※ご注意です※
以下はJA/JEの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

※R-18要素を含みます※
【 Tempest 】


(中略)





 ありがとう、と言って車を降りる。


 サマンサに教えてもらった住所と、ジムの運転のおかげで、一ヶ所寄り道をしたあと迷うことなく着けた。

 ジャレッドの家は、その周辺では小奇麗な、小ぢんまりとした煉瓦造り風の古びたアパートメントだった。

 夕暮れ時のダウンタウンの外れはまだ子供が遊んでいる姿も見受けられ、そう治安が悪いわけではないようだ。

だが用心に越したことはなく、ジムに用が終わったら電話すると言い置いて、躊躇いながらジェンセンはジャレッドの部屋のある3階へとエレベーターで上がった。鍵無しで部屋まで上がれてしまうなんて、指揮者だから楽器は無いにしてもセキュリティは大丈夫なのだろうかと心配になってくる。

 ドアの前までたどり着き、インターホンの前でゆびを出しては引っ込め、なんと言ったらいいのか散々悩んだ挙句、ジェンセンはゆっくりときしむそれを押した。

 ブーッという鈍い音がして、部屋の中でうごめく気配がする。しばらくしてかちりと音がし、チェーンが掛かったままジャレッドが顔を見せた。

 Tシャツにハーフパンツと言う部屋着に着替えたラフな格好のジャレッドは、ドアの前に立ったジェンセンを見下ろした。

「……なに?」

 冷たく言われ、返す言葉を持たないジェンセンは、思わず俯いて黙り込む。何をしに来たのかと言われたら、それはジェンセン自身が知りたいくらいだった。

 気配を感じて視線を上げると、ジャレッドは手に持っていたビールの瓶を呷っている。

 一気に飲み干すと、空になった瓶を気のなさそうに振って、「用もないのにこんなとこまで来たの?」と呆れたように言われる。全く、その通りだと思った。

「それ、なに?」

 手に持った箱を指されて、だが、緊張に上手く声が出ない。

 虫の鳴くような声で、「ケーキ、…」とようやく言うと、ふうん、とまるでつまらなそうに言われて泣きたくなる。

 ジャレッドがいつも部屋に来るとき持ってきてくれるケーキやシュークリームは、全てジェンセンの好みにあっていて美味しかったし、気遣いが嬉しかった。だから、ジャレッドも喜んでくれるのではないかと、そう思って昨日カーに連れて行かれた店でわざわざ並んで買ってきたのに。もう帰ったほうがいいのかもしれないとジェンセンが更に俯きを深くすると、金属が触れ合う音がしてドアが開かれた。

「入れば?」というジャレッドの言葉と共に、あごで入室を促される。

 歓迎されてはいないことだけは理解しながらも、ジェンセンは拒否をすることも出来ずにおずおずと室内へと足を踏み入れた。

 ジャレッドの家は1ベッドルームに小さなキッチンの付いたリビングルームのある部屋だった。古いが思ったより中は広く、室内も綺麗だ。片側の壁に作り付けられた天井まである棚にはびっしりと楽譜やCDらしきものが詰まっている。下の段のほうに立ててある大きなものは、何かと思えば古いレコードのようだった。

 思わずしげしげと眺めていると、「ビールしかないけど」、と言われて促されるまま冷えた瓶を受け取る。

 自分の分を開けてまた一気に呷っているジャレッドを困惑した表情で見ていると、ちらりとこちらに視線を向けるから慌てて口を付ける。

途端、キツイ炭酸と苦味に、ジェンセンは思わず噎せて咳き込んだ。

 ごほごほと苦しんでいると、びっくりした様子のジャレッドが背中を叩いてくれる。

「…まさか、ビール飲んだこと無いなんていわないよね?」

 と冗談ぽく言われ、その通りだとも言えずにジェンセンはどうにか整えた息で、涙ぐんだ目尻を拭った。

「……君ってさ、一体どういう生活してきたわけ?」

 呆れたように言われるのが悔しくて、だが、間違ってはいない疑問に反論もできない。自分がおかしいのは確かだ。それは分かっている。でも、ジャレッドにはそんな風に言われたくなかった。

