言うのか。

ふざけるな、と思った。



 カッとなったジャレッドは、ジェンセンが背後に隠している腕をぐっと捩りあげた。

「痛っ!…や、めろ!ジェイ!!?」

 一瞬怯んだジェンセンは血液パックを奪われた瞬間にハッとして掴みかかって来た。

 だがそれを奪ったジャレッドはすぐさま立ち上がるとシンクに向かい、手近に会った果物ナイフでパックに切り目を切れ、押し出した。一気に水を流す。

 慌てて背中に抱きつくようにして止めようとしたジェンセンが見たものは、既に空になったパックと、水に流された赤の名残だけだった。

「あぁ…」

 呆然と見おろすジェンセンの目には、みるみる涙が溜まっていく。

 ふらりと倒れそうになった彼を、慌てて支えた。
 
 ひくひくっと声もなく嗚咽しながら、ジェンセンはショックのあまり半ば意識を失ってぐったりしている。

 もう本当に限界なのだろう。

 全く、どうしてここまで我慢するのだろう。

 ジャレッドは、軽くなった気がするジェンセンの躰をそっと抱き上げた。


 ジェンセンの部屋は物置を改造してベッドとテレビを置いただけの狭いスペースで、朝日がなるべく差し込まない部屋、ということで彼の希望を受けて作られた。

 そのぶんベッドは高級品を入れてある。ふかふかのスプリングの上にそっと彼を横たえると、涙の痕を残す頬にちゅっと口付ける。

 部屋に戻ると目当ての物を持ってきて、くったりと置かれたままのジェンセンの上にそっとのしかかり、刃を自らのゆびに押し当てる、

 あまり使わないところ―左手の、くすりゆびに。

 ほんの軽く切る。すぐさま滲んでくる鮮やかな赤に、起こすまでもなく「ん……」とジェンセンが呻いて目を覚ました。

 また嫌だと言われないうちに、有無を言わさず指をくちびるに突っ込む。

 びっくりしたのか目を見開いた彼は、だが舌に感じた味に抗えなかったのか、ジャレッドの左手を両手で掴むと必死にそこを吸いだした。
「ん、んっ、んくッ…」

 ちうーっと子供がジュースを吸い上げるような音でジェンセンはちゅうちゅうとジャレッドの指を吸い続ける。

 途中、出が悪くなったのか彼が眉を顰めてかなしそうな顔になったので、引っ張り出してもう一か所切る。

 刃が離れた瞬間に、ジェンセンはむしゃぶりついて必死に吸いだした。

 半分目を伏せ、仔猫のように両手でがっちりとジャレッドの手を掴んでちうちうと吸うジェンセンは異常に可愛かった。

 薔薇色の頬には血の気が戻り、なかば恍惚とした表情でジャレッドの体液の味を堪能している。

 柔らかく熱い口腔内で、舌を押し付けられて舐め回される。
 ねっとりと熱い舌の感触。
 ピンク色の柔らかいくちびるに熱心に吸い上げられるうち、お預けをくらっていたジャレッド自身も熱が灯る。

 ジェンセンがこのくらいでは全く満腹していない事は分かっていたが、ゆびを引っこ抜いてキスをしようとする。

「あ…!」

 可哀そうなほど儚い声を上げてジェンセンはそれを嫌がった。

「後でおなかいっぱいあげるから」

「やだ、やだ、ジェイ!」

「いいこだからまって」

「やだ、頼む、なぁ、…もうひとくちだけ」

 ジェイ!と泣きながら願うジェンセンのくちびるを押し付けたキスでふさぐ。

 

 熱いくちびるの中はジャレッド自身の血の味で満ちていた。







つづく?





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吸血鬼のジェンさんはジャレさんの血しか飲めないんですよ。
そして食事はとんでもないところからするといいと思います(真顔
飲み過ぎに注意。。。