JaJe AU R-18

【 Private Islands 】











  
  頬を染めて悔しそうに言うジェンセンを久し振りに真正面から直視したジャレッドは、

「え…、だって………ジェン、」

と困惑したように呟く。

 そのジャレッドの反応に、やっぱり、というようにジェンセンはくちびるを噛み締める。

 それでも、ジェンセンが膝から落ちないよう、ウエストにそっと手を添えて支えてくれるジャレッドに一縷の望みを託したかった。

 そうして、再び、「俺は、バイじゃない」と、搾り出すように必死に告げるジェンセンを見て、

「だって、トムとか、ジェイソンとか、………すごい態度ヘンなんだけど」

と、常々思っていたことをジャレッドは思わず洩らしてしまう。

 え?とびっくりしたようにジェンセンは顔を上げる。

 態度って?と怪訝そうに聞かれて、言い辛かったがずっと思っていたことを口に出す。

「…彼ら、君の事有り得ないくらい好きだよね?しかも、ジェニーって呼ぶし、あのちやほやっぷりは、殆ど娘かお姫様に対する態度だよ。
 それに、同居し始めた後、僕に会った時“俺達のジェニーをどうかよろしく”って言われて握手された手に、すっっごいチカラこもってて痛かったんだけど…」

 あれが以前付き合っていたオトコの新しいオトコに対する警告でなかったら一体なんなのだ。とジャレッドは内心でその時酷くムカついていた。

 だが、そんな男らしくないことはジェンセンに言うべき事でもなく、何を言われても今は僕が彼のイチバンなんだから、と自分を納得させ、自分ひとりの胸に閉まっておいたのだ。

 だが側にいると分かるが、相当頻繁に電話が掛かって来ているし、仕事の場所が被れば大体会っている。

 男の友達と会うななんて事は勿論言えないけれど、その中に含まれている以前同居していた面子というのは、やはりジェンセンの、前に付き合っていた相手なのだろうなとジャレッドは内心で想像しては嫉妬していた。

 それを聞くと、あいつら…と苦い顔でジェンセンは呟いた。

「ジェニーって呼ぶのはふざけてるだけで昔からだし、お前に対する態度も同じだと思うけど、今度怒っておく」

 気付かなくて悪かった、と謝られて、いや、と言いながらふとジャレッドは気付く。

「ジェン、もしかして僕たちの事、彼らに言ったの?」

 いや、とジェンセンは首を振る。

「特に言ってないけど、なんかあいつらには俺が好きな相手の事いつもわかるみたいで、いろいろ話を聞いてくれたり相談に乗ってくれたりするんだ」

 昔から、と言われてむっとする。

 相談ならこんなに近くに僕がいるのに、という気持ちが顔に出ていたのか、ジェンセンが一瞬、怯えたような表情を見せて呟いた。

「……おまえとのことは、お前には相談できないだろ」

 そう言われて、え、僕とのこと?とジャレッドは思う。

「僕との事を彼らに相談してたの?」

うん、と頷く。

―それって、何も言っていなくてもバレバレなのでは。

 そういえば、さっきもジャレッドの不在を不安に思ってジェンセンはトムに電話を掛けていた。

 二人で旅行にきていることをトムは知っていてその上で話を聞いてやっていたと言う事だとすれば、本当に彼らはジェンセンが可愛くてたまらずちょっと常軌を逸しているだけの、ただの友達なのかもしれないとジャレッドは思う。

 そう考えた瞬間、ジャレッドの中で、何かが繋がった。


 ―ジェンセンはバイではない

 ―彼らは、ジェンセンのモトカレではない


 そうすると、導き出される、答えは。

「もしかして…いや、……え?あ?…ジェン、バージンなの?」

 呆然としたまま、思ったままをぽろりと口に出してしまう。

 途端に顔をしかめたジェンセンに、頬を両側からぎゅうううぅーっ!とキツク抓られる。

 いていていてっ!!ごめんなはいっ、と必死に謝ると、もう殆ど零れそうな位潤んだ瞳に涙を溜めたまま、ジェンセンはゆびの力を抜いた。

「…絶対に誤解してると思ったんだ。
お前俺が逃げるといつも、男がいたくせに俺にはなんでやらせないんだ、って顔するから…ッ!」

 もう半泣きで言うジェンセンに、ジャレッドは呆然とする。

 そんな事を思ったことは無いつもりだけれど、ジェンセンを知っている男たちがいるのに、どうして自分にはゆるしてくれないのだろうと焦れていた事は確かだったから何も反論はできない。

 でも、ジェンセン的にはジャレッドがなにか誤解していると思っても、
それを解くのは至難の業だったのだろう。


『 オトコは初めてだから優しくして欲しい 』

 だなんて正面きって言える筈も無い。むしろ、堂々とそう言われたらジャレッドは信じられなかったかもしれない。

 今までに何人か同性の友人とルームシェアをしていて、その誰もが彼に手を出せなかったと言うのも謎の出来事だが、よく考えれば自分も未だに本当の意味では手を出せていないのだ。

『電話が鳴ってるかも』
『トイレに行きたくなった』
『セイディ達が鳴いてる』

etc、etc。

 オフのスケジュールや翌日の出が遅めの日に、キスをして抱き締めて躰に触れ、いざと思う時に限って、ジェンセンはそんな言い訳としか思いようの無いことを言い出してジャレッドから逃げ出そうとした。

 待ってよ、と腕を掴んで引きとめようとすれば、狼に足を抑えられた瀕死のウサギのような目でうるうると見られ。
 そんなに酷い事をしたいわけじゃないのに、と思いながら離さないわけにも行かず。

 どうして、とわけのわからなさにジャレッドは混乱していた。

―それが、バージンゆえの男同士の行為への戸惑いだったのだとしたら全て説明がつく。

 バイだと思い込んでいたのは、ガールフレンドがいても、男友達とルームシェアしていただけならまだしも、何故か彼女より男友達と親しくしているように見えて。
 しかも、その住んでいた歴代の男友達が皆、彼に気があるようにしか思えない態度と来たら、彼にもそういう気があるとジャレッドが誤解しても無理は無いと思う。

 願望はあったが、予想もしなかった展開に、ジャレッドは自分の膝に乗ったまま、目の前で赤い顔で顔を顰めて自分を睨んでいるジェンセンをじっと見つめていた。

「―――それで?」

え?とジェンセンが問い返す。

「それで、ジェンはどうしたいの」

冷静な声で、ジャレッドは諭すように問い掛けた。
















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