はじめに: 1982年から撮影が開始されたこの映画はタルコフスキー初の海外製作(ロケとしては、1970年の惑星ソラリスで 日本の首都高速道路が使われた)であった。この撮影と共にタルコフスキー自身もソ連より亡命することとなり、 故郷には戻ることはなかった。本作「ノスタルジア」というタイトルがその後の故郷への郷愁を暗示させている。 以前の作品と同様に本作もタルコフスキー映像特有の水、火、廃墟がモチーフとなっているが、 廃墟シーンについてはイタリア、トスカーニ地方でのロケということで場所などが特定され、素性がはっきりとしてきてはいる。 この点が、ソ連でのロケが主体だったため、ロケ地などが明確でなかった以前の作品との違いでもある。 今回、この「ノスタルジア」の廃墟シーンを抜粋して、それぞれ紹介し、検証をしてみたいと思う。 |
座り込むゴルチャコフと傍らの犬、故郷の家を廃墟の聖堂が包み込む・・・ どうです?もうワケわからんでしょう?夢の話みたいで・・・ |
ドメニコの廃屋 注)ドメニコの廃屋については、裏口、建物の外観と内部の各部屋は別々の所で撮影されたと思われる。 |
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(外観) イタリア中世の山岳都市の典型的な 街並みの中にある建物だが、 とても廃墟的だ。 よく見つけたと思う。 |
(内部の部屋1) ゴルチャコフが扉を開けて、 思わず立ち止まってしまった部屋。 床がゴミのようなもので荒れているが、 カメラがズームインすると、それが故郷の 野山を上空からみた景色に変わっていく。 本編や惑星ソラリスのラストシーンに通じる タルコフスキーらしい映像だ。 |
(内部の部屋2) |
水びたしの病院の廃墟 注)DVDのチャプタータイトルでも本編の中の台詞でも病院という設定になっているが、どうみても教会堂かなにかの廃墟だ。 タルコフスキー日記Uでは沈める教会となっているのでその解釈が正しいのだろう。 |
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(入り口) ゴルチャコフが水の流れに沿って入っていく。 |
(その内部) 屋根が抜け落ちて、建物の中心が池に なっている。謎の少女(天使)アンジェラが現れる。 |
ゴルチャコフがロウソクの火を消さずに 普段はプールのような露天の温泉だが、お湯を抜いて清掃中という設定だ。 |
ゴルチャコフが約束を果たし倒れた後、ゴルチャコフと犬と故郷の家が廃墟に包まれるシ−ン | |
ロケ地:トスカーナにあるシトー教会のサン・ガルガノ教会跡、 |
ラストシーンへの前振りで教会跡を さまようゴルチャコフ この人物と建物のスケール感の刷り込みが、 ラストシーンのインパクトを倍増させている。 |
このラストシーンに魅せられて、もうすっかりやられてしまったという人は多い。 このシーンの撮影にあたっては、サン・ガルガノ教会跡のなかに土をもって小さな丘を造り、 |
サン・ガルガノ教会跡のラストシーンがある絵画と酷似しているというのはよく知られている。 (2)「廃墟エルデナ」という作品で、作者は19世紀のドイツの画家、カスパル・D・フリードリッヒ。 基本的には風景画家でたまに人物が点景で出てきても皆後ろ向きとか跪いているとかでまともに書かない。 そして代表作(1)「オークの森の僧院」のように風景の中にやたら廃墟など暗いモチーフが多いというのも特徴だ。 フリードリッヒとエルデナについては2003年にNHKで放映された「美の巨人」でも紹介されている。 フリードリッヒはバルト海に面した小さな港町グライフスヴァルトで生まれた。その町にはサン・ガルガノ教会と同じシトー教会の エルデナ修道院跡があり、その廃墟に魅せられたフリードリッヒはそれをモチーフに何枚も絵を書いている。 その一つが「廃墟エルデナ」だ。 森の中の巨大な廃墟それに包まれるように建つ小さな三角屋根の家、木立、その前に書かれた2人の人物・・・ ノスタルジアのラストの構図とほとんど同じだ。またタルコフスキー移り住んだというロシアのイグナーチエヴォ村も廃墟はないものの 構図としてはよく似ている。これらがあのラストシーンの原点になっているのかもしれない。 |
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(1)オークの森の僧院 | (2)廃墟エルデナ | イグナーチエヴォ村 |