まき様へvv
素敵なリクエストありがとうございましたvv

ご兄弟のお初ネタvでございます。
【 If you love me 】












 前夜までに、しつこく追い縋る数人の悪魔を何とか消し終えた兄弟は、翌日を束の間の休息の日とする事にした。

 早起きなサムは日用品の買い出しに行き、まだ疲労が拭い切れないディーンは、久し振りの一人きりの時間をこれ以上ない程有意義に過ごしていた。
 オンナノコを引っ掛けに行くには昼過ぎではまだ時間が早過ぎるし、昨夜の格闘で主に矢面に立って戦ったせいでまだ身体もアチコチ痛み、いくつかアザもできている。
 もう少しコレの色が引くまでは遊ぶことも出来ねぇなあとしょげていたところへ、サムが出かけてくると言い出したので、ここぞとばかりにディーンは、疲れたから俺はゴロゴロしてる、とサムを一人で行かせたのだった。

 目的は、サムのノートパソコンである。

『ディーン、僕がいない時にパソコンに触るのは金輪際絶対に禁止だから』

 勝手に触ってたのが分かったら、インパラをピンク色に塗装してやる。
 僕は本気だよ。
と、なまじ冗談でもなさそうな目でサムがディーンを睨んで言ったのはつい先日の事である。
 原因は、サムの不在時に、ディーンがアジアの巨乳美女のサイトにアクセスして、新種のウイルスを拾ってきた事からだった。

 まだ外部に落としていなかった狩りの為のデータを復活させるのがどれだけ大変だったかをサムは延々と怒り交じりに語ったが、車の中身ならばともかく、パソコンはインターネット程度の知識と興味しかないディーンには、それがどれだけエライ事だったのか皆目見当もつかない。

ウイルス避けのソフト入れてたら良かったんじゃねぇのか、と言うと、…入れてたのに君はそれを上回る新しいウイルスをもって帰って来たんだよ。と、地獄から響くような怒りを抑えた声でサムは告げた。

本気で怒ったサムは結構手怖い。ディーンの弟だけの事はある。
なんというか、手段を選ばないのだ。怒り狂ったら、インパラを塗装するぐらい本気でやるかもしれない。
それはいくらなんでも御免蒙りたい。

―だが、正直インターネットのポルノサイトの魅力も捨て難い。
わざわざ外へ出向いて気力と労力を使って女の子を引っ掛けなくとも、手軽な快楽が座ったままでいとも簡単に手に入る。
しかもお値段は0円だ。生身の身体の柔らかさと快感には叶わないとはいえ、そうそうオネガイできないプレイと極上のボディが選び切れないほどバリエーション豊富に揃っている。
 パソコンを禁止された上、身体に出来たあざが消えるまでナンパが出来そうもないディーンは、正直体の熱を持て余して悶々としていた。
「そうだ…」
そうして、いい事を思い付いてにやりと笑う。
そうだ、サムがいない時に見て。そして、サムが帰ってくるまでに、履歴を消しておけばいいんじゃないか?
いくらパソコンオタクのサムでも、消した履歴まで探す事は出来ないだろう。元通り仕舞っておけば、分かる筈はない。
そうして魅力的な巨乳の美女に誘惑されるまま。ディーンは禁断のパソコンに、手を掛けてしまったのだった。

―一時間後。ディーンは一人きりの時間をこれ以上ない程に満喫していた。
インターネット万歳だ。クリックするたびにニヤつく顔は、とても知り合いには見せられない緩みっぷりだった。
 そろそろサムが帰ってくる頃かな、と時計を確認してからジーンズの前を仕舞い―何をしていたかは言うまでもない―ティッシュをゴミ箱へ投げ捨てて、名残惜しくサイトを閉じようとする。

「あれ……?」

 ふと見たブラウザのお気に入りには、今までにディーンが見ていた時には、検索サイトや情報サイトなど、狩りに必要なサイトしか羅列されていなかった。
だが、しばらく見ないうちに、一番下に新しいフォルダが出来ている。
サムはこういうところが異常に几帳面だから、お気に入りもきっちりと分類別にフォルダ分けしている。
もしかしてサムの奴、スゴイエロサイトを俺に隠して見てやがったんじゃねぇだろうな、と。
ディーンは躊躇いもなくタッチパッドに指を滑らし、そのフォルダをダブルクリックした。
フォルダ内のお気に入りサイトがプルダウンされる。
予想外にたくさんのサイトが表示されて、まじまじとそのタイトルに見入る。

「…………、なんだ?コレ……」

呆然として、その羅列されたサイトの名前をディーンは眺める。
予想外のそれを、おそるおそる、一つクリックしてみる。
そこに表示されたものは。
予想外にと言うか、予想通りにと言うべきか。
ディーンが今まで見た事もない、想像することもなかった世界が、明々と映し出されていた。
**********

ガチャリとモーテルのドアノブが回った。

「ただいま…あ!!」
「う、わッッ――――!??!」

 驚きに叫ぶと、ディーンは隠しようもなく、咄嗟にパソコンの電源ボタンを叩く様に押し、強制終了してバシッとパソコンを無理矢理閉じる。
「わー、って!!ディ、ディーン!!何て消し方するんだ…ッ、っていうか、また僕のパソコン……ッ」
わたわたと両手いっぱいの紙袋をテーブルに投げ置いてサムは慌てて近寄ってくる。
ディーンがたった今、無理矢理閉じたばかりのノートを開いて、電源ボタンを押す。
ウィン…とファンが回る音がして、強制終了された後に起動する為の回復画面が青く起ち上がる。
エラー確認の画面を見ながら、わなわなとサムは握り拳を震わせた。
やばい、と思ったディーンは何気ない振りをして立ち上がり。ぱっと上着を掴むと、部屋から出て行こうとする。

