「恋に落ちて」「Please give me…」「Follin' love」 side:Jensen はあはあと荒い息をひたすら繰り返す喉の音と、ぐちゅぐちゅという水を捏ねるような音。 その合間に、たまにキスをしたりくちびるを肌に落としたりするチュッという小鳥のさえずりのような音が混じる。 ジャレ…ジャレッド、もう少し、ゆっくり………ただでさえお前のデカいので,目一杯に広げられたソコは限界なんだから。 腰を大きな手でがっしりと捕まれてめちゃくちゃに揺さぶられている。 激しく出し入れされるソコは、もうきっと真っ赤に貼れてる。切れてないのは、俺が――この行為に、慣れて来たから。  初めて会った時から、なんて居心地がいい奴なんだろうと思っていた。  紹介された時は実は相手の事を良く知らなくて。資料を渡されて、出演作を少し調べてみて、少し話して。  そうしてセリフの読み合わせに入った頃に、相手の反射神経の良さと抜群の記憶力、そして俳優としての才能に衝撃を受けた。  自分より、役柄とちょうど同じ、4歳も若いのに。  脚本の突然の直しが入った時。  彼は恐ろしいほどの集中力で、一度で自分のセリフをほぼ完璧に記憶してしまう。 二度目で、周囲の役者のセリフを。三度読む必要は、殆どなさそうな事に、しばらくして気付いた。  NGを出さないよう完璧な演技をするにはもっと時間が必要な自分とは、こいつは違うんだと。  だけど普段の彼は底抜けに明るくて、イタズラが大好きで。 でもそれが、現場の雰囲気を盛り上げ、人と人の間の垣根を取り払ってスムーズに仕事をしていく為の彼なりの気遣いだってことには、はじめは誰も気付かなかった。 たぶん、イタズラ好きなガキっぽい俳優、だと思われていただろう。  だけど、このドラマの撮影の合間に、他の作品の現場に入ると、どこか雰囲気が違う事に気付く。  そんなに雰囲気が悪い現場と言うのはよっぽどの事がない限りない。だけど、あのドラマの現場は、どこか違う。 主役級の役者である彼が、どんな使い走りのスタッフをもまるで気心の知れた友人のように対等に扱い、労い、誠意を持って――時にはイタズラを加えつつ――対応する。  それが、周囲の人間の意識を変えていった。  それは、相手役でもある自分にも言えることで。  人見知りが激しく、カメラの前やファンの前では役者としての顔を取り繕えるものの、そう言った場所でなく、 知らない人間ばかりの前では口数がどうしても少なく、正直何を言っていいのかわからない 自分が、いつのまにか彼のそばに居ると自然に笑っている。  おかしくて、楽しくて、気分がうきうきしてきて、緊張がどこかへ消し飛ぶ。  毎日現場にくるのがこんなに楽しかったのは、初めての経験だった。  スタッフにイタズラなんかした事は今まで一度もなかったのに。  そうする事によって、―忙しくない時を見極めて、だが―スタッフがこちらに親近感を覚えて親しく慣れれば、仕事のモチベーションも更に上がる。 ここが、知らない役者が出る現場ではなくて、仕事仲間のジャレッドとジェンセンが演技をする現場、だと思ってくれるからだ。  波紋は徐々に広がり、このドラマの撮影現場は、取材をしに来たクルーが驚く程にやる気に満ちた結束力の高い現場になっていた。  ある時、いつも空き時間に彼が夢中になっているPSPの画面を何気なく覗き込んだら、やったことある?って聞くから、 ない、と正直に答え、面白いのか?と聞いてみた。 そうしたら、奴はなんとその日の空き時間を縫って色違いのPSPを買いに行き、翌日、満面の笑みでオススメのソフトと共に、 俺にプレゼントをしてくれたのだ。  一緒にやろうよ!という笑顔に、驚きを覚える。 連続ドラマにキャスティングされるようになってからは、収入も大幅にアップし、欲しいと思うものでとんでもないものでなければ 手に入らないものはないという恵まれた状態になっていた。 だからこそ逆に、忙しさも相俟って物欲は薄れる。  そんな状態の時に、金額ではなくて。空き時間があれば少しでも休憩してセリフを詰め込んで、準備をして… そんな生活の中で最も貴重な「時間」を使って、彼はプレゼントを買いに行ってくれた。