※ご注意です※ |
以下はS/Dの妄想小説です。 意味のわからない方、興味のない方は、 ご覧にならないようにお願い申し上げます。 ※R-18要素を含みます※ |
【 Happily ever after 】 |
(中略) その店は端的に言うと「あたり」だった。 そこそこの客入りの店内は天井が高く小奇麗で、手前がバー、奥がダイナーになっているようだ。 バーカウンターに腰を下ろしたディーンの前に、すぐに赤いシャツに黒いミニスカートの制服を身に着けたウェイトレスが現れた。ブラウンのセミロングの髪が肩の上で踊る、セクシーな身体つき。こんな田舎にしては勿体ない美人だ。思わず眠っていたかのような雄の欲望を刺激されてにんやりと頬を緩ませる。 「ハイ、この店は初めて?」 「あぁ、なにかオススメはある?」 メニューを受け取りながら言うと、彼女はにっこり笑ってカウンターの奥で回転するガラス越しのグリルを指差した。 「うちの店の自慢は自家製フランクフルトよ。オーナーが裏の農場で作ってて、これと地ビールの為に、わざわざ他の州から足を運ぶお客さんもいるくらい」 「美味そうだな。じゃあそれと、地ビールを」 素直に頼むと、「ひとり?」とついでのように聞かれる。 「あぁ。何故?」 「入って来た時、ボックス席を見ていたから、これからお連れ様が来るのかと」 なんとなく、サムと一緒の時のクセで、ボックス席の空きを見ていたのに気付かれていたらしい。すぐに一人だった事を思い出してカウンターに陣取ったのだが、苦笑して首を振った。 「いや、違うよ、連れとは…」 もう別れてきたんだ。そう言おうとして、次の瞬間、ぞっとするほどの寂しさが背中から這い上がって来た。 単に別行動をしているだけではない。自分はもう、これからサムとボックス席に座ることもなく、待つことも待たせることもなくて永遠に一人きりで食事をするのだ。 口籠ったディーンの沈黙をどうとったのか、ウェイトレスは「…悲しいことがあったのね」ごめんなさい、と呟くとそっとディーンの手の上に指先で触れた。 思わず捨てられた仔犬の様な気分で見上げると、聖母の様な笑顔で同情心たっぷりに微笑んだ彼女は「一杯目は私のおごりにしておくわ。くつろいでいって」と軽くディーンの手を撫で、カウンターの奥に向かった。 程無くして届けられた香ばしく焼かれたフランクフルトは美味かった。マスタードも自家製だというそれをふーふー冷ましてから頬張っていると、ブレンダ―先程のウェイトレス―が暇を見ては話し掛けてくれる。 よほど寂しそうに見えたのか、それとも単に好みだったのか。次に来たビールのお変わりと共にコースターにはTELナンバーが書かれていてにやついた。どうやら棚ボタ的に今夜は一人にならなくて済むらしい。 しかし、昨晩もサムとシたし、そもそも女相手は恐ろしく久し振りだ。俺、まともに勃つかな、ていうか、どうやってやるんだっけ、と真剣に悩みながらももぐもぐ食べていると、ふと隣に人の気配を感じた。 「おいしそうだね」 耳に入った声に、ぶほっと思わず咽せそうになる。驚いて振り向くと、そこには。 「しゃ…しゃむ!?」 「それ、フランクフルト?」 口に咥えたまま呆然と頷くと、サムはやってきたブレンダに「僕にもこの人と同じものを」と注文している。 よいしょ、と隣りのスツールに腰掛けるサムは、激怒してもいなければ、まるでここで落ち合う約束になっていたかのように自然な態度だ。 「買い物は済んだの?」 頬張ったぶんを咀嚼することもできずにほっぺたを膨らましたまま呆然とサムを見つめていると、何気なく聞かれて「へ?」とうろたえる。 「だから、買い物。なんか探してて、こんなとこまで来ちゃったんだろ?でも心配するから、遠出するんなら一言言ってからにしてよ」 「あ、あぁ、わるかった…」 良く分からないまま謝り、早速届いたフランクフルトをアチ、と言いながら頬張っているサムを見つめる。 謎なのだが、どうやらサムにはディーンが彼のもとを出奔しようとしたことはまだ伝わっていないらしい。 悲壮な決意をして出てはきたものの、考えてみればサムと別れてからまだ数時間で、今はまだ日付も変わっていない。置き手紙もなく、はっきりと別離の意思を伝えたわけでもない。バレないようにと着替えなどの荷物はランドリー行きと称してトランクに突っ込んだままにしてあるが、共同の荷物はモーテルに置いたままだった。 だが。 激怒されるよりはいいのだが、なんだか腑に落ちない気分でむぐむぐと残りのフランクフルトを食べる。ふとこちらを見たサムが苦笑して指を伸ばしてきた。 「付いてるよ」 口の端に付いていたらしいマスタードを指ですくわれ、サムはそれを何気ないしぐさで口に運んでいる。 悪い、と言おうとして、通りかかったブレンダのハトが豆鉄砲を食らったような視線に我に返った。明らかに今の行動はゲイカップルっぽい。 「おっ、おい、お前、こんなとこで―」 「あーはいはい、でもゲイって思われるより子供みたいに口汚したままのほうがずっと恥ずかしいだろ」 全く気にしていない様子でビールに口を付けるサムの横を、ブレンダがぎこちない笑みで通り過ぎていく。 今夜は終わった、とディーンは肩を落とした。 自棄になってビールを追加し、呑気にフランクフルトを齧っているサムを横目に、更にバーボンのダブルをストレートで半ばがぶ飲み気味に空けた。 「足ふらついてるよ」とサムに心配されながらも、振り払ってよろよろと立ち上がった帰り際。 