「―ディーン、待てよ」

怒りの籠った低い声でサムが止める。
そこで止まれる訳もなく、ディーンはドアまで小走りに逃げた。
「―コレ、分かってる?逃げるってことは、インパラを犠牲にする覚悟は出来てるってことだよね」
ドアを開けようとして、チャリ、という音にハッと振り向いた。
買い物から帰ってきたばかりのサムの手には、ディーンのBABY―最愛のインパラのキーが握られていた。
インパラのもう一本のスペアキーは、父が持ったままで、今は何処にあるかすらわからない。残るはこの一本だけ。
鍵を握られているということは、インパラの運命はサムに握られているも同じだった。
ディーンの脳裏に、一寸、舐めるように磨き上げたエメラルドブラックの美しい車体が、ピンクに染まる様がありありと浮かんで血の気が引く。
サムの理論責めのお説教は正直遠慮したい。だが、インパラも可愛い。
「くそっ!」
悔しげに吐き捨てて、開け掛けたドアを後ろ手に閉める。
どさっと椅子に座ったディーンを軽く睨んでから、サムはインパラのキーをテーブルに置いて、向かい側に腰を下ろし、パソコンの画面に目を落とした。

「あれ……?」
サムが小さく呟いた怪訝そうな言葉に、ディーンの肩がびくりと震えた。
「ディーン、…もしかして、…………見た?」
「み、見てねぇ、俺はお前のパソコンの中身なんて、全然見てねぇぞ!!??」
ディーンは追いかぶせる様に言い切り、ぶんぶんと必死で否定するように死ぬほど首を振る。
ふぅん……と納得していない様に言って、サムが再びパソコンを弄り始める。

 テーブルの真ん中。サムとディーンの間。
 ディーンが手を伸ばせば、すぐに取れるところにインパラのキーは置いてある。ディーンは息を殺してタイミングを計っていた。
「―ちょっと、出てくる」
そう言って、出来るだけさり気無くインパラのキーを掴もうとすると、唐突にその手をぎゅっと掴まれた。
跡が付きそうなほど強く掴まれた、その熱さに驚いてディーンは一瞬動きを止める。
「―ディーン」
 そう言われた声の低さに、マズイ、とディーンは動物的な勘で思った。
 肘を支点にぐっと力を込めて、バッ!と一気に手を振り払う。
思い切り振り払われたサムが体勢を整える前に形振り構わずキーを引っ掴むと、ディーンは脱兎の如く走って部屋を飛び出した。
「ディーンッ!?待てよ!!」
追い掛けてくるサムの声をドアを勢い良く閉めることでかき消し、インパラに飛び乗ってエンジンを掛け、魔物から逃れる時のようにアクセルを一気に踏み込んで急発進する。
インパラの悲鳴のようなスキール音がモーテルの辺り一面に響き渡った。
部屋の前まで追い掛けてきたサムは、それを見て諦めたのか、バックミラーの中でみるみる小さくなっていく。
それを確認してほっと息を吐き。これ以上ない程眉間に皺を寄せたまま、ディーンは少しアクセルを緩め、インパラを走らせた。

 過ぎていく少しさびれた町並みを眺めながら、我ながら強引だったか、とディーンは少し反省する。
 パソコンのことだけならば、まああれは俺が悪かった、と素直に謝ってサムの好きなバニララテとアップルパイでも買ってきてご機嫌をとれば、なんとか夜までには怒りは解けて仲直りができていただろうと思う。
だが、今サムの前にいて、ポーカーフェイスを保てるだけの精神的余裕がディーンにはなかった。
気を抜くと、さっき見たものが悶々と頭の中を駆け巡る。
―少し、頭を冷やした方がいい。
時間が解決してくれる筈もない問題を抱えたまま、ディーンは昨日着いたばかりの街中を何処へ行くという当てもなくドライブに出ることにした。

**********

 鳥が囀る音が聞こえる、まだ肌寒い早朝。
ディーンは、モーテルの部屋から最も離れたパーキングにインパラを極力静かに停め、恐る恐る部屋へと戻った。
左側のベッドの上のこんもりとした膨らみを見て、ほっと息を吐く。
サムはどうやらまだ眠っているようだ。
音をたてないようにドアを閉めようとすると、唐突にドアの脇からにゅっと出てきた腕に壁に向かってダンッ!と強く押しつけられた。
「ぅ、わッッ!?」
怖い顔でディーンの首を腕で壁に抑えつけながらねめつけていたのは、サムだった。
「…なんで、逃げたの」
抑えつけられたまま、これ以上ない程低い声で言われて、一瞬腹が震えそうになる。
眠っていないのか、サムの頭は軽くボサついている上に、目の下には薄らとクマが出来ている。服も昨日の服のままだ。しかも、ディーンを待ちながら飲んでいたのか、少し酒臭い。

―ヤバイ、サムが完全にキレている。

本当にブチキレた時のサムは非常に始末が悪い。正直言って、ディーンの手には負えない。
「わ、悪かった!ちょ、ちょっと昨日はバーでオンナノコと待ち合わせがあってな、あの時は、お前のお説教聞いてる時間が…」
必死になんとか言い包めようとすると、嘘だね、ときっぱり言い切られる。
「ディーンが女の子と会う前にポルノサイトを見にいく訳がない。カラダだけが目当てのくせに、先に抜いとく筈がないだろ」
そうだよね?とあまりにもハッキリと突っ込まれて、お前それはちょっと…と言おうとして、ハッとする。

