※ご注意です※
以下はSPNのS×D SSです。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。




※R-18/シーズン4の6話目のネタバレを含みます※
【 : Anything you want : 】
SW EP6 Yellow Fever





「サ、サミィ」

 夜半にそろそろと布団越しに揺すられて、サムはハッとして目覚めた。

 薄暗いモーテルの部屋の中、何が起きたのかと慌てて身を起こせば、ベッドの脇にしゃがみこんだディーンはぎょろりと目を見開いて不安そうにこちらを見上げていた。

 かしかしという小さな音が聞こえて、反射的に「掻くな」と叱るとぴたりと音が止まる。

 普段ならそんな命令口調をすれば、倍以上の勢いで兄の威厳を保つべく皮肉な文句が返るものだが、今のディーンはそんなことを思いつく余裕もないらしい。


「…どうしたの?」

 何もいるはずのない周囲をびくびくと伺っている様を不安に思い問い掛ける。なぁ、とおびえた様子で口を開いた。

「バスルームが、暗いんだ」

「…電気、点かない?」

 今夜の宿は街道沿いの安モーテルの為、電球でも切れたのかと思ってそう聞くと、そうじゃないと首を振る。

 じゃあ電気を点ければいいじゃないか。そう思ってふと、まさか、と恐々聞く。

「もしかして…、怖くて一人でトイレに行けないとか?」



 まさか、そんなバカな。


 どんな悪霊だろうがモンスターだろうが恐れることのない筈の、タフガイで慣らした百戦錬磨のこの兄が、そんな。

 そう目を疑っていると、一瞬否定しなければと思ったのかぎゅっと顔をしかめたディーンは、だがここで虚勢を張っても何もならないことに気づいたのかこくりと情けない顔で頷いた。

 ―なんてことだ。

 途端、サムはがくりと肩を落とした。


「サミィ、我慢できねえ…」

 ふるえる声で、も、漏れる…というディーンの縋るような目線に、何も言うことができず、サムは無言でベッドから降りるとディーンを促した。


 時計を見れば、ベッドに入ってからまだ三十分ほどしか経っていない。眠い筈だ。

 バスルームの電気を点けてやり、念の為不審なものがないかーあるわけもないのだがーを確かめてから、バスタブの脇に備え付けられたトイレの脇まで行ってご丁寧に便座の蓋まで開けてやる。

 こいよとあごで促せば、限界まで我慢していたらしく、ディーンは猫背でよたよたとついてきた。明るいバスルームにほっとしたのか、トイレの前にたつと急いでごそごそと前をくつろげだす。が、背を向けたサムにぎょっとしたような声を上げた。

「おい、どこに行くんだ?!」

「ドアの前にいるから」

 小用を足そうとする兄を眺めているわけにも行かないだろうとそういうと、ディーンは「サム…」と泣きそうな顔で見つめてくる。

「…まさか、僕もここにいたほうがいいっていうわけ?」

 そんなわけはないだろう。ダイナーのトイレで打ち合わせがてら、時間短縮のため調査の話をしながら一緒に並んで用を足すのとはワケが違う。

 そう思いたいサムの強ばった眼差しに、こくこくと頷くディーンの情けない顔が映った。

―ありえない。一体自分が何を要求しているのか、分かっているのだろうかこの兄は。

 わかってない、と思いながらも絶望的な気分でサムは頷いた。

「…わかった、ここにいる」

 さっきまで眠っていたサムには、この状況が悪夢としか思えない。

 とっとと済ませろよ、とため息をつく。と、安心したようにディーンは、本当に漏れそうなのか慌てて開けたボクサーパンツの前合わせからごそごそと自分のものを取り出した。

 恐怖の感情を増幅するウイルスに感染している今のディーンには、弟に見られながら排尿をするという行為への羞恥など二の次らしかった。

 絶望的な気分でバスルームの入り口にもたれて見ているサムの目に、下着から取り出された兄の淡いピンク色の性器が映る。

 うつむいたディーンの鼻から、ふ、と小さな息が漏れる。じょろ…という水音と共に、よほど我慢していたのか勢い良くディーンのソコは尿を吐き出し始めた。

 自分のものを支えて排尿をしながら、不安なのかちらちらとディーンはサムに視線を寄越す。

―いったいこれは何のプレイなんだ。

 性器だけを卑猥に晒して、ふつうは一人で行う行為を弟に見守られながら、それでも一応は恥ずかしいのか目元を染めて不安そうにディーンは縋るようにサムを見つめてくる。

 そんな奇妙な状況のなかで、相反する異常なまでの儚い艶めかしさを醸しだす、いつになく頼りない様子の兄から目を逸らすこともできず。サムは堪えきれない溜息をもらした。

 余程我慢していたのか、サムの感覚上か、水音は長く続いた。

 最後にちょろ…と小さな音を立て、ぶる、と小さく体を震わせるとディーンは、用を終えたそれを軽く振ってボクサーパンツにしまい込んだ。水を流すと、その大きな音にすら怯えて慌ててサムの方へ寄ってくる。

