何を考えているのか、いつもディーンには良く分からないが、サムは怒っていた。 フックマンを退治して、呪いも解け、ようやく解放された彼女は、確実にサムを求めていた。 例えそれが寂しさからでも、男女の恋愛なんてのはそうやって安易なところから始まるべきもんじゃないのか、とディーンは思う。 出会いは偶然だし、お互いフリーだ。寂しさを紛らわすためだけに身体を合わせて、一体何が悪いと言うのだろう? 流れていく景色は心地の良い晴天の下の郊外でたまに緑田園が広がり、窓を開けていると、とても気持ちがいい。 そんな中で暗い雰囲気の車内に内心で溜息をつきながら、ディーンはちらりと助手席の様子を伺う。 すると、車に乗り込んだ時のポーズのまま、サムはむっつりと難しい顔で前を向いていた。 彼女を守りながらフックマンと格闘したせいで、腕には痛々しく包帯が巻かれ、逆の肩までもを軽く痛めている。 今回は確実にサムのほうが重労働だったしな。そう思って、いい気分で風に吹かれながら運転していたディーンが なんとか労ってやろうと考えていると、唐突にサムが口を開いた。 「…そうやってさ、ディーン。僕を女の子とくっつけようとするの、やめてよ」 どうやら、発ち際に言った「残るか?」という言葉がお気に触ったらしい。 「別に俺はくっつけようと思ったワケじゃないぜ。あの子がお前を…」 「だから、それが余計なお世話だって言ってる。僕は常に恋愛の相手を探してウロついてるディーンとは違うんだから」 皮肉にも反論する事が出来ない。下手に言い返すと100倍になって返ってくることを身を持って実感しているからだ。 「―だけどお前、あの子の事、イイと思ってたんじゃなかったのか?」 良さそうな子だったじゃないか、と茶化さずに真面目な気持ちで聞く。 彼女は、牧師の娘で、華美でもなく真面目そうで―しかも美人だった。 サムの好みではないのだろうか。二人の雰囲気はなかなかお似合いだったのに。 これ以上の何を求めるんだ――そんな気持ちで聞くと。 「…浮気者は嫌いなんだ」 そっぽを向いて景色を眺めるようなポーズをとりながら、サムはぽつりとそんなことを洩らす。 ウワキモノって。 ディーンは内心で呆然としながら平静を装って運転を続ける。 確かに、彼女は数日前に彼を殺されたばかりだったけれど。 そして更に数日後には友人を同じ部屋で殺されたばかりだったけど。 その上、自分と父親も襲われたばかりだったけど。 ―だけど、そんな状況だからといって恋に落ちてはいけないという決まりはないだろう。 「―僕のこと、堅物だと思ってるんだろう」 むっつりとした声でサムが呟く。 あぁ!思ってるさ!!そんな事言ってたら世界中から戦争がなくならない限り恋も結婚も子作りもできやしない! お前隣の部屋の物音が気になってセックスを途中で止めるタイプだろう!? 思い切りそう答えてやりたかったけれど、勿論そんな事はいえない。 「―まあ、今回は縁がなかったんだな」 俺がもっとイイ女を見つけてやるから!ははは!と 乾いた笑いを浮かべてアクセルを踏み込む。 「…やっぱり全然わかってない…」 ほんの小声で溜息をつきながらサムが呟いた言葉は、このカタブツ野郎め!と内心でサムを罵っていたディーンには 聞こえてはいなかった。 **********  昨日は寝てないからな。  そう言って、隣町に入ってしばらく走り、手近なモーテルを探す。 飯はどうする?と聞くとサムは無言で首を振る。  雰囲気的に一人で食事をしに行くわけにもいかず、仕方なくディーンは見つけたモーテルに車を入れ、 サムがチェックインしている間に隣のガソリンスタンドでビールとチョコバーとスナックを買って後を追った。  