―ポルノサイトを見ていた事が、サムにバレている。

「履歴、全部残ってたよ。不用心だね、ディーン」
そうだ、あの時、突然サムが帰ってきたから、履歴を消す事も出来ずにディーンはパソコンを強制的に終了したのだった。
上から首を抑えつけられたまま、射るような視線でねめつけられる。ディーンの身体が硬直した。
「……見たんだね」
「、み、見てねぇ!」
必死に首を振る。見たなんて言う事は、死んでも言えなかった。

 フッと苦笑するようなサムの息が頬にかかる。
「ディーン…僕は、“何を”見たか、まだ聞いてないよ?」
分かりやす過ぎるよ、とため息交じりに言われて、カッとする。
「お前が……っ」
 思わず言ってしまいそうになってハッと口を閉じる。
「僕が、何?」
「………何でもねぇ…」
ひたすらに気まずくて下を向く。帰ってくるんじゃなかった、と心底思った。
放ってきたサムの様子が気になって、でも遊ぶ気分にもなれず、一晩を深夜営業しているカフェで悶々と過ごしてしまったディーンは、わざわざ自分が戻って来たが為に、ここでサムとこんな言い争いをしなくてはならない事に苛立ちを覚える。
すると、躊躇うように、サムがぽつりと口を開いた。
「多分、完全に誤解していると思うから言っておくけど……僕は、ゲイじゃないよ?」
驚いてディーンは顔を上げる。
「そ、そうなのか?!」
ウン、と頷くサムに、ディーンは思わず安堵のため息を吐く。
それに、バイでもないから、と言われて、あーもう心配させやがって、この腕どけろ!とサムを押し退けながら悪態をつく。
あれ、だったら何で…というところにディーンが思い当たったとき。
もう一度サムはディーンをぐっと引き寄せて無理やりでない程度に壁に押し付け。
両肘で挟み込むようにして上から見下ろしてきた。
「―でも、ああいったセックスをしたい相手なら、いる」
今度こそぎょっとしてディーンは目を見開く。
「お前、それをゲイっていうんじゃ……」
「ゲイじゃない。僕は、男が好きなわけじゃないんだ」
ねえディーン、とサムがまるで女の子に語りかける時のような優しい声で呼びかける。
「僕が―誰とああいうことしたいのか、気にならない?」
「い、や、そんな弟のプライベートに踏み込むようなヤボなマネ…」
あははははは、と乾いた笑いを浮かべて、ディーンはさり気なくサムの手を退かしてこの場から逃れようとする。
だが、サムは決して退くつもりはないようで、ディーンを囲い込んだ腕はぴくりとも動かせなかった。
「僕と、……試してみる気はない、…ディーン?」

 少し屈み、まるでくちづけをするような近さで、震える吐息を頬に触れさせながら。

意味を考えることさえできないような誘いを掛けるサムを全く理解できずに、ディーンは目を見開いたまま固まるしかなかった。

**********

あの時。
ディーンがサムのパソコンのお気に入りに入っていたフォルダの中で見たものは。

「初めてのアナルセックス」
「前立腺の簡単な探し方」
「これで安心!バックバージンへの正しい挿入方法」
「オトコ同士の為の最新ローション&ゼリー特集」
etc、etc。

サムのパソコンで今までにこれでもかとポルノサイトを巡りまくったディーンが、それでも未だかつて一度も見た事のない領域のページばかりだった。

自慢ではないが、ディーンは、人数はこなしていると思う。
だが意外な事に、アブノーマルな事には正直それほど興味がない。
商売の女性を相手にした事がないというのもあるし、普通の女の子と言うのは優しいハグとキスが大好きで、実際それほど未知なるプレイに寛容なタイプはいないものだ。
柔らかな肌の触れ合いと普通のセックスで十分に満足できたし、特にこれといって新たな世界に踏み出すきっかけもなかった。
だから女の子相手にバックでしたこともなければ、そちらに興味を持った事もない。
それに、サムがお気に入りに系統だてて入れていたサイトというのは、女の子目当ての男がいくページではなく。
比較的グロかったりエロかったりするものはなく、医療関係やマトモなアドバイスサイトが多かったが、それでも。
確実に、男同士の性行為を扱ったサイトが殆どだったように思えた。

心臓がばくばくと震えるのを抑えながら、ディーンが恐る恐るひとつずつ確認していったそれは、
過激な写真等も殆どなく、落ち付いて思い出して見れば、どちらかというと真面目にゲイのセックスを始める為のマニュアルもののようだったように思う。

まさか、あのサムが…と思いながらも、考えて見れば思い当たる節は微妙にある。
ジェスを失った後、ディーンが慰めになればと思い、どれだけ女の子を誘ってきてもけし掛けても、サムは決して首を縦に振ろうとはしなかった。
悲惨な目に遭うと、人間は趣向が変わる事もあるという。
ジェスの死に目に遭ってしまった辛さから、男色に走ったとしても、誰もサムを責める事は出来ないだろう。

ぐるぐると考え続けるディーンの胸の内を知ってか知らずか、サムは目を逸らしてぼそりと口を開いた。
「ディーンはさ…男とした事は、一度もない、わけ?」
躊躇いながら聞くサムに、あるわけがねぇだろ cと思い切り怒鳴り返す。 
ディーンには男を抱く趣味も抱かれる趣味もなかった。
「じゃあ…ディーンのココって、バージンなんだ…」
感慨深げに言って、そっと尻に手を這わすサムの大きな手にぎょっとする。
「おっ、お前人の尻勝手に触んなっ!!」
うん、ちょっとだけだから、などと言いながらサムは全くディーンの尻を揉むように触る手を止める気はないらしい。
「ねえ、ディーン……したい」
もがくディーンの曖昧な抵抗をいとも容易く絡め捕り、抱き締めながらサムは熱い息をディーンの耳元に吐いた。
―したいって。
何をだ。何をなんだ、サム。