 腕に触れようとするのを拒否して身を引く。

「手を洗えよ」

 どういう状況なのか理解しがたい事態に眉間を抑えながらぞんざいに言うと、急いで言うことに従う。

 ディーンがバスルームから出たのを確かめてから、電気を消し、ドアを閉めてすたすたとサムはどさりと転がるようにしてベッドに戻った。

 起きる前より、なにかやっかいなモンスターを倒した後のように疲れきっていた。

 すると、まだ怖いのか腰の引けた姿勢でよたよたとベッドサイドまで近付いてきたディーンは、何故かサムのベッドの布団を持ち上げて潜り込もうとするのにぎょっとして起き上がる。

「なんだよ、兄貴のベッドはあっちだろ!」

「い、いいだろ、今日は一緒に寝ても」

 な?とおどおどと周囲を見回しながら必死に希うディーンには、他意はないらしい。

 抱きつくというほどでもなく、体をぴったりと沿わせてほっと息をついている。

 だが、サム的にはそれはとてもよろしくない。ある意味拷問だ。

 深い溜息をついてベッドに起き上がる。追い出されては大変だというように許可を得る前にすっかり布団に潜り、目元だけを出したディーンはぎょろりとした大きな目をサムに向けた。

「ディーン。一緒のベッドで寝るんなら、僕はセックスしないではいられない」

 あぁなんでこんなことを言わなければならないんだ、とサムは自分の口から出た言葉に最悪の気分で落ち込んだ。




 ディーンが恐怖で人を殺すウイルスに感染したらしい、解剖立ち会いをしたその夜。

 調査の途中であるから勿論最後までするつもりはなかったが、夜眠る前に慰めにキスを求めたサムに、ディーンは信じられないと言うような顔をしてこう言ったのだ。



『そんなことできるわけないだろ』


弟とは、ふつうマウストゥマウスのキスはしないもんだ、と真剣な顔をして。ほんの数日前に、枯れるまで名前を呼び、白い汗まみれの足をサムの逞しい腰に絡めてもっとしてくれ、と甘く願ったのと同じ口で、ディーンはそう言い放ったのだ。

 恐ろしい、罰が当たる、あんなこと、間違っていたんだと。

 兄弟で躰を合わせている。

 だがそれは、互いの同意の上でもあり、そして互いのどうしても殺しきれないほど焦がれた望みでもあった筈だった。

 ウイルスのせいだったのだろう。

 今ならば分かる。だが、そのときはまだわからなかったそれはまるで、ディーンの本心を垣間見たような気がしてしまい、サムはとても傷ついたのだ。

 結果、原因が分かってほっとしたのも束の間、ディーンはサムから片時も離れず、どうしても行きたくない場所に行くとき以外は留守番すら嫌がってサムにひっついて回っている。それこそトイレにまでついてくるので、抜く時間すらない。

 セックス、という言葉を聞いてディーンは一瞬きょとんとした目をした後、冗談だろというようにぶるぶると首を振った。

 溜息をついて、サムはベッドから降りると立ち上がった。おもむろにTシャツを脱ぎ始めるとぎょっとしたようにディーンが起き上がる。

「な、何してるんだ?」

「出かけてくる」

「こんな時間にか?!」

 狩りをするときには時間の常識など兄弟にはなかった筈だったが、今のディーンには午前三時は外出には常識外の時間らしい。

 ジーンズを履こうとすると、ディーンの手が止めるようにサムの腕にかかった。

「危ないからいくな」

「…怖いからいかないで、の間違いじゃないの?」

 素直にそう言ったら、と冷たく突き放すと、口をとがらせたディーンは、そんな言い方をされても頷いた。

「でも、同じベッドで眠るなら僕は兄貴を抱くよ」

サムの手を掴んでいる指がぴくりと震える。


「一人でこの部屋で眠るのと、僕とするの――どっちのほうが、こわい?」











(一部抜粋)







--------------------------------
…本の方は、こういうギャグっぽい展開よりはむしろさみしかったりかなしかったりする系のほうが多いような気がします。