ビール飲んでシャワーを浴びて寝るか。 やっと部屋に落ち着き、そう思っていると上着を脱いだサムが近付いてきた。  椅子に座ってビールをあおっていたディーンを、肘掛に手をついたサムが威圧的にじっと見下ろす。 ―こ、これはヤバい。 危険な雰囲気にようやく気付いたディーンは、そ知らぬ顔をしてビールをあおり、 「さーて、シャワーでも浴びて一眠りするか。お前もビール飲めよ」 と何気なく立ち上がる振りをしようとするが、サムに退く気はないらしい。 「…サミィ、お前も疲れてるんだろ?今日はもう―」 休もうぜ?そう言いたかったのに、困ったようなディーンの顔の前に、ずいっとサムは怒ったままの顔を近づける。 「ディーンって、ホンっとうにわかってないよね。それでよく女の子引っ掛けられるよ…あぁ、一夜だけの関係が多いから、 相手の気持ちなんてわからなくてもカラダだけ喜ばせられれば問題ないか」 怒らせようとするようなサムの言い草に、眉を上げるが、とりあえず本当の事だから別に怒る気にもならない。 「…何がいいたいんだ、お前」 「ディーンには、僕の気持ちなんてどうでもいいんだなってこと。」 「そんなこと言った覚えないぞ」 サムのことを何よりも優先してきたではないか、と思い、ディーンは軽く胸を張る。 「そういうんじゃなくて…僕の、想いってことだよ。」 わかる?と言われて、なんとなくわかりたくもないがわかってしまう。 数週間前―――1度だけ、サムと寝た。 苦しさの余り、縋るようにして手を伸ばしてきたサムを、拒むなんていう事など、ディーンには思いつかなかった。 男同士だからオンナノコと寝るようには簡単には行かなかったけれど,痛みと共に、思いも寄らない壮絶な快感を覚えた。 だが、翌日からすぐ次の狩りが待ち伏せをするように潜んでいて。 気の迷い、というしるしをお互いに植え付けながら、無言でそのことは忘れた振りをしていた。 サムもそうだ、と。そう思っていたのに―――。 狩りの間は、ナンパはしても、シケこむことはしないとサムと約束している。 息抜きのナンパの為に、狩り中にサムの側を離れて互いが命を落とす事にでもなったらシャレにならないし、それはディーンも了承していた。 だから、しばらく誰とも寝ていない。―お互いに。 そのディーンに、キスをするような至近距離まで近付くと、サムはゆっくりと左頬を辿るように指先で撫でた。 触れるか触れないかのタッチに、ぞくっと震えが走る。 「…どうして、わかってくれないのかな…」 こんなに……と、辛そうに呟きながらくちびるをあわせようとするサムを顔を背ける事で拒む。 その時、はっ、と皮肉そうに吐いた息に、サムのスイッチが切れる音を聞いた気がした。 「ディーンがそういうつもりなら、別にいい」 にっこりと笑ういつものイイヒトそうな顔とは異質の、凍るような笑み。 サムの、隠された昏い内側をほのめかす、それ。 サムを苦しみの底から救い出したい、だけれども悪魔のようなサムは見たくない、そんなディーンを内心震え上がらせるような、みた事もない表情をサムはしていた。 ぐい、と荒く顎を捕まれる。ぶつけるように口付けられて、顎を割られて無理に口を開けさせられる。 ずるり、と熱い舌が口腔内を荒らし、舌同士を擦り合わされてキツク吸われる。 「んっ…ん、ぅ…ッ」 苦しさに顔をずらそうとしても顎をつかむサムの手は外れない。 まるで犯されているかのように深く、ひとしきりディーンの柔らかい唇を貪った後、ようやくサムは顎から手を離した。 「はぁっ、はぁ、…くそっ!」 どさっと背もたれに体重を預けて、強くつかまれ過ぎてジンジンするあごと、互いの唾液でべたべたの口を手荒く拭う。 何か言ってやろうと顔を上げる前に、目の前のサムに右手をぐっと捕まれて肘掛に戻される。 