心の中で問い返しながら、出来たらその先は聞きたくはないとディーンは胸の奥で涙しながら思った。
「嫌なら、すぐ止める。だから、ちょっとだけ……ココ、に…いれてみたい」
入れるって。
呆然と尻を撫でられるに任せたまま、ディーンはその言葉に再び石になる。
ディーンは当たり前だが女の子ではないから受け入れる性器など持っていない。
サムがしつこく揉み撫でている手を、ジーンズ越しにすっと割れ目に沿わせて滑り込ませてくる。
そうしてゆびで確かめるように擦られた場所は、確かにやろうとさえ思えば、ディーンが唯一男を受け入れられる場所である、そこがサムの目当てで―――

唐突に思考が繋がって、ディーンは尻に回っていたサムの手を容赦なく振りほどく。
「おっっ…お前が、…俺に、い、い、い、挿れたいってのかッ!???!!」
「うん。…ダメ?」
ダメって。ダメって言われても。
ディーンは、幼い頃から必死に育ててきたサムの少しばかりイレギュラーな性癖に、気が遠くなるのを感じた。
小さい頃は引っ込み思案で女の子とうまく話も出来なくて、成長の遅さを母親の如く心配したものだったのに。

そんな風にして青春を捧げて育ててきた弟に、自分は今。
どうやら、バックバージンをくれ、と強請られているようだ。
―神がもしもいるというのなら、それはあんまりにもあんまりな仕打ちだ、と絶望的にディーンは思った。

*********

OKもNOも、一切の選択肢はなかった。

おいとかちょっと待てとか落ち付け!というディーンの必死の言葉を、大丈夫、僕にまかせて、心配はいらない、と意味の分からない言葉で封じると、ベッドまで引き摺られて怖いくらい真剣な顔をしたサムが圧し掛かってきた。
そうして、全くお伺いもなしにいきなり唇を合わせられる。
お前は今までこんな風にしてオンナノコを襲ってきたのか!!??と突っ込みを入れたくなるほど、それは独り善がりな行動だった。
「ン、…フ、ゥ……ン、ッ」
最初に確かめる様に軽く触れてきた唇は、すぐに大胆になって舌に触れられ、吸い上げて甘く噛まれる。
二人の間にちゅっ、ちゅくっと絡め合う度にいやらしい音が溢れる。
顎を唾液が伝うほど激しく、サムはディーンのくちびるを貪った。
サムのキスは、経験豊富なディーン的に言えば、正直テクニックで言えばものすごく上手いと言うわけではないようだった。
だが、それは思いも寄らないほど情熱的で激しく、ディーンは弟との初めてのキスに腰が疼くような快感を覚えて驚く。
熱く大きな身体に抱き竦められてくちびるを合わせていると、合わせた場所から身体が蕩けていきそうに思えた。
今までにキスの上手な女の子ならいっぱいいたけれど。そんな経験はディーンには初めての事だった。
乗り上げた身体を押し付けられ、サムの昂った性器がジーンズ越しの腿に触れてディーンは息を呑んで困惑する。
ようやくくちびるを離され、唾液を拭いながら、サムの腕を押しのけ、ディーンは唐突に口を開いた。
「か、金払え!」
「…………金?」
サムは驚いた様子で問い返す。
必死に平静を装いながら、ディーンはからかうように言った。
「俺の一回きりのバージンを捧げるんだ、普通にコールガールを買ったら、えらく高いぜ?」
そう言えば、サムはきっと、馬鹿馬鹿しい、ふざけるなよと言って、この意味の分からないシミュレーションを止めてくれるのではないかとディーンは一縷の望みに縋る様にして思った。
―なのにサムは。
「…いくらなら、売るっていうの?」
その答えにディーンは思わずぎょっとするが、引いたら負けだ。
「そうだな、―千ドル以下では売れねぇな」
普通コールガールは安くて二百ドルくらいから買える。千ドルと言えば十分に高級娼婦の部類に入るだろう。
高いか、と内心でディーンは思った。
ふうん、と冷ややかな声で言って、サムはベッドから降りると自分の鞄の方へ歩いていく。
その中から財布を取り出して、スッと一枚のカードをディーンの目前に翳した。
「…なんだよ、これ?」
「僕名義の銀行のカードだよ。一万ドルちょっと入ってる。これで文句はないだろ」
「いちまん、って、お前……」
あまりの額に、受け取る事も出来ず、ディーンは驚愕して目を見開く。
一万ドルもあれば、兄弟はモーテルの旅を続けながらでも数か月はポーカー詐欺もカード詐欺もしなくて済む。
娼婦を買うのにそれだけ出した話など終ぞ聞かない。アラブやドバイの方ならば日常茶飯事なのかもしれないが、ここはアメリカだ。
ぱしっと弾く様にしてサムはそれをディーンの膝へ落とした。
「詐欺をしたわけでも、ポーカーで稼いだわけでもない。大学に行きながら僕がアルバイトをして貯めた金だ。
暗証番号は、僕が、家を出た日の日付だ。―覚えてるよね」
カードに目を落とす。忘れる筈もない。ディーンの人生で、二番目に最悪だった日の事だ。
「これでディーンが買えるんなら、安いものだよ
―さあ、何をしてくれるの、ディーン?」
金を受け取ったからには、10,000$分愉しませてくれるんだよね。期待してるよ。