―俺の為に。 ありがとう、とうまくいえただろうか。 手の中のゲーム機の重みに、胸の奥がほわりと暖かくなる。 その日から俺達は、空き時間には対戦に熱中してTOPを競り合うのが日課になった。  役柄の兄弟のように実際も本当に仲がいいよね、と言われ始めたのはしばらくしてからのことで。 大喜びでたくさんの甘い物をいつも常備して食ってるはしゃぎまくりのこいつと。 撮影で見せる、難しいシーンをワンテイクでピシリと決めてしまう演技の魅力と。 撮影中の泣きのシーンで、本気で泣き過ぎて涙が止まらなくてどうしようもなくなって震える俺を、 カットのあと、すぐに駆けつけて優しく抱き締めて、皆から隠し、「大丈夫だよ」と耳元で囁いてくれた大人なところと。 気付けば、こいつに夢中になっていた。  休みの日も、空いた時間も、互いの彼女と会わない限り、俺達は一緒に過ごしていた。 アウトドアが好きで、観戦も好きな彼とは応援しているチームまで一緒で、異常にウマがあった。 いつのまにか、一緒に居るのが、自然みたいになって。  他愛もない話をしていると、いつの間にか時間が経ってしまう。  正直言って、彼女と会っているより、彼と会っている方がずっと充実した時間を過ごせた。 それは、単に彼女との間が忙しすぎる故の軽い倦怠期なだけであって。 そう思っていた矢先に、彼が長い間付き合っていた彼女と婚約をした。 彼女とは、自分も何度も会った事があるし、一緒に食事をした事も、カップル同士でパーティに出たこともある。 だけれども、なんとなく――勝手なことだが、自分の方が彼との絆が強いような気がしていた。 何故だろう。バカな事だ。彼と自分とは、ただの共演者でしかないのに。 全シーズンが終われば、たぶん会う事もなくなる。きっとそんな関係なんだ。 そう思っていたら、脚本家のストの関係で大きく空いた時間に、互いに別の仕事をこなす為に、離れる事になった。 ちょうどいい。なんだか自分は、彼に影響されすぎで、そして彼に――執着、しすぎている。 そう思っていたのに、彼は時間の空くたびに、メールを、電話をくれた。 何してる?元気?僕は次ここへいくよ、次はこの仕事なんだ。ジェンは?     そう聞く声が愛しくて、会いたくてたまらなくなってしまう。 そうして俺が会いたい、と言うより前に、ジェンの舞台初日のチケット受け取ったからね。 必ず観に行くから!と誰が来てくれるよりも嬉しい事を言って、俺を喜びで震えさせた。 それだけで、地元で行われる小さな舞台は、ブロードウェイでやるより楽しみな舞台になった。 彼女と別れて欲しい、なんて、思ったことはない。ない,―つもりだった。 だけれども、次第に自分の感情が、共演者や友人に感じるものではなくて、―いわゆる恋愛相手を想うような気持ちに 変わって行くのを感じていた。 そんな時に限って、兄弟のシーンはサムがディーンを抱き締めて泣くシーンだったり、ディーンが深いセリフを吐くシーンだったりして、 俺達はワンテイクで最高だったと演技を賞賛される。 違うんだ、演技じゃない。 確かに、俺はさっきディーンになっていたけれど。それ異常に。サムを思う兄としてのディーンの気持ちに、自分の気持ちを重ねていた。 サムとジャレッドへの恋心を。 ―俳優失格かな、と思う。兄弟愛のシーンを皆に絶賛されるたびに、俺は辛くなった。 新しいシーズンの打ち合わせにカナダに戻ってきた時に、彼は再会をとても喜んでくれた。 純粋な彼の好意に俺は何だかいたたまれなくなって、でも彼に会えたことが嬉しくてたまらなくて。 そんな時に、カナダで一緒に暮らしていた友達が、アパートを売ってロスに帰ることになって、俺は家探しをしなくてはならなくなった。 一人で住むのが苦手な俺は、新しい部屋を探すのも 二人きりになった時、唐突に、良かったら僕のうちに住まない?と誘われた。 ジェンはよくぎりぎりに来るけど、一緒に住んでたら起こして上げられるし、一緒の車で来れば途中まで寝ていられるし。 どうせ殆ど同じサイクルで撮影所に入ってるんだから、効率もいいし、忙しい時はトレーラーで寝てるけど、それより ずっときっと落ち着くよ?部屋もあまってるし、バスも二個あるし、鍵も今持ってるし。 