何すんだ!と怒鳴る前に、カシャン、という小さな金属音と共にひやりとする間もなく。 え、と思った次の瞬間には、もう一度カシャン、と言う音がして、右足首に、冷たい感触。 椅子に座ったディーンの足の間に膝まづいたサムが手にしているのは、安っぽいピンクゴールドに光るわっかがハート型の、手錠、に見える。 自分の右手を見ると、肘掛の縦棒に、同じ手錠で固定されている。 慌てて足を見ると、右足も同じ。右前の足にしっかりとお揃いのそれははまっていた。 なんだこれ、とみていると、ちゃり、と手の中のまだ何もはめられていないそれを揺らすと、にっこりと今度はいつものサムの笑みで口を開く。 「聖バーナビス教会の倉庫にあったんだ。銀じゃないけど一応、と思ってて忘れてた。牧師さんが使うのには あんまりにキュート過ぎる品だし、一体何の為に用意されてたんだろうね」 「サミィ……」 おい、お前、と怒ったり怒鳴ったりするまもなく、再び強く引っ張られた左手を、右手と繋がれる。 これで、ディーンが自分の意志で自由になるのは左足だけになった。 何がしたいのか、何をされるのか、考えるのも恐ろしくて、呆然と手を揺らす。 ぐい、と力を込めて強く引っ張っても、ガチッという金属音を出すだけで、手錠は簡単には外れそうになかった。 目の前で立ち上がったサムを見上げて、ディーンは呟いた。 「…お前、一体何考えてるんだ?」 「わからない?きっと、ディーンには、言っても分からないよね」 だって、僕に他の女の子を勧めるんだ、分かってる筈ないよね。 哀しそうに笑って、サムは視線を落とす。 「…僕の方こそ聞きたいよ。“ディーン、何考えてる?”って」 ********** 「…何も考えてねえ、とりあえずコレ外せ」 上目遣いに睨むような視線でディーンはカチャカチャと左の肘掛に固定された手錠を揺らす。 「外したら、怒って出て行くつもりだろ。それで、どっかで女の子をひっかけて今晩は帰ってこない。だろ?」 ディーンの行動パターンなんか読めてる。 そう言うと、図星だったのか、口元を歪めて更にキツイ視線が見上げてくる。 そんな視線と、拘束されたポーズが、異常にサムの奥底に眠っていた被虐心をそそる。 絶対に外さない。 外すもんか。 兄貴は、僕のだ。 口付けたら噛み付かれそうで、片膝をついて首筋に口付ける。 一瞬何をされるのかとびくついたディーンは、首筋に吸い付いてシャツの下をまさぐり始めたサムの行動で、 何を求めているのかをようやく気付いたらしい。 少し汗の味がするしっとりした首筋を舐め上げ、柔らかく引き締まった胸元を撫でてまだ柔らかい乳首を指先でこする。 一度だけの交合で、それでも、サムは兄の何処が弱いのかに気付いていた。 指先で揉むようにすると、こりっとした芯が生まれて固くなる。 いやらしい感触にたまらなくなる。 手を拘束している為にシャツは脱がせられないから、中に着ているTシャツを胸元まで捲り上げまだ柔らかい右の乳首に齧り付く。 ヒッと息を呑む気配がして、スグに勃ち上がった尖りを舌先で飴のように吸い舐る。 夢中でジュクジュク吸っていると、頭上から困ったような声が降ってきた。 「…サム、…サミィ?なぁ、コレ、外せよ。…シたいんなら、ベッドですればいいだろ?」 サミィ、とディーンが呼ばなくなったのは、ジュニアハイスクールに上がったサムが、そう呼ばれるのを嫌がったから。 サミィって呼ぶなよ、と怒ると、ディーンはわかったわかった、と言いながら少し哀しそうな顔をしていた。 だけれども、今はサミィと呼ばれる事が心地いい。 もっと呼んで、と思うくらいに。 サミィと呼ぶディーンの声に、イきそうなくらいに。 