サムは、ディーンの最も嫌いな皮肉で冷たい笑いを浮かべて、どさりとベッドに腰を下ろした。

**********

「まずは、ストリップでもしてもらおうかな。
ストリッパーに払う金額の100倍以上は払ってるんだから、せいぜい色っぽく脱いでよね」
自分から金を払えと言った手前、やっぱなしだとも言えず。
金を払えと言ったことに、怒っているのか冷たい態度のサムに、ディーンはくちびるを噛んで横を向くと、舌打ちをして無言で上着に手を掛けた。
ダンガリーシャツを脱ぎ、Tシャツを脱いでジーンズを落とし、靴下を放り投げる。
ボクサーパンツに手を掛けるのにはほんの少しの勇気が要ったが、サムには悟られていない筈だとディーンは思う。
全部を脱いで、ご丁寧に時計まで外し。
今ディーンが身につけているのは、首から下げたアミュレットだけになった。
くるりとサムの真正面を向いて、ほら、お望みどおり脱いだぜ、と震えそうになる声を叱咤して強がるディーンの腕を掴み、サムはベッドの奥に押しやった。
勢いよくバウンドするスプリングが収まる前に、背をクッションに凭れ掛けさせて、足を大きく開かせて立てさせる。
足を閉じるなよ、とディーンに命じてそうさせた後。
サムはしばらくその姿をゆっくりと視姦した。

腹の奥が震えるほど焦がれた、兄の躰だった。
昔から、すぐに黒くなるサムとは違って、ディーンは色白で肌理の細かい綺麗な肌をしていた。
思春期の男が若く美しい母親を正視できなくなるように、その頃からサムはディーンを喧嘩するとき以外、真正面から見ることができなくなっていた。

ばさばさの睫毛も、ぷくんとしたくちびるも、何もかもが受粉を待つ花のように、誘われているようにしか見えなかった。
それなのにディーンは見つめ続けるサムの気持ちなどおかまいなしに、彼は女の子へのナンパにせっせとあけくれていた。
誰よりもサムの事を気にしているくせに、サムの感情には無頓着な兄に焦れて反抗して拗ねて、そして絶望して家を出た。
気の合う彼女を作って一緒に暮らし、四年の時を経て再会しても、まだ尚、自分の欲情がディーンに向かう事に再び絶望した。
そうして再び共に悪魔を追い掛けながら狩りをし始め。
それでも、昔と変わらず、女好きな彼の嗜好が自分に向いていない事は痛いほどよくわかっていた。だけれども、自分の体はディーンを欲しがって、ディーンだけを欲しがって暴走しそうになる。
目の前を無防備にふらふらするディーンを前に、理性の手綱をとるのがどんどん辛くなってくる。
それでも、自分から全てを壊す勇気も、襲う覇気もなかった。
ディーンがサムの為に寿命を差し出す契約をしてすら、自分の気持ちを告げる事を瀕死の思いで我慢していたのだ。
―彼が、サムの欲望が詰まった秘密のフォルダを覗いてしまうまでは。

無言のまま穴のあく程凝視するサムの目の前で、悔しそうにくちびるを噛み、ディーンは開いた右膝を抱える様に顔を背けている。
恥ずかしいのか悔しいのかわからないが、見つめ続けるサムの視線に、ぴくりと小さく彼の性器は反応を返した。

初めてまじまじと見るディーンの性器は、サムのモノより淡い色で―なんというか、性器らしいグロテスクさが薄く、恋する欲目なのか綺麗な造作をしているようにすら思えた。
あまり見ているとまたディーンにお前は絶対にゲイだ!と叫ばれるかも、とサムは視線をずらす。
後ろも見たい。
込み上げる欲情に、痛切にそう思った。
「ディーン、うつ伏せになって」
ぎくしゃくと動くディーンを膝立ちにさせて、形のいい頭をクッションに抑えつける。
隣のベッドから一つ引き抜いて腹の下に押し込む。
させられた尻を捧げる体勢にぎょっとして腰を引いたディーンに、大丈夫、いきなりしたりしないから、と声を掛け、そうっと柔らかな筋肉に彩られた尻を割る。
ディーンの後孔は、性器よりもう少し濃いめの蕾が小さく窄まっていて、もしここに包まれたなら相当キツイのだろうなと思わせる貞淑さで、サムの熱い視線を受け止めた。
猛烈に今すぐに入りたくなって、ごくりと思わずサムの喉が鳴る。あからさまな視線を嫌がる様にディーンが尻を捩った。
その仕草ですら誘われているようで息が荒くなり、今まで我慢してきた理性の頸木を引き千切る様にして、サムは抑えつけたままのディーンに圧し掛かった。
肩に頭を乗せ、頬をぶつけるようにくっつけ、動物のように擦り合わせる。ディーンの前に手を回して、柔らかな筋肉の張った胸を撫で擦る。
しっとりと汗をかいたディーンの肌の感触と、ぷつんと尖った乳首がたまらなくいやらしく思えた。
「サッ、サム…ッ!?」
何をされるのかが恐ろしいのか、怖がって体を強張らせているディーンに、大丈夫ともう一度繰り返す。
ジーンズのジッパーを下ろして下着から既に勃っている性器を出す。尻に近い太腿に触れさすと、驚いたようにディーンが腰を引いた。
逃がさないように腰を強く掴んで、足の間に差し入れて足を閉じるように促す。
擬似的なセックスをするような行為で、サムがディーンに何をしたいのかを身体でわからせようと思った。
締めさせた足の間を蕾の代わりに擦り上げる。
たまに蕾と玉を強く擦り上げてやると、ひくつく声を上げてディーンが逃げる様に曖昧に腰を捩る。
男に性的対象にされることを嫌悪するディーンには、こうしてサムが自分の身体に欲望を抱くこと自体が理解できないのだろう。
―でも、サムは彼に金を払った。
そうして、彼は曲がりなりにも受け取ってしまった。
ディーンはそういった物理的な契約には比較的流されやすい。ある意味では律儀なところがある。
だから、恐らく拒む理由にしようとした金と言う手段を、自分で出してしまったがために、逆にその事に囚われている。

