ニッポンの廃墟本の紹介(その4) 
つぐまるの廃墟アワーにもどる


ニッポンの廃墟本(その4) 
2005.12


前々回(2002.06)、前回(2003.08)、前回(2004.03)とニッポンの廃墟本を紹介してきたが
いわゆる廃墟本というのは、いい意味でも悪い意味でも、ついに煮詰まった時期にきてしまったかもしれない。
あまりにメジャーになりすぎて、一部の廃墟は観光地化されているものもあるという。
忘れ去られ、風化していく廃墟の美しさを密かに探求するのが廃墟研究の本来の姿なのに
もう本末転倒である。

対象物件にしても、それらに対する表現の切り口にしても出尽くしてしまった感は否めないし、
系統的にも軍事遺跡を対象とする戦跡系、鉱山、工場跡地等を対象とする産業遺産系、
打ち捨てられたホテル、旅館、病院等の廃屋系とフィールドワークの対象もだいたい絞られてきているようだ。
したがって、いままでの焼き直しみたいな廃墟本ではまったく通用しなくなっている。

そんな中、最近出てくるものは、数は少なくなってきているものの、内容的に充実したものが多い。
それらとまだまだ廃墟のキーワードに引っかかるものを含めて、今回紹介してみたい。



一般書籍・写真集編

 表紙                   内容とコメント                 ・

廃墟、その光と影       著:田中昭二 中筋純/撮影 発行:東邦出版 2005年2月

これは廃墟紀行の決定版ともいえるものだ。
著者・田中昭二氏と写真家・中筋純氏は廃墟本、廃墟映像においても実績があるが、
その写真と文章とでつづられたこの廃墟紀行はますます洗練された感がある。
小型本ではあるが、大型写真集にまったく引けをとらない。
主に鉱山などの著名な大型産業遺産系に絞られているが、
今までになかったアプローチもあり新鮮だ。
鹿児島の曽木発電所跡は1年の大半がダムに水没しており、
他の廃墟本でもあまり取り上げられていない。
ゴシックの教会跡を連想させるその姿は圧巻だ。

戦争のかたち          著:下道基行 発行:リトルモア 2005年7月

純粋に戦跡に特化した写真集だ。表紙の写真にもあるようにトーチカをクローズアップさせている。
実際にトーチカ建設に携わった人たち(かなり高齢)を探しあてて、インタビューもしている。
上陸禁止の為、あまり写真等の資料に乏しい東京湾第一海堡も掲載されて内容的にも充実している。
小型の写真集だが、全体的に洗練されている印象だ。
それぞれの戦跡の復元断面図にヒューマンスケールを入れて掲載しているのはうれしい。
廃墟になる前の姿がなかなか想像つかないからだ。
現存している戦跡の再利用パターンの紹介などもいままでにはあまりなかった切り口で楽しめる
ガイドマップも結構しっかりしている。

TOKYO軍事遺跡          著:飯田 則夫 発行:交通新聞社 2005年8月

月刊『散歩の達人』誌上で連載していた記事を加筆修正したもの本だ。
TOKYOとあるが、実際は首都圏、関東エリアの軍事遺跡で比較的身近に
あるものを対象にしている。
それらが廃墟となる前の証言、記録、写真をたどりながら、
それぞれを解明していこうという試みで、歴史的背景などがわかりやすい。
対象になっているものの周辺マップが詳しく表示されているのは、
ありがたい。ロケーション的に気軽に行けるのものが多い。
きっと散歩の達人の趣旨に則った選択なのだろう。

図説 日本の軍事遺跡 ふくろうの本/日本の歴史   著:飯田 則夫 発行:河出書房新社 
                                  2004年07月

TOKYO軍事遺跡の全国版というものだ。
日清、日露から太平洋戦争まで、日本各地の所謂廃墟化している軍事施設を
写真と史料と取材で旧日本軍の痕跡としてまとめている。
写真がモノクロばかりでちょっと寂しいけれど、歴史書という見方をすれば
とてもわかりやすい本だ。
日本の軍事遺跡というタイトルは廃墟研究の立場からいうとちょっと引いてしまう。
通常、軍事遺跡の対象となっている戦跡の中には、実際の戦闘行為が行われた場所も
多いからだ。廃墟研究のスタンスとして、いくら形態的に廃墟であっても、
多くの人命が失われた場所を廃墟として扱うのは不適切としている。
そういった意味では本書は意図的かどうかはわからないが、外してある。
その点を考慮し、廃墟本として紹介した。