なあ、聞いてんのか、と焦れるディーンの言葉を、乳首を血が出そうなほど噛む事で一蹴して、震えさせた後、蹴られる前にと、ベルトに手を掛けジッパーを外す。 ジーンズをボクサーパンツをまとめて力任せに擦り下ろす。 この野郎!、と罵るディーンの協力は勿論ないから、中途半端にしか脱がせられない。 僅かに勃ち上がっているディーンのそれに目をやってから、ふと立ち上がる。 スゴイ眺めだった。 くちびるは吸われ過ぎたのか赤くなって唾液で濡れているし、 腕まで捲くったシャツはそのままに中のTシャツは両方の腫れた濃いピンクの乳首をいやらしく晒している。 引き締まった下腹から下は、足の付け根まで擦り下ろされたジーンズと下着のせいで、髪より若干淡い色のアンダーヘアから半勃ちのアレが丸見えだ。 その上、両手を右の肘掛に拘束され、左足も手錠を掛けられている為、少し冷静になって見下ろすと、兄の美貌も相俟って、壮絶にエロティックな眺めとなっていた。 見た瞬間、一気に股間が張って痛いぐらいになる。 このまま、拘束したままで、ディーンが泣いて哀願するくらいまで、めちゃくちゃに犯してしまいたい。 そんな目で見られているとここまで来ても理解していないのか、ディーンは顔を顰めて、視線を床に落としている。 「サミィ、セックスしたいんなら、もっと…、なんつーか、フツーにやろうぜ?」 「弟を思い遣る兄貴としては、拘束プレイにもえる弟が心配だっていうわけ?大丈夫、ディーン以外に、こんなことしたいと思わないよ」 立ったままベルトを外し、膝を付いて殆ど完勃ちしている自分のモノを取り出す。 そらしていた視界の中に突然飛び込んで来たグロテスクなモノに驚いたかのようにディーンはサムの顔を見た。 「ディーン……手…、嫌…?」 手錠で拘束され、だらりと肘掛から落とした手に、そっと乞うように熱を持ったソレを触れさせる。 眉を顰めて欲に支配されたサムの顔から目をそらすと、軽く顎をしゃくるように頷いて、ディーンはサムのソレを不自由な手でそっと包んだ。 ********** ディーンが触れ易いように腰を近付けると、繋がれた手をぎこちなく動かして、ゆっくりと包まれる。 その手を温かいと感じない程に、サムのソレは猛っていた。 両手で包むように幹を強めに扱かれ、合間に先端をヌルヌルと撫でられる。自分のキモチイイところを弄ってくれているのか、ディーンの手は恐ろしく巧みだった。 括れをゆびで辿られて腰に痺れが走る。気付けば、目を伏せて奉仕するディーンのモノは、半勃ちのまま力を失ってはいなかった。 僕のを触ってて、キモチ悪かったら、萎えるよね、普通。とサムは少々嬉しい気持ちになる。 片手を伸ばして緩く包んでやると、ぴくりと力を増す。ゆっくりと優しく扱いてやる。 「ディーン、…気持ちいいよ」 荒い息のまま、目元を赤く染めたまま目を伏せて無言で続けてくれるディーンに、頬を摺り寄せるようにして言う。 それをイきたいという意味だと取ったのか、ディーンは張った裏筋を揉み出すような動きで擦り上げ、先端を絞るようにして刺激する。 違う、イくのならディーンのナカでイきたいのに、と思ったサムは、ディーンを愛撫することも忘れて、それを激しく繰り返された一瞬後、低くうめくと限界を超えて吐き出した。 はぁはぁと荒い息を繰り返しながら、ゆっくりと閉じていた目を開けると。 とっさに手を離すことができなかったのか、サムはもろに拘束されたディーンの手の中に全てを放っていたようで。 両手をサムの白濁でべとべとにされ、腕まで少し散っているディーンは、呆然とした表情で汚された自分の手を見詰めていた。 「あっゴ、ゴメンッ!」 手を拘束されていては、逃げるに逃げられず、唐突に達したサムをティッシュやタオルで包むと言う事も不可能だったのだろう。 