JaJe AU R-18

【 Private Islands 】











  帰ろうか。


 そう言われて、ジェンセンは思わず目を見開く。

 なんと言ったらいいのか分からずに必死に言葉を選びながら躊躇っていると、

「ゴメンね、ジェンを困らせたかったわけじゃなかったんだ」

 ゴメン、ともう一度、子供に伝えるような優しい声で呟かれて、必死に首を振る。

 違う、ちがうそうじゃない、俺は。

 きちんと説明しなくてはジャレッドは自分がここに二人きりで来る事が嫌だったのだと誤解している。

 なのに、困惑しきったジェンセンの口からは、それを否定して誤解を解き、この想いを説明する上手な言葉がどうしても出てこない。

「ジェン…?」

 既に半泣きになりながらぶるぶると頭を振り続けるジェンセンに、心配そうにジャレッドが声を掛ける。

「無理しなくていいんだ、僕が先走り過ぎただけなんだか…」

「ち、…違う、そうじゃないっ!!」

 混乱するジェンセンを諭すような穏やかなジャレッドの言葉尻を奪うようにして、必死にそれを否定する。

 違う、ともう一度言うと、目尻から堪えていた涙が一滴零れ落ちた。

 それを見たジャレッドが、驚いて口を開く、前に。

「…おれは、帰らない。ここに、いる」

 お前と、と言うと、ジェンセンは堪えきれずにうっ、ぅ…ッと小さくしゃくりあげ、そして涙に濡れた顔をぐいっと袖口で乱暴に拭う。

「ジェン…」

「、しばらく、放っておいてくれ」

 こんな場面で泣くなんて、と自分自身のあまりの弱さと情けなさが悔しくてそれでも止め様もなく、ジェンセンの目にはまた涙が滲んでくる。

 醜い姿をジャレッドに見られたくなくて、とっさに両手で顔を覆うと、頼む、と搾り出すような声で必死に懇願するようにいって、ジェンセンはくるりと後ろを向いた。

 これ以上何も言われたくなくて、背中で必死にジャレッドの言葉を拒絶した。

 躊躇いがちに部屋を出て、ドアを静かに閉める音がする。

 それを聞いてようやく、ジェンセンはひくっとしゃくりあげ、自然に止まるまで泣きじゃくり。

 気付けば一人では広過ぎるベッドに転がり、いつの間にか眠ってしまっていた。








 食事にしない?

 薄暗い部屋にふっ、と明かりが灯され、恐る恐るというように声を掛けられてジェンセンは目を覚ました。

 辺りはすっかり闇に包まれ、既に空気は少し冷んやりとさえしている。

 お腹空いたよね?食べられる?と言われてウン、と頷く。

 混乱して泣き過ぎて、なんだかワケがわからないまま落ちるようにして眠ってしまっていた。

 初めてのジャレッドとの二人旅の興奮と、フライトに思いの外疲れていたのかもしれない。

 ぼんやりした頭と多分めちゃくちゃに腫れているだろう瞼のまま、おいでと促されるままにダイニングへと向かう。

 近付くごとに美味しそうな匂いが鼻と胃を刺激する。



 花が飾られたダイニングテーブルには、南国ならではの料理が色鮮やかに所狭しと並んでいて、ジェンセンの眠気と躊躇いも思わず吹き飛んでしまう。

「すごいな…」

 まさか、これ、前が?と聞くと、まさか!と笑いが返ってくる。 

「全部出来てて、僕は盛り付けたり温めたりしただけだよ!さ、食べよう?」

 にっこりと曇りの無いいつもの笑顔で言われてほっとする。

 美味しくて珍しい料理に舌鼓を打ちながら、他愛も無い話をぽつぽつとする。

―ジャレッドは優しい。

 先程の言い争いを水に流して忘れ去ったかのようにして、旺盛な食欲でジェンセンにもあれこれと取ってくれてはすすめながら、内心では泣いて彼を拒絶したジェンセンに一生懸命気を遣ってくれているのがわかる。

 それをちらりと見つめて、料理を口に運びながらも、ジェンセンは、胸の中で言わなければいけない言葉を必死に考えていた。














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