JaJe AU R-18

【 Private Islands 】











  到着したジェットから降りると、南国らしき不思議な香りと海の匂いに包まれる。

 日差しは強烈だが、湿度が低いせいか、思ったよりも暑さは感じなかった。

 キャップを被り、日焼けをすると赤くなりやすいジェンセンは、多少暑くなっても日焼け防止の為に長袖のシャツだけは脱がずに着ておくことにする。

 窓から眺めていた感じでは、滑走路は一本しかなく、飛行場の建物も綺麗だが小さくてここは思ったより小さな島のようだった。

 見れば既に涼しげな半袖姿になっているジャレッドは、降りてきたパイロット達と何か話をしている。

 その間に、荷物を係員が近くに停めたRV車まで運んでくれていた。

 ジャレッドがThank you,というと、何故か車から降りてきた二人の係員までもが小型ジェットから少し離れた場所にあるヘリに乗り込んでしまう。

「さ、説明は受けたから、行こう?」

「あぁ、というか、案内は?」

 大丈夫、と言い包められて、係員達に笑顔で手を振られ、促されるままジェンセンはキーを付けられ、エンジンがかかったままの大型のRV車へ乗り込む。

 車はオズの魔法使いのように、そこだけ舗装された道を導かれるようにしてゆっくりと走り出した。






 着いたよ。

 門のような入り口を通ってから、しばらくしてジャレッドにそう言われて降りたのは、少し小高くなった丘の上に建つ、白いヴィラのようだった。

 ヨーロピアン調にほんのり南国の気配を混ぜたような美しい建物に促されるまま足を踏み入れると、両開きのドアには鍵が掛かっていないし、そう言えば門もオープンのままの状態だった。

 無用心だな、と思いながらジェンセンは足を踏み入れる。

 平屋建てのそこは、高い天井にヒーリングファンがゆっくりと回り、南国調のチョコレート色をした籐の家具がゆったりと配置されている。

 広い開放的なリビングルームの大きな窓からは、テラス越しにすぐ真下の海が迫るほど目の前に広がっていた。

 目が痛くなるほどの青に、ジェンセンは思わず目を細める。

 その景色に誘われるように、ふらふらとテラスまで出ると、潮の香りに何かお菓子のような甘い匂いが混じる。

 太陽の下、真っ青に視界一杯に広がる海と空の澄んだグラデーションを堪能していると、「はい」と何かが目の前に差し出された。

 首を傾げて見るとそれは、小ぶりな椰子の実にストローが刺さった、南国によくあるココナッツジュースのようだった。

 にっこりと笑って自分の分を飲みながらジャレッドが差し出すそれからも、不思議な甘い匂いがしている。

 Thank youと言って受け取り、ストローを咥える。

 ほんのり冷えた甘味のあるココナツの味が、暑さを癒すようだった。

 美味しい?と聞かれ、飲みながら頷くと嬉しそうに笑う。

 爽やかな潮風が笑顔を交し合う二人の間を優しく撫でていく。

 澄み切った空の下で、黒いTシャツに曇りない笑顔で笑うその顔が
あんまり可愛くて、つられて笑ったのに、何故かそれを見たジャレッドは唐突に眉を顰めた。

 なに?

 俺が何かしたか?

 突然表情を曇らせたジャレッドに困惑してジェンセンはストローから口を離す。

 それを取り上げると忙しない挙動で自分の分と共にテラスのデッキチェアの間にあるサイドテーブルへ置くと、ジャレッドはパッとジェンセンに向き直って屈み、背中に手を回して抱き竦めるようにすると、唐突に口付けてきた。

「!?」

 驚いて目を見開くが、ジャレッドがする事がジェンセンにとって嫌な筈もない。

 顔を上向けられて幾度も角度を変えてチュッ、チュッと小さく吸われ、徐に深く熱い舌が入り込んでくる。
 柔らかくキツく吸い上げられて、ふるっと躰の芯が甘く痺れような感覚がした。

 そう言えば、昨年のクリスマス翌日に別れたきり、これが年が明けてから初めてのキスだな…とジェンセンはジャレッドの熱いくちづけにぼうっとしていく頭で考える。

 深く口付けられながら、後頭部を首筋を大きな手で撫でられてとても気持ちがいい。

 思わず蕩けそうになりながら、ハッと気付いてジェンセンはジャレッドを押し退けた。

「―何?」

 ビックリした様子のジャレッドに、手の甲でふたりぶんの唾液を拭きながら僅かに頬を染めたままジェンセンは俯いて言った。

「こ、こんな開放的な場所でキスしてて、…見られたら大変だろ」

 万が一海に出ている客や、開いているドアから入ってきた客室係に見られでもしたら。

そう思って言うと、

「大丈夫、誰もいないよ」

と言われて え?とジャレッドを見る。

するとジャレッドは冷静な顔をして淡々と告げた。

「ここは、僕の友達が所有してるプライベートアイランドなんだ。
 彼は今別の島にいるから、ここには僕とジェンセンしか居ないよ」

「だ、だってこのヴィラのスタッフとか…」

 困惑して問い返すジェンセンに、苦笑して子供を諭すような口調で
ジャレッドはそれに答える。

「係員達はさっき僕達が着くのを待って別の島に移動したから、
 本当に誰も居ないんだ。―3日間、この島の何処に行っても、
 僕達二人きりだよ」


 二人きり。

 そう言われて、突然ジェンセンは怖くなった。
 まともにジャレッドの顔を見ることができない。

「―ジェンセン?……もしかして、イヤだった?」

 不安そうに聞く、ジャレッドの声に、返す事も出来ず、ジェンセンは再び俯いて石のように沈黙してしまうしかなかった。














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