擦れ違いざまのブレンダに「彼が迎えにきてくれて良かったわね」と小声で言われて、誤解だ!と言いたいのに言えず。引き攣った笑みに飲み過ぎてたぷたぷの腹とくらくらの頭で店を出る。 予想外にも今夜は一人にはならなかった。しかも想定外なことに連れはサムだ。だが、別れの期限が先延ばしになって嬉しいのか、せっかくの計画が頓挫して悔しいのか、なんだかよくわからない。 会計を済ませて追い掛けてきたサムはやたら大きな荷物を二つも肩に担いでいる。 怪訝に思って見ると「前のモーテルはチェックアウトして来たんだ」と笑うから、へえ、と眉をあげてインパラのキーを開けてやった。 なんか変だ。 そう思いながらもとりあえず運転席に座ろうとすると、「飲み過ぎだよ」と一本しかビールを飲まなかったサムにあっさり助手席に押しやられる。 何が変なのかに気付いたのは、近くに感じの良さそうなモーテルを見つけてチェックインし、サムがバスルームを使っている時だった。 飲み過ぎて重たい腹を擦りながらベッドに伸びる。 結局、なし崩しにサムとまた行動を共にしてしまった。 だがやっぱり、何か腑に落ちない。大体サムは、どうやって自分が呑んでいたあの店を見つけたのだろう。 インパラがあったからと言われればそれまでだが、そもそもどうしてディーンがこの街まで来たことを知ったのか。 あんなにすぐに見つかったところを見ると、ディーンがサムと泊まっていたモーテルを出てから、一時間も経たないうちにサムは物凄い勢いで追い掛けてきたことにはならないだろうか。 置いてきぼりにされたことに気付いていない筈はないのに、サムは何故だか怒ってはいない。普段なら襟首をとっ捕まえられ、懇々とお説教をされているところなのに。 なんかヘンだ。ヘンだろ、なあ、サム? ぼんやりした頭のままうとうとしていると、Tシャツにスウェット姿のサムがバスルームから出てきた。 「ディーン、せっかく部屋とったんだから服のままで寝るなよ」 叱られて、それでも身体が重くて動けず、とろとろに溶けた頭でよくわからないままサムのほうを見上げる。 「なー」 「うん?」 「お前、どうやってここまできたんだ?」 聞かれると唐突にサムは顔を顰めた。 「ヒッチハイク」 ふうん、と頷くと、大変だったんだからね、とぶつぶつ言いながらサムは、ディーンの靴を脱がせ、足を上げさせてジーンズを引っこ抜き、はい、ばんざい、とシャツを脱がせてディーンをTシャツとボクサーパンツだけの姿にさせた。随分長い間サムに世話をされていたから、される方もする方も慣れきっていてお手の物だ。 「ディーン」 服を椅子に掛けたサムがベッドの端に腰をおろして見下ろしてくる。瞼が重くなって薄くしか開けない。 「あのウェイトレスと、したかった?」 聞かれて、ぼんやりとサムを見上げた。サムはどこか苦しそうな顔をしている。 「コースターに、TELナンバー書いてあったろ。ナンパされた?」 「あー、あれ…でも、お前、迎えにきたし」 「じゃあ僕が来なかったら、してた?」 「どうかな…おれ、まだ、ちゃんと女とできんのかな…」 酔いに任せて、ぼんやりと情けない本音が漏れる。 もう随分と長い間女とは寝ていない。当たり前のようにサムと抱き合ってばかりいる。馬鹿デカイものを後ろで受け入れることは随分慣れた気がするが、自分のモノを使うセックスはすっかりご無沙汰なので、満足に機能するかどうかは正直言って本当にわからない。 常にサムがそばに居て、サムと寝て、それに慣れ切ってしまった。欲望を感じた時、サムとしたい、あれを突っ込んでめちゃくちゃに突いて欲しいと思う事はあっても、女とやりたいと思う衝動を感じることはもうかなり稀だった。いまでもゲイになったつもりなど全くないのだが、これってどういう状況なんだろうなとぼんやり考える。 例えサムが現れなくとも、あの時、店でブレンダに相手をしてもらってしばらく呑めば、それだけで満足して彼女のナンバーには掛けなかったような気がする。失敗するのが怖いというのもあるが、それ以上に。 どこか哀しそうな顔で覆い被さって来たサムは「しなくていいよ」とぽつりと呟く。 「僕がするから、もうディーンは女なんて抱かなくていいんだ」 言われて、ふと視界が暗くなり、降りてきた口付けに大人しく目を閉じる。 そっか、サムがしてくれんなら、まあいいかな アルコールで蕩けた頭のせいかすんなりとそう思う。あのくらいの量で酔う筈がないのに、しばらくの禁酒生活で随分酒に弱くなった気がする。眠気に包まれた頭を抱え込む様にして覆い被さったサムの、薄いくちびるが柔らかく舌を食む。鼻息が頬にかかり、サムが興奮しているのがわかって頬が緩む。 吸い上げられる舌が気持ちが良くて、舐め回すサムに力を抜いて全てを明け渡す。投げ出した手を掬いあげられて絡め取るように握られる。熱いサムの体躯に全身を押し潰されていく。 例え酒でうまく勃たなくても、サムは笑ったりはしない。違う方法で気持ち良くしてもらえるから萎えたままでも平気だ。 隠している弱さも、抱えている痛みも、何もかもを知られているサムになら。どんな恥ずかしいところも、情けないところも、弱いところの全てを預けてしまっても、恐ろしくはなかった。 (一部抜粋) -------------------------------- ※兄弟は間近でお互いをガン見しすぎていて、相手が自分を見つめていることに気付いていないと言うかそんなはなし。 |