慌ててティッシュをとってきて手を拭ってやる。 「…自分でやるから」 だから外せよ、と汚れを拭き取るサムの目の前で、ディーンはホラ、と手錠を揺らす。 いやだ、と思った。 離せば、こんな行動をした自分をディーンは今夜許さない。まだ、兄の躰に未練があった。 「サミィ!」 まだ外す気のないのに気付いたのか、ディーンが怒鳴る。 頭突きをしてくるか、蹴りを入れてくるか、そう思った時に、あられもない姿の兄の股間で萎え始めたモノに、サムは顔を伏せた。 「サ、サム!!??ヤメロッンなこと、すんなッ、こら…う……ッ」 手錠を外して逃げたがるディーンをその気にさせたくて、むちゃくちゃに舐めしゃぶる。 喉の奥まで迎え入れてキツク吸引し、甘噛みして歯で幹を擦る。 「ハァッ、あ、アッ…、んぁ…ッ!」 深く出し入れして先端に吸い付き、タマを少し強めに揉んでやると、予想外なほど甘くカワイイ声を上げてディーンが達した。 口の中に溢れたモノを軽く飲み込んでから離し、まだぴくぴくと垂らしているそこを最後まで絞ってやる。 背もたれにどさっともたれ、頭をがくんを後ろに反らせて息を整えているディーンは、サムが飲み込んだのに気付いたのか、ギョッとして頭を上げた。 「クソッ…げっ!お、お前まさか、…飲んだ、のか?」 ウン、と頷くとウゲーッ、ありえねえ、と再びがくんと頭を仰け反らせる。 そんなディーンに覆い被さるようにして、サムは顔を顰めて目を閉じているディーンの顔を包むと深く口付ける。 気付いたディーンが避けようとした時には既に遅く、深く舌を絡めて、考えたくもない自分自身のアジを思い切り味わわされた後だった。 「ウゲーッ!!てめえ何しやがる!!」 bitch!!!ふざけんなっ!といって、ペッペッと吐き出すディーンに、溜息をついてサムは言う。 「僕と同じコトして?って言ってるワケじゃないんだから、これくらいいいだろ」 「同じコトって、お前…」 目を見開いて呆然とディーンは返す。 「お、オレにフェラしろってのかよ…?」 お前のを?そんなデッカイの、絶対無理だ。拷問かよ!とブツブツ小さい声で繰り返しているディーンを放っておいて、 左足のブーツを引っこ抜き、太腿まで下げてあったジーンズと下着を、左足だけ脱がせようとする。 「何すんだ!!??オイ、いい加減に…」 声を荒げて抵抗しようとするディーンに、顔をずいっと近付けてサムは言う。 「ディーンは口ではしたくないみたいだから、僕のはディーンのココでしてもらおうと思って。口でしたいんなら、モチロンそれでも僕は構わないよ」 ディーンの尻の狭間に指を忍び込ませながら、その場合は僕の全部飲んでね、とニッコリ笑顔を作って言うと。 ディーンは信じられない、というように目を瞬かせた。 瞬きしたってオトウトがこんなことを求めているというこの現実が消える筈もないのに。 外せ、といい続ける事が無駄だとようやく諭ったのか、右足には膝までジーンズと下着を絡ませたまま、後の下肢は全裸で、そのうえ左足を肘掛にひっかけるようにして 浅過ぎるぐらいに尻をずり下げた状態で、ディーンは股を大きく披かされている。 間には、サムが座り込んで広げさせた足を抑えたまま、ディーンの後ろを指で犯していた。 前回のコトの後、絶対に次は使おうと思い、サムがネットの評判を見てドラッグストアで吟味しておいた潤滑ゼリーは、ディーンのソコを滴る程に濡らし、指を動かすたびにくちゅくちゅと卑猥な音を立てている。 無理な体勢でネットリと後ろをほぐされ、もう文句も言わなくなったディーンは、震える息を抑えながら、イイトコロを探る、サムのゆびの動きだけを感じているようだった。 