ディーンの締まった内腿を激しく擦り上げながら、サムはディーンの性器に手を這わす。
抵抗するように手が掛かるが、既に体を撫で回される事に感じていたのか先端は濡れている。
自分が突き上げるリズムに合わせて、同じようにディーンの前も擦り上げて先端を割り広げて指先で強く擦る。
「クッ、ア、ァ…ッ」
感じているのかディーンに、足を絡めるようにして一瞬きつく腿で締め上げられ、サムが白い太腿に吐き出すと、それを受け止めて、ディーンは喘ぎながらサムの手の中に零した。

ディーンに追い被さる様にして倒れ込んだ荒い息が収まる頃。
「ディーン、拭くから足…」
といって足を開かせてティッシュで自分がディーンの足に向けて出したものを拭おうとすると、唐突にむくりとディーンは起き上がり、箱ごとそれを奪って後ろを向いて出された足の間の精液を自分で始末し始める。
サムが何か声を掛けようと口を開く前に、背中を見せたままでディーンは叫んだ。
「お前、おかしい!!普通じゃないぞ、こんなの。ったく、変なサイトの見過ぎだ、自重しろ!!」
投げ付けられた言葉は痛烈だったが、された事がショックだったのか、その声は殆ど涙声だった。
金払えって言ったのは自分のくせに、と思いながらサムは冷静に返す。
「僕がおかしいというんなら、それはディーンのせいだよ」
ぴたりと始末をする手を止め、ティッシュを放り投げて、ディーンはゆっくりと振り返った。
「―俺の?」
 気付いてはいないのか、ディーンの目の端には涙が滲んでいる。
その目でまじまじと見られて、可愛い、と内心で思いながら、サムはそうだ、と返す。
「…ディーン、君さ、僕がこの間指を怪我したら、舐めときゃ治るって言いながら、そこホントに舐めてくれたよね?」
すると、口を尖らせてディーンは反論した。
「しょうがねえだろ、出先で消毒薬なんてなかったんだから」
破傷風になったらどうすんだ、とぼやく。それに構わずサムは続けた。
「他の男が怪我してててもそうするわけ?」
「するわけがねえだろ、気持ち悪りいな」
ゲイかよ、と眉をひそめて冗談ぽく言ったつもりで、今の状況を思い出したように気まずく目を伏せる。
「―じゃあ、なんで僕にはそうしてくれるわけ?」
「なんでって、お前…」

なんで?
なんでと聞かれても、正直ディーンは答えにつまった。
そうして、適当な答えを返す。
「…お前は、弟だし」
「弟だから?他の男はきもちわるくて、僕は気持ち悪くない訳?」

サムが気持ちが悪いなんてことがあるはずもない。
ディーンにとって、サムはこの世の何よりも綺麗な存在なのだから。
だが、到底そんな答えは返せない。

「:汚いことなんてねえだろ、兄弟なんだからよ」
と、当たり前の事のように言ってみる。そうだ、兄弟だ、家族なんだから心配しても手当をしても世話を焼いても、おかしくなんかない筈だ。
「―それが、おかしいっていうんだよ」
だが、サムは、頭を抱えてため息をつきながら言った。
「普通の兄貴は、弟の傷を舐めたりしない。
熱を測る時におでこで測ったりしないし、
寒いからって抱きついて寝たりもしない。
そういう行動に、兄貴だからとか、兄弟だからって理由は通用しない。
それはもう、母親か恋人の対応だよ」
淡々と子供に言うように説明をするサムに、ディーンは口元を曲げて腕を組んだ。
「なんだよ、嫌だったんなら後になってからネチネチ言わないで、そんときにズバッとそういやあいいだろ?」
感じ悪りいなお前、とそっぽを向いて怒ったように言うディーンに、嫌なんじゃない、とサムは言う。
「嫌じゃないよ。
 こないだ風邪をひきかけたとき、おでこで熱を測ってくれたディーンに、キスしてやろうかすごい悩んだ」
その言葉を聞いたディーンはぎょっとして組んだ腕を解き、サムの方へ顔を向けた。
その目を真正面から見返して、サムは続ける。
「切り傷を舐めて消毒して血を吸い取ってくれた時には、ディーンのくちびると舌の感触に、勃ちそうになって困った。あの後、ディーンが寝た後、君の舌の感触を思い出して、バスルームで抜いたんだ」
その告白に、ディーンは目を見開いて言葉もなく息を呑む。
「それに、数日前に寒いからあっためあおうぜって僕のベッドにもぐりこんで擦りついてきたときには、君の寝息が首に掛って、一晩中眠れなかった。
匂いと肌の感触にむらむらして、もうちょっと理性が切れてたらひんむいて犯してたと思うよ」
僕の理性の強さに感謝してよね。と。
あからさまな告白をそこまで聞いて、ディーンは石になるほかなかった。
当然だろう、至極真面目な顔と声で、弟に抑えつけられてイかされた上、自分にかけられ。続けて聞かされた言葉は自分に欲情しているという雄の性欲を露わにした告白で。
それは、正直言って、ディーンの理解の範疇を超えていた。
混乱したままのディーンの肩を掴んで、サムは怖いくらい真剣な顔で言った。
「僕が大切だと思うんなら、僕が他の男より特別なのなら、どうか考えてみて。
―本当は僕のことどう思ってるのか」
受け入れて欲しい、僕を。―ディーン。
そう言って、返事も待たずにサムは再びキスをしてきた。
先程と同じように、テクニックも何もないが、ひたすらに形振り構わず、激しく噛み千切るような口付けをされて混乱する。
それを受け入れながらも、ディーンは必死にサムの事を考えていた。
おかしい、と言われても、それが今までのディーンの日常で人生だったのだからよくわからない。
オンナノコとのデートよりサムを優先してきたのがいけないっていうのか。
お前が留守番を嫌がって泣くからそうしてきたんだろ!
そんな風に内心で罵りながら、それがいけなかったのか、とふと思い至る。
だけれども、ディーンにとって、今この兄の意志も何も関係なくむちゃくちゃなキスを貪る弟は、歴代の彼女達よりいつでも優先度が上回っていたのだ。
誰と比べてみても、何と比べてみても。
サムが一番。
スタイルのいい彼女の家のプールに泳ぎに来ない?という甘いお誘いより、セックスが最高の彼女の家でのディナーの美味そうなお誘いより、サムの笑顔。