幻想文学48号《特集●幻想建築文学館》       発行:アトリエOCTA 1996年10月

幻想文学であるからして直接廃墟と関係があるわけではないが、
特集が幻想建築文学館ということで、その内容が廃墟とかなりからまっているので紹介した。
その方面の著名な方たちによる建築幻想小説、インタビュー、エッセイ、エッセイ、
評論、ブックガイドなどで構成されているが、テキストだけでなくビジュアル系資料も
充実して掲載されているので、文学というところだけとらえてビビることはない。

トーキングヘッズ叢書 No.25「廃墟憂愁?メランコリックな永遠。」   
                       発行:アトリエサード 2005年11月

廃墟大全以来の骨太廃墟本だ。
やっぱりサブカルチャー系の出版社はこの方面に強いね。
廃墟をキーワードにバリバリきている。
廃墟=永遠=メランコリーは廃墟美学のもとにあるものだ。
それらへの探究心は、わかる人しかわからないのだろうけど・・・。
廃墟を劇場に変えて上演し続ける俳優・石橋蓮司氏へのインタビューや、
その他の廃墟論もさることながら、ビジュアル面でも廃墟を舞台に
フェティッシュな写真を撮る写真家・堀江ケニーの作品の掲載、
ベクシンスキー、ピラネージ、バラード、タルコフスキー、ボルヘスなど
廃墟に魅せられた作家や作品としては、はずせない名前が登場する

路地―Wandering Back Alleys      著:中里 和人 発行:清流出版 2004年12月

これは、日本の路地を撮った写真集だ。別に廃墟の写真集ではない。
しかし、写真を見ていくとどんどん引き込まれて、どこか廃墟の空気を感じるのだ。
それは、表通りをポジとすると裏通りがネガ、路地にいたってはもうネガネガという感じで
そこが、ネガティブの代表格である廃墟と通じているからなのかもしれない。
この写真集はそういった緊張感がある反面、どこかホッとするようなノスタルジーも感じる。
きっと子供の頃の生活のスケールというのが広い通りではなく、
路地ぐらいがちょうど身にあっていたからだろう。


帝都東京・隠された地下網の秘密 2  地下の誕生から「1-8計画」まで
                      
著:秋庭 俊 発行:洋泉社 2004年1月

東京の地下ほど謎につつまれた世界はない。 本書はその核心に解明に迫ろうとしている。
それはテロ対策、帝都の時代からの首都防衛のためか、ただ単に巨大なインフラの産物か?
いずれにしてもアンタッチャブルな部分があるのは否めない。
その点が地下世界に廃墟性を感じる所以だろう。
もちろん地下という存在がすべて廃墟に通じるわけではないが、
朽ち果てて隠れている存在として廃墟とつながりがあるものも多い。
そんなわけで本書を紹介してみた。
本書にはもともとVOL.1というのがあるが、比較して本書のVOL.2のほうが、廃墟性が高く、
砲台などにも重点をおき、東京湾第二海堡も詳しく掲載されているのでこちらを紹介した。

廃材王国 淡交ムック―遊美シリーズ  著:長谷川 豊 発行:淡交社 1998年8月

この本を廃墟本として紹介するのは、とても失礼な話であることは承知しているし、
きっとこの筆者も不本意であろうことも理解している。
そもそも人の住まいを廃墟と呼ぶのは社会的ルールにも反する。
自分の住まいを廃墟と呼ばれて愉快な人はいないからだ。

しかし廃材で出来た家というのは、どこかシンプルで研ぎ澄まされたような
廃墟的な美があるのも事実だ。あくまでもそういった切り口での紹介だ。
この本は、廃材と週末を利用し、30年間に八ケ岳山麓で25軒の家(ログハウス)を
建ててきた筆者のその製作過程を写真で追っていく体験記だ。
廃墟とは無関係の極めて建設的な内容で、読んでいくと結構引き込まれる。

解体した民家から出る材木を徹底的に再利用しようとする筆者の姿勢は
廃墟趣味とは対極にあるのかもしれない。
すべて対極にありながらどこか通じるものを感じるのも廃墟というももの奥の深さだろう。