ジェンがイヤじゃなかったら…と慌てたように矢継ぎ早に話す彼に、ちょ、ちょっと待てよ、と口を挟む。 いくらなんでも俺が一緒に住んだら、彼女に悪くないか、と。 結婚したら、明らかにお邪魔虫だろう。そう言うと。 ―ジェンセン、知らなかったんだ。 ぽつりと彼は言った。 彼女とは、婚約解消したんだ。もうしばらく前の話だよ。 だから、ジェンが気にすることは何もないよ。 大丈夫。そう言われて、驚く。 彼と彼女の間にどんな話し合いがあったのかは知らない。 だけど、俺が彼と出会うより前に二人は知り合っていて、とてもお似合いで幸せそうだった。 割り込む余地などないのは分かっていたし、邪魔するつもりもなかった。 彼女の家族は、彼しか居ない。絶対に彼が彼女と別れるはずもないのは分かっていたからだ。 だけれども、彼らは別れた。そうして、俺を、同居に誘う。 もしかして――彼も、同じ気持ちでいてくれたんだろうか。 まるで運命の片割れにであったような、この不思議な感覚。 そばにいないと何か足りなくて、一緒に居るともう何もいらないなんて。 ぴったりと嵌まる二つのかけらみたいに、俺達は。 深い罪悪感と綯い交ぜになった痺れるような幸福感が、足元から徐々に上がってくる。 何もされていないのに、濃いグリーンの瞳でじっと見つめられているだけで腰が、くだけそうになる。 ジェン、あのね――― 彼が、ためらいながら、俺の頬に触れるまで。 あと、3秒。 【Side:Jaへ】  初めて会った時から、なんて綺麗なひとなんだろうと思っていた。  はじめ弟役に決まっていた彼は、僕がオーディションを受けたことで兄役へと変更になったらしい。 出演作は見て、どんな俳優なのか事前に情報は得てきたけれど、実物は驚く程に、どんな女優よりも綺麗な―― ブロンドの短髪に、すこしそばかすのあるミルク色の艶やかな肌。 恐ろしく長い睫毛に覆われた透き通るような深みのあるヘイゼルグリーンの瞳が、こちらを見ている。 仕事柄、美形には慣れている筈なのに、一瞬言葉を失った。  慌てて挨拶をする。すると、彼は思ったより低い味のある声で、優しく返してくれた。 彼が俳優には珍しくかなりシャイでひとみしりをするタイプだと気付いたのはその頃で。  誰にでも話し掛けてすぐに知り合いになってしまう自分を、たまにちらりと見ているのに気付いて、どうしたらもっと親しくなれるのか 知りたくて。  イタズラを仕掛けた。ジェンセンが座るメイクトレーラーの椅子にブーブークッションを置いてみたり。 ジェンセンの台本をメロドラマの濡れ場のものと摩り替えてみたり。 仕事の支障にならない範囲で、必死でジェンセンにまとわりついた。 ちょっとでも笑って欲しくて。 僕を知って欲しくて。 イタズラ好きなガキだと思われても構わなかった。それで、ジェンセンが笑ってくれるなら。 爆笑している笑顔を見た時、あまりの可愛さにめろっとなりそうだった。 犯罪並に、かわいい。 タフガイぶりとイロオトコが売りのディーンとのギャップに、もうかなりヤラレ気味だった。 ある時必死にPSPでゲームを進めていた僕を、ジェンセンがひょい、と覗き込んだ。 わあっ!と驚きのあまり自爆する。 何のゲームなんだ?というから、これはね、と一生懸命説明して、そしてコレ対戦も出来るんだよ、やってみたくない!?と 誘い。 やったことないけど面白そうだな、という言葉をとりつけて。 その日速攻で空き時間に色違いのPSPを買いに行った。 翌日、満面の笑みで渡したら、ジェンセンはすごく驚いて、それからものすごく嬉しそうにお礼を言ってくれた。 それから、空き時間ができると僕たちはひたすらゲームに熱中した。 そして仲良くなりたくて。  役柄の兄弟のように実際も本当に仲がいいよね、と言われ始めたのはしばらくしてからのことで。  いつもは慣れもあって大概のゲームは僕が勝っている、けど。  たまに、真剣にゲームに挑んでいるジェンの横顔を盗み見たら、あんまり綺麗で真面目な顔してるのが可愛くて、 うっかり目を離せなくなって自爆、ということが何度もあった。  そのたびごとに、なにしてんだよーと言いながら、嬉しそうに威張る彼が、愛しくてならない。