え?俺の好みは、―――まさか、サム、なのか?
気付いてディーンは驚愕する。
確かに、サムはなんたって頭がいい。ディーンは頭のいい奴が好きだ。狩りだって親父仕込みでディーンの気付かない所に気付くし勘もセンスもいい。
インパラの運転だってディーン程じゃないがそこそこ上手いし、見た目だって割とイケてると思う。しかもキスも情熱的だ。キスが好きなディーンにとって、それは重要なポイントだった。
そこまで考えて、ハッとディーンは思う。
俺って、もしかして、ゲイ!!!???いや、それはない!!
確かに、サムの事は好きだ。大好きと言ってもいいかもしれない。
だって弟なのだ。可愛がって何が悪い?
ディーンには、サムとのセックスを想像した事など無い。無い、筈―だった。
少しづつ大人になり、いつしか成熟して逞しい青年になったサムの身体を、気付かれないように見ていたことなど、ない―筈だ。
自分とは質の違う、固い胸板に抱き締められたら、など―考えた事もない。考えたく、ない。
絶対ない!、と自分を否定しつつ、考えているうちにまた押し倒されて、ぐいっと力任せに足を開かされた、間に座ったサムが何か小瓶のようなものを開けている。
「…おい、お前ソレ何なんだ」
体勢と得体のしれないものの出現に戦いていると、
「大丈夫、自然界から抽出した、アレルギー検査済みの潤滑ゼリーだから」
至極真面目に答えられて、あ、そう。と言いそうな自分をディーンは待て!と叱咤する。
でも、正直金を受け取ってしまった以上、文句が言い辛い。ディーンはこう見えて義理難い性格だった。
そう考えて思わず言葉に詰まっていると、それを是の証ととったのか、とろりと指に掬ったソレを、案の定サムはディーンの後ろに塗りつけてきた。
少しヒヤリとした感触に身を竦める。
滑りを纏ったサムの指を、そこはあっけなく呑み込んだ。
「ッ……」
異物感に震えが走る。通常挿れる場所ではない。気持が悪くても当然だった。
耐えるディーンの表情を見ながら、あからさまに広げようとする動きで、ぐにぐにと後ろを解していたサムがある一点を擦る。
びくんっと強くディーンの身体が撓った。
「ココ、か……」
確認するように小さく呟いて、逃れようとする腰をサムに引き寄せられ、前立腺を執拗に攻められる。
それは、有り得ない快感だった。神経に直接触れられている感触がする。痛い程の刺激に、ひくひくと内腿が引きつる程痺れた。
浅く息を吐いて、サムの指が与える激し過ぎる快感に耐える。ディーンの体中から汗が噴き出す。
気付けば、ディーンの前は再び勃ち上がっていた。
「ク、ゥ、ッア、…―ッ!」
後ろに含ませた指で、そこを捏ね上げられながら前に軽く触れられ、先端を包まれただけで、ディーンはサムの手に吐き出していた。
あまりの壮絶な快感に、ぐったりしたまま荒い息を繰り返していると、手を拭い終えたサムに横向きから片足を抱え上げられる。
股間を丸出しにする様な開き方に、羞恥を感じて抵抗しようとすると、濡れた狭間に熱いものを感じてディーンは目を見開く。
「…ちょ、ちょっと待て、!サム!!!」
サムのモノはいつの間にかゴムを纏い、既に準備万端だった。
「待てない。もう十分僕は待ったよ」
もう限界、と言いながらサムは怖い顔をしてディーンの尻たぶを開く様にしてソコに自分のモノを抑えて宛がう。
自分がどうなるのかわからず、ディーンは血の気がひくのを感じた。
「大丈夫、ゆっくりするから…」
“僕にまかせて”と言ってサムはそのまま本当にゆっくりと腰を推し進めた。
ディーンが幼い頃にサムに何度も言った言葉だった。
―まさか、こんな風にこんな状況でサムから言われることになるとは夢にも思わなかったけれど。
「、―ッ!!」
入らない。そりゃそうだ。有り得ない位痛い。鼻からスイカ状態だ、とディーンは思う。
いくら指で解し、滴る程に濡らしたとはいえ、後ろが初めてのディーンに、サイズが通常以上のサムではあまりに相性が悪過ぎる。
それでも諦められないのか、どうにかして入ろうとサムはディーンの強張った尻たぶを強く広げ、濡れた入口に必死に押し入ろうとする。
「ディーン、入らない…ちから抜いて…」
「ムリだ、い、てぇ……ッ」
震えながら冷や汗を垂らすディーンに、ようやく無理だという事がわかったのか、サムは挿れようとする動きを止めた。
楽になってほっと息を吐く。
「入りたいのに、ディーンのなかに…」
悔しそうに唇を噛んで、べッドに伸びたディーンの頬に頬ずりするような仕草をされて胸の奥が疼いた。