 座れば、と促されてベッドに腰を下ろし、居た堪れない思いでぼんやりしていると、香ばしい香りと共にはい、とマグカップを手渡される。わざわざコーヒーを淹れてきてくれたようだった。

「この店、今人気なんだってね。…カーが昨日、君と行って盛り上がったってみんなに自慢して回ってた」

 フローリングに腰を下ろしたジャレッドは、テーブルの上のケーキの箱を開けながらぽつりと呟く。

 美味しかった?と聞くからこくんと頷く。

 楽しかった?と聞かれて躊躇いがちに首を振った。

 何か言いたいのに、うまく言えずジェンセンは唇を噛む。

ジャレッドとアパートで食べたケーキのほうがずっと美味しかったのだといいたい気もしたが、媚びている様で言えなかった。伝えたい言葉は、そんな類のものでは無い気がしたからだ。

 箱の中には、昨日ジェンセンが食べた店の一番人気のザッハトルテと、新商品だというカフェオレ味のシュークリームが二つずつ入っている。

 昨日ジェンはどっちを食べたの?と言われ、こっち、とチョコレートケーキのほうを指す。

「じゃあそれ、食べさせて」

と言われて、ジェンセンは首を傾げる。

 冗談を言っているのか思っていると、ジャレッドは真面目な顔をしている。どうやら本気のようだ。

ジャレッドは何故こんなことを言い出したのだろうと戸惑いながら、「フォーク…」というと、「手でいいよ」と言われて促され、良く分からないまま側面に巻かれたビニールを外しておずおずと差し出す。

 上品な大きさの三角形の、三分の一ほどをジャレッドの真っ白な歯が齧っていく。もぐもぐしながら、

「ほんとだ、美味しいね。胸焼けしそうなくらいチョコがこってりしてて濃厚だけど」

 ふうん、とまるで観察するように言いながら飲み下したジャレッドは、困惑したままのジェンセンを促すように見てまた口を開ける。

 差し出すと噛み付く。ベッドに腰掛け、床に座り込んだジャレッドにジェンセンはケーキを与え続ける。理解し難い状態に居た堪れず、次の指示を待つようにジャレッドを見つめるしかない。

その謎の餌付けのような行為の繰り返しで、いつしかケーキはあと一口分と少しくらいになっていた。

 甘さを消したくなったのか、自分の分のコーヒーを飲み干して、ジャレッドは残りのケーキに噛り付いた。

 途端びくりとジェンセンの躰が跳ね上がる。

 ジャレッドは、残りのケーキと共に、それを掴んでいたジェンセンの指を口に含んでいた。

 慌てて引こうとすると、手首を掴んで止められる。ケーキ混じりの熱い咥内に、吸い付くようにねっとりと人指し指を吸い上げられ、ジェンセンは予想もしなかったジャレッドの行為に、目を見開いて息を呑む。

 口の中に残ったケーキを飲み込んだジャレッドは、ケーキとクリームのブラウンに塗れたジェンセンの指を舌を出して丁寧に舐めていく。

指の節をチュッと音を立てて吸われる。伸ばした舌で指の股を執拗に舐められてくすぐったさに身を竦めるが、目を伏せて熱心にその行為を行うジャレッドにどうしても止めてくれとは言い出せない。

ちらりと視線を寄越した瞳は怖いような欲に濡れ光っている。いつもの陽気な大型犬にも似た様とは打って変わってその目はまるで飢えた獰猛な獣のようだった。

 ゆびを根本から先端までゆっくりと舐め上げられたかと思うと、全体を含まれてきつく吸い舐られる。アルコールのせいなのか恐ろしく熱いジャレッドの舌のざらりとした感触に、気が遠くなりそうになる。

「ジャ、レ……」

 手を、離してくれ。

 そう言いたいのに、止めて欲しいはずなのにどうしてもジャレッドを引き剥がすことが出来ない。

 ひとしきり舐めまわして満足したのか。ゆびさきにつうっと舌を這わせてジェンセンを身震いさせたあと、ジャレッドはやっと手を離してくれた。ようやく息を吐く。

 指を舐められていただけなのに、ジェンセンは完全に頭に血が上り、既に息も絶え絶えだった。

だからジャレッドに、「僕のもして?」といわれたとき、ジェンセンには全くその意味が分からなかった。

指をくちびるにそっと触れさせられて、同じ事を求められているのだと気付いたとき、ジェンセンはゆびにくちびるをゆっくりと割られ、促されるまま開いてジャレッドの指を含んでいた。