ディーンはTシャツの色が変わるほど汗をかいて、前は勃ち上がっている。 その事に安心して、この状態では挿入が厳しいサムは、「ディーン、右足だけ、外すから」と囁くと、右足首を戒めていた手錠を外し、靴をぬがせた。 両膝を抱え上げるようにして殆どディーンの尻を上に向かせて、自分の怒張したモノをディーンのべとべとに濡らしたソコへと宛がう。 「ディーン、ディーン、挿れるよ…?」 囁いても、ディーンは顔を反らし、目を閉じたままで何も答えない。 自分を見て欲しかったけれど、この行為を強いている以上、当然かもしれないと思いながら、サムはディーンのぬめるソコへと押し入った。 「う、…ん、ン…ッ!」 苦しそうにうめくディーンの声が聞こえる。 キツイ。きついけれど、前回と違って時間をかけてほぐしたせいか、なんとか先端を埋め込む。 強烈な締まりに、それだけでもイきそうになって息を吐く。 足を支えている手に、ディーンの強張りが伝わってくる。みれば、キツク閉じた目元が赤く染まっている。 「ディーン、痛い?ゴメンね、ゆっくり…」 ゆっくりするから、とめちゃくちゃに突き上げたい衝動を抑えて、必死にゆっくり腰を進める。 なんとか全部呑み込ませて、ひくひくと苦しそうな呼吸を繰り返す、ディーンの様子を伺う。 「ディーン、まだ、痛い…?」 すると、ディーンは閉じていた目をゆっくりと開いてこちらを見た。 こぼれそうに涙で潤んだエメラルドを溶かしたような瞳が、二度、三度、と瞬きをする。 長すぎる下睫毛に、涙の粒がころりと乗る。 何か言おうとしたのか、ディーンが噛み締めすぎていつもよりさらにぷっくりと腫れた唇を開こうとしたのに、言葉を紡ぐのを待つ事は出来なかった。 「ぅ、ンあッ!!…アッ、あ、あ」 ガクガクとディーンの頭が椅子の背に当たるぐらいに激しく出し入れをする。 腰がディーンのむっちりした尻たぶにあたって肌の触れ合う音が鳴る。 二回大きくグラインドしたとき、仔猫のような声を上げて、唐突にギュ、とディーンの中が締まる。 そのまま、身体を強張らせてぴゅぴゅっとディーンは自分の腹に零した。 慌ててサムが手を沿えて扱いてやる。 出したばかりでやわらかい先端を軽く撫でてやると、ヒクッヒクッと全身を喘がせるのが可愛かった。 全然足りなかった。ディーンが。 イってぐったりしているディーンの手首が、手錠にスレて皮がむけているのに気付いて、 ようやく外す。 いくらなんでも、僕がナカに入ってるのに、逃げないよね。 そうして、繋がったままディーンを椅子から床へと抱き抱えて下ろした。 ゆっくりと挿れ直すと、背を仰け反らせたディーンは、ふと自分の手が自由になっていることに気付いたらしい。 ゆるゆると揺らされながら、重そうに右手を持ち上げると、手首の傷をぺろりと舌を出して舐める。 それを見て泣きそうになるサムにちらりと目をやると、両手を伸ばして、サムの頭を抱え込むように引き寄せる。 「大丈夫だ…サミィ…」 掠れた声でそんな風に言われ。 泣きながら律動を繰り返して、サムは熱く締め付けるディーンの中に思いの丈を吐き出した。 **********  ディーンが気付くと、ベッドの上で眠っていた。 上掛けの下は何も着ていないようだが、手首の傷は手当てがされて包帯が巻かれている。 ずっしりと重い身体の感触では、サムが始末をしたのかべたつきはない。 ―サムが居ない。 あいつ何処行ったんだ? 不安になってとりあえず身を起こそうとするが、無理な体勢を強いられていたせいで全身の間接がぎしぎしと痛む。 今悪霊に襲われたらひとたまりもないに違いない、とディーンは舌打ちをしてなんとか上半身を起こす。 と、ガチャッと音を立てて、バスルームからサムが出てきた。 