JaJe AU R-18

【 Private Islands 】
13











 開いた窓から、入り込む柔らかな風に肌を撫でられ、ジェンセンは目覚めた。

 死んだようにぐっすりと眠り、もう辺りは既に明るくなっている。

 一緒に寝ていた筈のジャレッドが居なくて、たった1人で 広いベッドに残されていた事に気付き、驚いて 昨夜のようにジャレッドが一人で何処かに 行ってしまったのではないかと不安になった。

 とりあえず慌てて昨日脱いだバスローブを羽織って、前を急いで結び、 裸足のままベッドを下りるとうろうろと部屋を出てジャレッドを探す。

 まず確認したエントランスのキーボックスには、昨日とは違い、 車のキーがちゃんと収まっていてホッとする。


 そうして、テラスに出て海を眺めながらビールを飲んでいる ジャレッドの背中を見つけた。
 声を掛ける前に、気配に気付いたジャレッドが笑顔で振り返る。

「あ…おはようジェン!目覚めた?コーヒー淹れてあるよ」

 それともこっちにする?

 そういって持っていたビールのブラウンの小瓶を持ち上げて聞く。

 いつもならカフェインをとらないと全く目が覚めないジェンセンだが、
今日はジャレッドが飲んでいるそれがやけにうまそうに見えて、 じゃあビール、というとOK、と軽いフットワークですぐに取ってきてくれる。

 
 ビールを開けて、口に含む。
 過ぎていく潮風がとても気持ちがいい。

 そうしながら、自分は少しおかしい、ということにジェンセンは気付いた。

 隣でテラスの塀にもたれてビールをあおっている
ジャレッドは、いつもと同じ、全く変わらない普通の態度なのに。

 ジャレッドを見ると、昨夜の事を思い出すというだけでなく、 それ以上に、病に犯されたみたいに躰中の血管がどくどくと激しく脈打ち始める。

 心臓の辺りが疼くようなもどかしさがあって、むずむずと いてもたってもいられなくなるような、むず痒ささえ感じる。

 そんなジェンセンの様子に気付いたのか、 ふっとジャレッドは、こちらを見て笑い、少し目を逸らす。 そうして、唐突にぽつりと口を開いた。

「…なんかジェン、今日やたら色っぽく見えるんだけど…」

 気のせい?それとも僕の事誘ってる?

 そう、軽い口調で冗談混じりのように言われて、自分のおかしな衝動に 気付かれたのかと内心で息を呑む。

「…気のせいだろ」

 何バカなこと言ってるんだよ、とこちらも冗談ぽく返し。 全く気にしていない素振りで再び冷えた瓶に口をつける。

 誘っているつもりはなかったのだけれど、それがどうやら ジャレッドを呷るきっかけになってしまったようだった。


 クッションの付いたデッキチェアに腰を下ろした ジャレッドが、おいでよ、というので隣に座ろうとすると、 ジェンはこっち、と言われて脇の下に手を入れられて膝の上に 横抱きに座らされる。

 おい、と一瞬文句を言おうかと思ったが、ジャレッドが にこにこしているので、何も言えず、ジェンセンは思わず恥ずかしさに天を仰いだ。 

「ね、ジェン、それちょうだい」

 全く気にしていない様子のジャレッドを放っておいて、 気を取り直すようにビールを呷ると、飲み終えたらしい空の瓶を足元に置いたジャレッドが甘えたように顔を摺り寄せてくる。

 あぁ、とビールの小瓶を渡そうとすると、 そっちじゃなくてこっち、と言われてチュッとくちびるにキスをされる。

 そうして深く合わせた熱い舌に、口の中に僅かに残ったビールを吸い上げられる。
 吸われた舌から、一瞬動きを戒めるような甘い痺れが走った。

 もっと、と促されてビールを口に含み、それをジャレッドに吸われる。
 それを繰り返しているうちに、いつしかビールを飲ませるという 言い訳は必要なくなり、ただビールの苦味の残るくちびるを合わせ深く口付け合う。

 昨日あんなにしたのに、まだお互いの匂いに熱に、 存在にまでも発情している。

 荒くなる息を満足するまで絡め合い、膝の上で抱き締めたジェンセンの体を ようやく離しながら、ふとジャレッドが耳元で呟いた。

「ジェン、あのさ…ひとつだけ、聞いてもいい?」

 首を傾げてあぁと答えると、ジャレッドはまるでそれをずっと考えていたかのように、でも少し躊躇いながら口を開いた。


「…なんか考えてみると、君の以前のルームメイト達ってさ…
 理由つけて、突然ルームシェア解除したがること多くない?

 疑う、わけじゃないんだけど…」

 もしかして、なにかあったの?と聞かれ。

 ジェンセンはその問いに言葉を失う。
 確かに、ジャレッドとの同居のきっかけになったルームシェアの解消も かなり唐突ではあった。
 そこそこ収入のある友人が多い為に、2度とその場所に来ないのならともかく、多少別の場所に拠点を移すくらいのときならば部屋を借りた状態のまま行く事も可能なのだろうと思う。

 だが、それをせずに去っていった友人の行動は確かに不審を抱かれてもおかしくはない。

 今も、彼らとジェンセンの友人関係は、いい意味で続いている。
だからこそ、出来れば今ジャレッドには言いたくは無かった。


 問い詰めることなく、ただ応えを促すようにしてジャレッドは膝の上のジェンセンを見つめている。

 ジェンセンは、重い口を開いた。


「恋愛感情…みたいなものを、伝えられた。でも、大切な友人だけど、俺の側にはそういう気持ちはないって言ったら…

 キスしたいって言われて、それだけはした」

 舌も交わさない、本当に触れりだけのフレンチキス
 
 ―それだけだ。

 気まずそうにそういうジェンセンに、 ジャレッドは驚きを隠せない。


「…キス、させたんだ、…好きでもない男に?
 誰に?まさか、同居してた奴らみんな?
 皆、結局君の事狙ってたわけ?」

 呆然としたまま言い募るジャレッドを強く睨んでジェンセンは言い返す。

「そんな汚い言い方するな。恋愛感情はないけど、彼らは大切な友達なんだ」

 汚いものを知らないかのような澄んだヘイゼルグリーンの瞳に、ジャレッドは無性に怒りを覚えて膝の上から隣へとジェンセンを下ろし、
 怒りを押し殺すようにくるりと背中を向けて冷ややかに言う。

「君とセックスしたいって思ってる男にキスさせるのってどういうことかわかってる?」

 きつい言葉を吐くジャレッドをジェンセンはじっと見つめた。











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