どうしていいのか分からず、長いゆびを咥えたまま困ったようにジャレッドを見つめる。すると口腔に含んだ指は、ジェンセンの舌を確かめるようにゆびさきで押し撫でてくちゅり、と擦り始めた。

「ン、ぐ……ッ」

喉の奥まで差し込まれてえづきそうになると指は引き抜かれ、また押し込むときには二本に増えている。柔らかな舌の感触を愉しむように二本の指で揉み込まれ、爪で軽く抓られ、その痛みにジェンセンは目を潤ませた。

今日のジャレッドは、今までとは別人のように意地悪だった。

 怖い目で射るように見つめ、幾度か抜き差しを繰り返したあと、唾液で濡れたゆびでジェンセンのくちびるを辿る。

もう一度名残惜しそうにくちびるを割って差し入れ、たまらなくなったようにジャレッドはジェンセンのくちびるから一気に指を引き抜いた。

「ふ、ぁっ」

 乱暴さに驚いて一瞬咳き込み、慌てて手の甲で濡れた唇を拭うと、ジェンセンはうろたえてジャレッドをおずおすと見た。ジャレッドは、怒ったような顔でジェンセンを見上げている。

「…なんで、僕の言うことなんでも聞くの」

「なんでって、だって、お、お前が、……」

「昨日は僕のこと振ってカーといったくせに。彼とうまくいかなくなったら僕?舐めろって言われたら誰の指でも舐めるわけ?」

 ジャレッドが叩きつける言葉の暴力に、耐え切れなくなって逃げるように身を竦める。

言うがままにしたのはジャレッドに嫌われたくなかったからだ。カーになんて興味も無い。なのにありもしない誤解をしてジャレッドはジェンセンを責める。違う、と言いたかったが、言ってどうなるのかと既に気持ちは諦め始めていた。

 もう帰る、と言いたいのに昨日のようにうまく言葉が出ない。カーとジャレッドは違う。けれどどこが違うのかは自分でもわからない。ただ、二人は同じようにケーキにと誘ってきても、同じものを共に食べても、ジェンセンにとっては感じる空気そのものが全く違っていた。

 外は日が落ち掛け、薄暗くなってきた室内で、ライトも灯さずにジャレッドは、僅かに語調を和らげて言った。

「どうしてここまできたの」

「………わからな、い」

 震えそうになる口元に手をやる。本当に、どうしてこんなところまで来てしまったのだろう。呼ばれても、求められてもいないのに。むしろ明らかに迷惑がられている。ジャレッドに出逢ってからの自分はおかしい。ジェンセンは自分自身の気持ちが、全くわからなかった。

 その両手首を奪うように唐突に、ぐいっと握られる。

「教えてあげようか?」とジャレッドは苛立った声で意地悪をするように囁いた。熱い息が頬に掛かる。

 恐れをなして、いいというように緩く首を振ったジェンセンを無視して、ジャレッドは耳元に塗りこめるようにして断罪するように告げた。

「君は、僕のことが好きなんだ」

 言われた言葉に驚愕して息を呑む。まさか、ジャレッドがジェンセンのささやかな想いに気付いているとは思わなかった。

 額が触れそうな近さで、ジャレッドはジェンセンを睨むような視線で射抜く。あのとき蕩けそうに優しく見つめた瞳は、まるで食い殺したいとでもいうかのように激しくジェンセンをねめつけている。その視線の強さにジェンセンは震えた。

