JaJe AU R-18 【 Out of the Paradise 】 |
「やっぱり、帰る」 クラブフロアのラウンジで搭乗開始を待ちながらドリンクを飲んでいると、唐突にそわそわし出したジェンセンは島に帰りたくなったと言い出した。 それに仰天したのはジャレッドだった。 心配のあまりジャレッドと共に乗ったセスナは、ナッソー空港に何の問題もなく着陸した。 ああやっぱりあれはただの夢だったんだとジェンセンは心底ほっとした。 ホッとしたら、唐突にやっぱりLAに戻るのが怖くなった。 「ここからはジェットだから、そう簡単には落ちないだろ。俺、やっぱり帰る」 お前も早く戻ってこいよな、と言って席を立とうとすると待ってよ、と慌てて引き留められる。 ナッソー空港の専用ラウンジはプライベートスペースを確保した新設フロアらしく、四方の視覚はさりげないデザインのパーテーションで遮られていて話していても他の客の姿は目に入らない。 「ちょ、ちょっと待ってよ!一緒に行くって言ったじゃん!!」 「言ったけど、…絶対LAまで行くとは言ってない」 俺、昨日はちょっと動揺してたみたいだ。そう言って自分の分のエアチケットをキャンセルしようとすると、慌てて止められる。 「なんでだよ、あんなに帰るなって心配してしがみ付いてきたくせに!」 小声で囁かれてぎょっとすると、怖い顔で睨まれる。 「じゃあ、お前が帰らなきゃいいだけの話だろ。ネットだって繋がってるのに、今時社長が会社にいなきゃ仕事になんない企業なんてありえない」 それは何度も言ったがジャレッドは今週は戻んなきゃいくら何でもクビになる、ニックはそのくらい本気でやると青くなっていたから本当にまずいらしい。 「…LA行くときに、何かあるかもしれないよ?ホントに俺を置いて帰っていいの」 言われるとなんだか心配になるが、それにも増してなんだかバカンス気分の旅人ばかりの空港は久し振りで落ち着かず、もうジェンセンは今すぐあの静かな島に帰りたくて仕方ない。 「でも、」 「飛行機に他の人がいるのが嫌なんだったら、またジェットをチャーターしてもいいよ。あの時みたいに」 そう言われて、あの楽しかった旅の事を思い出す。頬は綻びそうになるが、だがだったら、と言う気持ちにまではなれない。 「ジェイ…でも、俺」 やっぱり帰りたい、怖い、勘弁してくれ、と頼もうとすると、柔らかいソファにジェンセンを押し付けたジャレッドは徐に口付けてきた。 見えないとはいえこんな場でと、慌てて押しのけようとすると頭を抱えられて、ぐいとシャツの胸に頬を押し付けられる。 洗ったばかりのシャツなのに、ジャレッドの匂いがして、引き締まった固い胸筋を感じてどきりと心臓が強く脈打つ。 顔を覗き込むとジャレッドは真剣な顔をして懇願した。昨日までの、ジェンセンのように。 「…人目が気になるなら乗馬ができるくらい敷地の広い一軒家を買うし、俺と居るのが恥ずかしいんなら、人前では1…いや、2…3、フィートくらいまでなら、離れて歩いたっていいよ。だから、一緒に来てよ?もう俺ジェンとちょっとでも離れていたくないよ」 ね、ね?というジャレッドはがっちりとジェンセンの手首と腰に手をまわし、譲る気配を見せない。 ―なんだか、LAに戻ったら二度と返してもらえないような気がする。 今は前より更に経済力がある上に無駄に行動力もあるからあっという間に家を買って閉じ込められてしまいそうなのは本当に気のせいなんだろうか。 けれどつい、甘える仔犬顔に流されそうになる。いや、ここで負けてはならないと、ジェンセンはふと思い立って、なあ、と逆にジャレッドを見返した。 「…島に帰ってくれるんなら、毎日、その…く、くちでしてやってもいい」 …お前、好きだろ?と小声でぼそぼそと提案する。自分で言っておきながらあまりの恥ずかしさに思わず俯いて赤面する。だがその申し出は相当意外だったのか、ジャレッドはぽかんとしてから、からかうでもなく、マジで?と僅かに頬を紅潮させた。 ヨシ、もうひと押しだ!とジェンセンは身を寄せて、顎の下に頭をくっつけて更に小さい声で囁く。 「…あと、前から、外でしてみたいって言ってたの、あのヴィラの、テラスでなら、いいぜ…?だから、な?はやく、島に帰ろう…?」 帰って、しよう…?と耳元にくちびるを寄せて小声で甘えながら囁くと、ふるっと僅かにジャレッドの躰が震える。 その時。 ジャレッドをどうにか島に連れ戻そうと誘うジェンセンは、彼が今すぐジェットをチャーターして、LAに連れ帰り、もう二度と島には返したくないと頭の中で意気込んでいることなど勿論知らず。 ジャレッドは自分が興奮と共に手に握りしめているパスポートをジェンセンがどうにか奪えないか、燃やせばとりあえずしばらく帰れないだろうなどと物騒な事を本気で考えていることを知る由もない。 搭乗時間は刻々と迫り、ビジネスクラスのインフォメーションが流れる。 それぞれ自分の要求を通そうとしながらも、本音ではもう二人ともにわかっていた。 一緒にいられさえすれば、例えどこであっても、そこが二人にとっての天国だということが。 END? |