お願い、ディーン。
そう言われて必死に身体の力を抜く。
お願い、と。今までの人生で何度サムに言われてきたことだろう。
その度にディーンは、父親との間に入ってキャンプに行く準備をしてやったり、転校の日をどうにか伸ばせるように画策したりと必死に駆けずりまわってきた。
嬉しかった、サムに頼られることが。それだけが自分の存在意義のような気さえしていた。
仔犬のような純粋な瞳で強請られれば、悪態をつきながらも、何でも言う事を聞いてやりたくなった。
そして、こんな風に圧し掛かられている今ですら。何もかもを明け渡してしまいたくなるのだから、始末が悪い。
本当に、兄貴は損だ。

あぁ、切れる…そう思いながらそのギリギリで、なんとかサムの先端を受け入れる。
ディーン、さきっぽ、入ったよ:、というサムの言葉に文句を返す余裕すら全くない。
それだけでももう限界に近いのに、サムは更にディーンの中に押し入ってくる。
ゆっくりゆっくり内臓の中を犯され、その度にひくっひくっと動物のようにひくつく。
ただ熱くて張り裂けそうに痛くて、ディーンの性器は情けなく萎え、体中が冷や汗に濡れて、さっきまでの快感は微塵もなかった。
そのうち、尻にサムの腰骨が擦りつけられ、ようやく全部が入ったんだということが分かった。
片足を抱え上げられた体勢もキツいし、限界まで押し広げられた後孔も痛いし、身体の中でドクドクと激しく脈打っているサムの性器も恐ろしい。
「んッ…」
だが、萎え切った前を、濡れたサムの手でそっと包まれて、声が漏れた。
優しく全体を包み込まれて扱かれる。裏筋を擦られて、気持ちがいい。
「…ディーン、ディーン!」
馬鹿でかいサムのモノが無理目なソコをぎゅうぎゅうのままゆっくりと出し入れし始める。痛みが強くなる。
揺らされながら、気持ちいい、死にそう…、と甘えるような声で耳元で言われて、その苦痛とは裏腹に、サムが自分の身体で感じているという事実に、ぞくりと産毛が逆立った。

―本当だ。
ディーンはようやく気付いた。
俺のせいなんだ。
サムが俺を求めてるのは、俺がそう望んでいたからだ。
俺がそう仕向けた。
他の人間とサムは比較対象にならない。
自分でも驚くほど、何一つ、嫌じゃなかった。
サムの匂い、サムの肌、サムの汗、サムの精液。
自分のものと同じくらい―いや、それ以上に近しく感じるサムの肉体。
自分を嫌悪することがないように、サムなら何一つ嫌じゃない。
―それがサムであるというだけで。
ずっと好きだったのは、―――俺のほうだった。

ディーンは、初めて自分の気持ちを確かに自覚した。

多分自分は、今情けないくらいいやらしい顔をしている。
サムの性器を後ろに受け入れて揺さぶられて、それで快感を得ている姿を見られて、その事に更に欲情している。
知らなかった、俺って変態だったんだ…
内心で自嘲気味に自分を揶揄するディーンに気付かないのか、サムが無理な体勢で身を屈めて口付けてくる。
足を開かされて揺すられながら舌を強く吸われると、背筋まで痺れるような快感が訪れた。
いつの間にか、目いっぱいに嵌ったサムにナカを擦られながら再び前が勃ち上がっている。
サムの引き締まった腹部で擦れた先端が濡れているのを感じて、それにディーンは酷く羞恥した。
幾度も求め続けるサムの欲望に発情期のメスのように流され、受け入れる。今までどんなにセックスが好きなオンナノコとも経験しなかったくらいに、サムと激しく交ぐわい。
気付けば、ディーンは意識を失っていた。
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翌朝暗いうちにふとディーンは目覚めた。
呼吸するだけで喉が痛む。
息を吐いた瞬間、唐突に昨夜の出来事を全て思い出す。喉が枯れるまで、サムの名前を呼んで喘いだ事を。
そうして、自分が、何も着ずにサムに子供のように抱き締められたまま眠っていたのに気付いた。
満足そうにディーンに額をくっつけて、子供のような安らかな顔をしてサムは熟睡している。

その寝顔を見て、ディーンは、自分の胸の奥が錐で突かれたように鋭く痛むのを感じた。
そこに有るのは、自分自身よりどうしようもないほどに、愛しい存在だった。
しばらく眺め、決意をしてそうっと起こさないように、静かに体を起こす。サムの腕から逃れ。手早く服を着て、一度だけ我慢が出来ずに眠るサムを振り返る。
何度見ても、同じ感情しか湧いてこない事に絶望した。
ドアノブに手を掛ける。
そして、ディーンは逃げ出した。
最愛の、サムの元から。






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