※ご注意です※
以下はJA/JEの妄想小説です。
意味のわからない方、興味のない方は、
ご覧にならないようにお願い申し上げます。

※R-18要素を含みます※
【 熱情 】





(中略)





  
 2回目のアンコールを終え、なりやまぬ拍手の中、団員達と笑みを交わし、コンマスとハグをする。

 義理は果たしたとばかりにジャレッドは先に幕へ引っ込んだジェンセンを追いかけ、半ば走る勢いで控え室へと戻った。

 ウォルトディズニーホールの出演者控え室は新しいだけありなかなかの豪奢さで、だがジャレッドに割り当てられたそこは、二番目に豪華な部屋だった

 通常クラシックのコンサートの場合、ソリストと指揮者のどちらに重きを置くかで控え室の順序は決まる。

 今回の場合は、明らかにジェンセンの方に知名度と人気があり、故に二人の控え室は隣同士でありながら格付けはジャレッドのほうが下になっていた。無論、それに否やの有る筈もない。

 燕尾服を慌ただしく脱ぎ捨てると、シャワーを浴びてジーンズに着替える。急いでバッグを担ぐと、ジャレッドはジェンセンの控室へと走った。

 だが、隣の部屋の入り口には、何故か当のジェンセンがまだ燕尾服のまま立っていて、その前には数人の中年女性が―何人かは男性だ―までもが、列をなしている。

「ジェンセン」

 声をかけると、困った様子で一生懸命サインをしていたらしいジェンセンはほっとしたような顔で顔を上げた。

「ジャレッド、…」

「ねえ、こっちのプログラムにもサインしてくださらない?」

 手を止めたジェンセンの前に、新たなプログラムがずいっと差し出される。

 ジェンセンは困惑しきった顔でまたそれを受け取ってはぎこちなくサインをしている。

 一人終わると握手を求められ、怯えながら断ることも出来ずに差し出した手を両手でぎゅうぎゅうに握りしめられて硬直しているのを見て呆気にとられた。

 まだ十人以上はいる。いったい何なんだこのファン軍団は。

 控え室の前まで来られるのだから関係者の家族や知人であることは間違いない。だが、サインをしているジェンセンの写真を許可もなく撮りながら嬉しそうにしている無礼なファン達は頂けない。

「よかったら指揮者さんにも」と言って、マスクのようにこってりと濃い化粧をした女性に、ジェンセンがサインをしたあとのプログラムをついでのように差し出されて、ぷつりとジャレッドの我慢の限界は切れた。

 失礼、というとサインに縛られているのをいいことに勝手にジェンセンの控室に入る。バイオリンケースと、ハンガーに掛かっている彼のジーンズやシャツをまとめて、置いてあるジェンセンのバッグに突っ込む。ふわりと仄かに香った彼の残り香にぞくりと下腹を直截的にくすぐられる。演奏の興奮と合間の一年振りのキスの余韻がまだ躰に残っている。

 首を振って気を取り直すと部屋を確認し、後はなにかあればリチャードあたりに頼もうと考えて控室を出る。あり得ないことにまた列は伸びている。

 これではいつまでたっても終わらない。警備はいったい何をしてるんだと苛立つと、痺れを切らしたジャレッドは、困った顔でまたひとつサインを書き終えたジェンセンの手をぐいと強引にとった。

「ジェ…」

 びっくりして目を見開いたジェンセンを引き寄せる。目の前の女性にサイン済みのプログラムを渡し、「すみませんがマドモアゼル、この後まだ打ち合わせがありますので」といってにっこり笑い踵を返した。

 あっけにとられた女性群を尻目にジャレッドは、荷物を二つ肩に下げ、空のバイオリンケースを背負って、ロザリンドを手に持ったままのジェンセンの腕をとると走り出した。ちょっと強引かと思ったが、これ以上はどうやったって待てなかった。

「ちょ、ちょっと待てよジャレッド、おい!」

「待たない。もう、僕はじゅうぶん過ぎるほど待ったよ」

 待ちくたびれた、といってばしんとエレベーターの昇降ボタンを押す。この階にいたのか、すぐに開いたドアの中へジェンセンを引っ張り込むと、壁際に押し付けてクローズボタンを押す。扉が音もなく閉まる。

「ジャレッド…」

「ジェイ、だよ」

 こぼれそうに目を見開いて見つめてくるジェンセンの透き通るようなヘイゼルが不安そうに潤んでいる。その目に、たまらずジャレッドは彼に口づけようとして、そしてやめた。

 鼻先がくっつくほど近付くと、彼の懐かしく感じるほどの淡く甘い体臭を感じた。

 一度目のアンコールの後、控え室に連れ込んで思う様貪ったくちびる。二度目のアンコールの声と、係員が焦った声で呼ぶのに、彼を離すのは至難の業だった。ここでしてしまったらあのときの二の舞だ。

 だが目の前にある一年間焦がれ続けたくちびるに耐えきれず、ジャレッドはせめてもと指を触れさせる。

 途端、びくんとしてジェンセンはくちびるを閉じた。

 たまらなくなって閉じた柔らかなくちびるの中に指を押し入れる。碧の瞳が驚きに見開かれる。

 怯えるように逃げた燃えるような舌に一瞬だけふれるとジャレッドは指を引く。彼の唾液に濡れたゆびを軽く舐めると、ジェンセンはそれだけで一瞬泣きそうな顔をした。次の瞬間、軽やかな鈴のような音を立ててドアが開いた。

 ロビー階の関係者用フロアに着いたエレベーターのドアから、ジャレッドは燕尾服を着たまま着替えすらしていないジェンセンを引っ張って連れ出す。

 本日の指揮者が、まだバイオリンさえも手に持ったままのソリストをまるで攫うようにして連れ去るのを、パーキングのスタッフ達はぽかんとした顔で見送った。












(一部抜粋)







--------------------------------

※何度も書くようですが、かなり甘過ぎるほど甘い話で、ちょっとどこかおとぎ話?風味というか、なのに@ちはげいぽるの風(ぉぃ)というか、そんな感じです。
前の話が問題なく読めて、上記のプレビューも大丈夫な場合だけお手に取ってくださいませね〜(>_<)