更にジャレッドはジェンセンを苦笑を含んだ冷たい笑みで追い詰める。

「毎日、キスしても怒らなくて、僕の持ってったもの何でも喜んで食べて…僕のこと、あんな色っぽい目で見つめて。気付かないはず、ない」

 君は僕に夢中なんだ、そうだろ?と息が触れそうな距離で言われ、首がもげそうなほどぶるぶると強く頭を振った。

 ジェンセンがジャレッドに感じた気持ちは、そんな簡単なことばで言い表せるほど浅く、安っぽい気持ちでは無いように思えた。

 首を振るジェンセンにむっとしたのかジャレッドは更にジェンセンを追い落とす。

「キスをした理由は、君がして欲しそうだったからだ」

 目を見開く。そんな理由だったのか。だがジェンセンはそんなことを頼んではいない。怒りたかったし、いくら酔っていてもジャレッドの言い草は失礼だと思った。だが感情の吐き出し方を知らないジェンセンの怒りは涙に変換されて視界は見る間に歪んだ。

「……、ぶ」

「え?」

「ぜんぶ、…俺のせ、なの、か…」




 くちびるを震わせ、怒りを堪えて言うジェンセンの言葉に、ジャレッドは一瞬息を止めて喉を鳴らした。

 眼鏡越しにも、目のふちに溜まった涙の粒は今にも零れそうに膨らんでいく。だが、泣き顔を決して見せるものかと言うように頑固なジェンセンは瞬きを我慢している。

 薄闇に光るその煌きに、ジャレッドは全身が吸い寄せられるような引力を感じた。震える濡れたくちびるに怖いくらい欲情をそそられる。

このくちびるに勃ち切ったペニスを擦り付けてやりたい。泣いて嫌がるくらい口腔を深く犯して、小さく締まった尻をお仕置きだと言って叩いて汚いものを知らない彼の全てをめちゃくちゃに踏み躙ってしまいたい。

アルコールのせいか、いつも守ってやりたいと庇護の念に駆られるひっそりと日陰に咲いた花のような彼の弱さが、今は嗜虐心だけを煽る。これで誘っていないというのならば彼は罪作りだ。一回のお茶で振られたカーにも内心で同情した。


 そうだ全部君のせいだ。

見ているだけでこれほどまでに発情するのも、カーに持っていかれたことに馬鹿みたいに動揺して、あんなめちゃくちゃな指揮をしてしまったのも。みんな、君が。君が全身で僕を誘うから。そう言ってしまいたかった。

けれど、ジャレッドはもう自分にも彼にも嘘をつくことはできなかった。



「違う」

ジャレッドの言葉に、ジェンセンは喘ぐように息をしてゆっくりと目を向けた。

 視線が絡むとジェンセンは肩を震わせて逃げるようにそらす。もう一度「違う、君だけのせいじゃない」とはっきり言うと、おそるおそる揺らいでいた視線を上げた。


 射るように見つめるジャレッドの視線に、触れられてもいないのに何かに縛られているように身動きひとつできなくなる。

「僕が、君のことが好きだからだ」

 そう言うジャレッドの顔は怒ったような顔から、情けなく、まるで怒られた子供のような表情に変わったのがジェンセンの見開いた目に映った。

「好きになったんだ、君のこと。くそっ、…こんなこと言うつもりじゃなかったのに…ッ」

切れ切れに言うジャレッドはケンカに負けたわけでもないのに悔しそうで、まるで想いを告白する表情とは思えない。

 好きだと告げることは、ふつうもっと甘い雰囲気の中で行われるものではないのだろうか。

 混乱した頭のまま考えるジェンセンの手を、もう一度ジャレッドはとる。

 さきほどのクリームを舐め取るためだけのような緩慢な舐め方とは打って変わって、ジャレッドは激しくジェンセンの手を攻めた。

 舐められているのは手のはずなのに、まるで性器を直接弄られているような錯覚をおぼえる。

痛いくらいに手を熱心に愛撫され、ジェンセンはようやく理解した。自分がここまで来たことの理由を。


 ジャレッドに会いたかった。顔が見たかった。

 昨日食べた美味しかったケーキを食べてもらいたかった。笑顔が見たかった。声を聞いて、そして頬に、くちびるに。

キスをして欲しかったのだと。

ジェンセンは、ようやく気付いた。

もうどうしようもなく。

自分は、ジャレッドが好きなのだと。










(一部抜粋)







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甘々度120%哀60%@っち度95%となっております(当社比
じゃれは仔犬の着ぐるみを着た変態度満載の猛獣です。
笑顔の下は真っ黒でございます。