JaJe AU R-18

【 Private Islands 】











 そうして地元で落ち合った二人は、ジャレッドの計画によると、ダラスフォートワース空港からの直行便が無い為、一旦マイアミ空港まで行って、そこから更に乗り換えるという。

 マイアミと聞いてピンときたジェンセンが、もしかしてバハマのリゾートか?と聞くとまだナイショ、とジャレッドは返してくる。

 以前雑誌を見て、透き通るスカイブルーの海と珊瑚礁の島々に、カリブにいってみたいなーとつぶやいているのをジェンセンは聞いた覚えがあった。

 しかも乗ってみればマイアミまでの飛行機はファーストクラスだった上、マイアミからは小型のプライベートジェットをチャーターしているという。

 撮影関係の旅ではない為、勿論全てジャレッドの自腹だろう。


「おいおい、お前金遣い過ぎじゃないのか?」

思わず囁くと、

「大丈夫大丈夫!ジェンはそんな心配しないで大船に乗ったつもりでいてよ」

ささっ早く乗って!と他の乗り換え客のように数時間待つまでも無く、
搭乗口を抜けて小型ジェットに案内され、ジェンセンは微妙に心配になってくる。

 こいつは、多分この旅の金額も全部払うつもりでいるに違いない。

 さすがにジャレッドの体格的にも、状況的にもエコノミーにはもう乗れないけれど、ジェンセン的にはビジネスクラスでも全然構わないし、そんなにジャレッドにばかり金銭的に無理をして欲しいとは思っていない。

 同居し始めて、家賃を払うのだってすったもんだだった。

 恋仲になるまでは、いらないといいながら無理にでも差し出せば
なんとか受け取ってくれていたくせに、その後のジャレッドは、ジェンセンが何をどうしたって絶対に受け取ってくれやしなかった。

 “ここは自分の家だから家賃なんて必要ないんだし、大体好きな人にお金を払わせたくない”

というジェントルマンなポリシーは分かるが、ジェンセンは同じ男なのだ。

 しかも年上。もしかしたらジャレッドのほうが持っているのかもしれないけれど、でも自分も同じくらい稼いでいると思っている。

―ジャレッドにばかりそんな負担をかけたくないというキモチを、こいつはどうしてわかってくれないのだろう。

「どうしたの、ジェンセン?まさか酔った?」

 快適としか言い様の無い二人きりのジェット機内で黙り込んでしまったジェンセンに、ジャレッドがはい、と飲み物を渡してくれながら顔を覗き込む。

 いや、と返してドリンクを受け取る。

 サービスをするキャビンアテンダントの類が姿を現さないのは、ジャレッドが気を遣ったせいだろう。

 大丈夫だ、と口元で笑顔を作ると、ようやく笑いを返してくれる。

「行き先…聞きたい?」

 行き先を言わなかったのが不機嫌の理由だと思ったのか、恐る恐るというようにお伺いを立てられる。

 その耳を伏せた犬のような様に思わず苦笑してしまう。

 ジャレッドを前に、不機嫌で居続けられる奴なんていやしない、ずるいなこいつは、とジェンセンは内心で思いながら言う。

「まあ大体分かったし、いいよ。でも、お前南に行くんならせめてそう言えよな」

 俺の着替えは冬物ばっかりだよ、水着も持ってきてないし、と溜息をつくと、それは大丈夫!とまた満面の笑顔で返される。

“ これから行くとこはジェンと僕の二人っきりだから、水着なんていらないよ ”

 耳元で囁かれてひどくくすぐったい上に恥ずかしい。

 どういう意味だよ、二人きりでもヌードで泳ぐわけにいかないだろう、と思いながら誰もいないのにそのくすぐったさに身を竦めていると、くすくすと笑われて頬に軽く口付けられる。

 他に人がいたら、例えファーストクラスでもこんなことはできない。

 こんな風にできるのも小型プライベートジェットを確保してくれたジャレッドのおかげなのだと思うと少し感謝したい気持ちになった。

 旅行代を金で受け取るのがイヤだというのなら、何かこいつが欲しがっているもので同額くらいの分を渡せたらとジェンセンは思う。

 以前に時計を贈ったらものすごく喜んでくれていつも身に付けてくれているけれど、今度は一体何を贈ったらいいだろう。

 ジェンセンが常備されている雑誌を手にとってぱらぱらと捲っていると、ジェットが滑空し始める気配に、あ、と言ってジャレッドが自分のゆびさきに軽く口付け、ちらりと見ると、天井にそれを触れさすのが分かった。

 ジャレッドがよくやるおまじない。

 黄色信号の下で、飛行機の中で。

 何気ない顔をして、そっといつも欠かさず。

 何してるんだ、と聞いた事は無いけれど、一緒に移動する機会の多い二人は、互いのクセや仕草など、覚えてマネが出来るほど重なる時間が多い。

 安全を祈るおまじないなんだろうな、と思って特に聞かずにいるけれど。

 恋人になるまえから、離れて仕事をする時には、何故かジャレッドはジェンセンの手に冗談のようなフリをして口付けてくることがあった。

 アレが、ジェンセンの無事を願うおまじないだった事に気付いたのは、しばらく後の事で。

―それに気付いてから、ジェンセンはもっとジャレッドが愛しくてならなくなった。

可愛い、俺の年下の恋人。こんなに可愛いのに、ものすごく頼りになって、そして夜はどうしようもなくジェンセンを鳴かせる逞しい男になる――

 飲み物を飲んでいるジャレッドに、思わず見蕩れていたことに気付いて、ジェンセンはハッと視線を逸らす。

 自分自身の行動に溜息をつく。

 正直言って、きちんと自覚しないと周囲に駄々洩れなほどに。

 もうジェンセンは、ジャレッドに夢中だった。





 窓から下を眺めると、フロリダ半島を抜けて珊瑚礁の島であるベリー諸島が目に入る。ジェットはもうカリブ海の上を通っているようだった。

「もう少しで着くよ」

とジャレッドに言われて、その曇りの無い仔犬みたいな笑顔に、初めての二人きりの旅への期待に高鳴る胸を抑えながら、あぁ、と
ジェンセンは笑顔で返した。














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