「あ」 口走ると、あわてて近づいてくる。 「ディーン…大丈夫?」 心配で探したくせに、見つかると今度は顔を見るのが怖くて、痛む身体を無理に寝返らせてサムに背を向ける。 「…ビール」 言うと、慌てて冷蔵庫から持ってくる。 蓋を開けた瓶を差し出され、口をつける。 背後で大人しくしていたサムは、ディーンの背中に向かって口を開いた。 「…僕は―謝らないよ。ディーンが、僕に女の子を勧める限り、こうして僕の気持ちを、身体でわかってもらうから」 決めたんだ、というサムの声は、冗談どころか真剣そのもので。 背を向けたまま、ディーンは苦笑しながら背筋を寒くする。 「…もうわかったから、お前には、ナンパしろっていわねえよ」 兄を思い続けて、苦節幾年。 ようやく、ようやく僕の気持ちをわかってくれたのか、と目を輝かせるサムの耳に、とんでもないぼやきが届いた。 「俺の勧めるオンナノコは、お前の好みじゃねえってことなんだろ?だったら、好きなタイプのコを自分で探せばいいさ。ただし!ナンパがヘタクソで逃げられても俺に泣き言いうなよ」 ふあーぁ、ぐたぐただもう、俺は寝る、といってビールを飲み干すと、空き瓶を転がして、上掛けに潜って寝てしまう。 取り残されたサムは、呆然とするしかなかった。 こんなに、こんなに頑張ったのに。 やっぱり、ディーンは全然分かっていない。 無茶苦茶して泣かせたつもりでおろおろしていたのに、結局泣かされたのはサムのほうだった。 とぼとぼとシャワーを浴びにバスルームへ入る。出てくると、流石に疲れたのか、グッタリした様子でディーンはすっかり寝入っていた。 性懲りもなく枕もとを覗き込んで、寝顔を見つめながらサムは思う。 ―なんでこんなに鈍感なんだろう、兄貴は。 キャシーとのこともそうだったけど、オンナノコをひっかけて一晩だけうまくやるのは誰よりも上手にこなすくせに、 向けられる本気の思いを正しく理解して受け止める事や、自分の思いを上手く伝える事に関しては、知り合ってきた女性の数に比べて恐ろしくヘタな気がする。 おかげでキャシーと再復活しなくて、僕的には助かったけど。ディーンは、彼女の側に残った方が、シアワセだったのかもしれないけれど。 深く閉じられた睫毛。 恐ろしく整った彫刻のような顔立ち。 誰よりも熱い心と正義感を持っているくせに、それを普段はナンパな態度で隠している。 ―ディーンは、知らないのかもしれない。 家族に必要とされて、学校にも満足に行けずに狩りを任務をこなすこと、忠誠を、愛を求められて貪られ、与えるだけ与えてきた彼は。 ただ無償の愛を注がれて、愛しかえす方法を知らず、そのまま大人になるしかなかったのかもしれない。 赤ん坊にミルクや栄養を十分に与えていても、一度も抱かず愛情を注がずにいると、しだいに衰弱して死んでしまうという。 母さんが居なくても、父さんが振り向いてくれなくても、ディーンに深く愛情を注がれ大切にされて育った僕は、ひとの愛し方を学んだ。 おかげで、失ったけれどジェシカに出会い、たくさんの友人も出来た。 ディーンが居なければ、多分僕は親父に振り回されて反発し、何処かでノタレ死んでいただろう。 今の僕を作ったのは、ディーンが必死に注いできてくれた愛なのだと思う。 ―だから、今度は僕が教えてあげる。 求めることを知らないディーンに、溢れるほどの愛を。 他の誰でもなく、彼から愛を注がれた僕の愛をいま返すから。 だから、もう一度僕を愛して欲しい。 子供の頃くれた愛とは、違ういろの想いで。 泣かせたせいか、まだ赤い目元に、そっとくちづけを落とす。 ひとつあくびをしてずるずるとディーンの隣にもぐりこみ、嗅ぎ慣れた柔らかい匂いのする首筋に鼻先を埋めて後ろから抱き締め、ちょうどいい場所をごそごそと探ると、サムは安心して眠りについた。 ***** Side:DEAN ふあーぁ、ぐたぐただもう、俺は寝る、といってビールを飲み干すと、空き瓶を転がして、上掛けに潜ってすぐさま眠ったフリをする。 つっぷして眠る姿勢をとりながら、サムのため息を聞く。 ―本当は。サムがヤリたいなら、いくらでもしていいのだけれど。 サムのするセックスは予想することも出来ない程巧みで、シツコクて偏執的で。そして何より―すごく、気持ちがよかった。 あんな快感は前回感じた覚えのないものだった。 ヘタしたら自分がオンナノコにいつもするよりずっとあられもなく激しく泣かされたような気も―それは、考えない方向にしよう。 バスルームが閉じる音と、シャワーの浴びる気配を感じながら、ディーンは上掛けにくるまって目を閉じる。 視界を遮ると、体の奥にまだ、サムを咥え込まされていた感触が残っている。 胸は吸われ過ぎてヒリヒリと痛むし、ちょっと動いただけでも関節はギシギシで、明日は起き上がれないかもしれない。 それらは、全てサムの執着と、自分の許容―許した覚えはないのだが―を現していた。 サムに食いつかれて異常なまでの快感を覚えたのは、自分がサムを大好きだからなのか。 サムが上手いのか。 それとも躰の相性がいいのか。 正直言ってなんなのか、よくわからない。 だけど。兄貴とヤって、それで満足するんじゃ、サムの為にならないよな。 サムの心の奥まで見透かされそうな真剣な視線から逃げたくて、潜ったベッドだったけれど、次第にうとうとしてくる。 …もし俺がオンナノコで、兄弟じゃなくて、そしたら。 サムのやりたいだけやらせてやって、いくらでも包み込んで愛して上げられるけれど。 側に寄り添い、子供を育てて、サムに優しい幸福を与えられるけれど。 ―俺には、何も出来ない。 共に戦う事と、ただ癒えることのない傷を舐めあう以外には、何も。 …だから、だめだよな。 どんなに、誰よりも、サムを愛していても。 これは、きっと家族愛ってやつなんだから。 目を閉じてうとうとしながら延々考え込んでいると、唐突に目の前がうすぐらくなり、そっと柔らかいものが唇に触れて離れる。 サムにキスされたのだと脳が理解した瞬間、びっくりするぐらい心臓がどきどき言い始め、動揺した。 な、なんだいまの。カノジョにするみたいなヤサシイキスしやがって!この野郎!真面目な顔してスケベで遅漏の巨根のクセに!! そのまま、もぞもぞとベッドにもぐりこんだサムは、よいしょ、とか小さい声で言うと、ディーンを後ろから抱きこむような形で首筋に鼻先を埋めてすやすやと眠ってしまった。 甘えるような態度と、掛かる深い吐息に、胸がむずがゆく、甘く締め付けられるように痛むのは、多分気のせいだ。 そんな恋愛にお決まりの痛みからは目をそらして、おいおい、にーちゃんのベッドに内緒で潜り込んでくっついてねるとこは昔とかわっちゃいねえけどな、サミィ?と口元を歪めて笑う。 手錠で拘束プレイの後になんていうのは、幼い頃の天使のようなサムから思うと想像もつかないものだったが。 背後から伝わるあたたかさが、くたくたのからだとひび割れた心とをゆっくりと満たしていくのが分かる。 この世の何よりも安心する、サムの匂い。 お前が、幸福になれるのなら、俺はなんだってしてやる。 SMだろうが、フェラだろうが――それには、多少の努力と訓練が必要かもしれないが―きっと、次はしてやる。 決意と共に、抱き締められたままとろりと訪れる眠気は今までに感じたどれよりも心地いいもので。 束の間だと、自分に言い聞かせながら、サムの熱に包まれて、ディーンは吸い込まれるように、泡沫の幸福な眠りに落ちた。