ニッポンの廃墟本の紹介(その2) 
つぐまるの廃墟アワーにもどる

ニッポンの廃墟本(その2) 2003.8


前回(2002.06)ニッポンの廃墟本を紹介したときに、隠れた廃墟ブームの気配を感じた。
どうもそれは気配ではなく本当のブームのようだ。
書店によっては廃墟本(写真集)のコーナーがあるぐらいだ。
そして癒し系?のDVGとして廃墟映像のDVDまで発売されるに至っている。

ブームになれば当然、廃墟関連本が出版されるので、廃墟研究が充実してくるのは、
大変喜ばしいことではある。
しかし!あくまでもブームであるからどこまで続くかわからない。
単なるブームにのって廃墟を荒らさないで欲しいという思いもある。
ただでさえ廃墟は荒れているのだから・・・

という訳でまたまた世話人所有の日本にある廃墟本を一挙紹介してみたい!

廃墟の分類の中に、工場、鉱山、戦跡などがある。
その中でも戦跡については、短絡的にイコール廃墟という扱いをされる傾向が最近特に強いようだ。
しかし、そこがかつて戦闘地域であり、多数の人命が失われたような場所を単なる廃墟として
とらえるのは、世話人としてはかなり抵抗がある。そのような切り口で見るものではないと考えている。
したがって、廃墟アワーで対象としている戦跡の類は、ほとんど実戦で使用されることなく、
経年変化により朽ち果てているもので、どちらかといえば産業遺産として
評価されているものに限るようにしている。

戦跡関連の廃墟本の紹介についても同じスタンスでとらえている。

一般書籍・写真集編

 表紙                   内容とコメント                 ・

廃墟をゆく    Dethtopia series  著:小林 伸一郎, 田中 昭二 二見書房 2002年12月

「廃墟遊戯」「廃墟漂流」で廃墟写真家としての地位を確立した小林 伸一郎氏の続編
ともいえる撮り下ろし写真集だ。よくまとまった廃墟写真の集大成という感じだが、
前2作のストレートさのようなものがなくなっているような気がする。
廃墟写真はあまり細工してまとめないほうがいいのかも・・・

日本戦跡 安島太佳由写真集    著:安島 太佳由 発行:窓社 2002年6月

北は北海道から、南は沖縄まで、全国各地34都道府県に散在する戦跡を足かけ8年余の
歳月をかけ
て取材。トーチカ、レーダーサイト跡、軍需工場地下通路、地下壕などなど・・

消えゆく戦跡写真の集大成。
とても見ごたえがある。
モノクロの写真がやはり廃墟には合う。

日本戦跡を歩く     著:安島 太佳由 発行:窓社 2002年6月

日本戦跡 安島太佳由写真集のフィールドノートにあたるものだ。
廃墟探訪の苦労がしのばれる。
1部と2部に分かれていて後半は全国の掩体壕(戦闘機の屋外格納庫)探索に
しぼって
いる。意外なところにこれが残っているのには驚かされる。

Design of Doujunkai―甦る都市の生活と記憶 同潤会アパートメント写真集
                                      建築資料研究社 2000年7月

日本初の同潤会アパートのデザインと生活を捉えた写真集だ。
もちろん同潤会アパートを廃墟というには異論があるかもしれない。
住んでいる人もいる訳だし・・・だけど取り壊し寸前の同潤会アパートの廃墟的美しさは
比類なきものだ。廃墟としての価値はそれが機能していたときの価値も反映する。
そういった意味でも同潤会アパートの都市型文化的集合住宅としての歴史的価値は十分に
認めらている。
その最後の姿はディテールに至るまでとっても魅力的だ
 

 廃墟の美学        著:谷川 渥 集英社新書 2003年3月

新書の・・・論みたいなものは、文章ばかりでクラクラすることが多いが、
これは写真、図版が充実していて驚いた。廃墟の歴史的な変容や廃墟の視覚的表象を
中心に、関連するさまざまな言説が分析され、詳細に考察されている。
廃墟論、廃墟の表象史の集大成であり、廃墟学の入門書としても充実している。
こういった本を読むと廃墟研究に自信が湧いてくる。 
 

 赤線跡を歩く―消えゆく夢の街を訪ねて   著:木村 聡  発行:自由国民社1998年2月

赤線と廃墟と何の関係があるのかと思われるだろう。ご存知のとおり赤線というものは
すでに存在しない。存在しなくなってから50年近くになるが、建物はまだ残っている。
現在用途を変えて使用しているものも含めてなぜか廃墟的空気が漂っているのだ。
(退廃的空気というのが正しいのかもしれないけど・・・)
遊郭系の建物には独特の形態や造作のディテールがあることに気づく。
世話人はもちろん赤線を知っている世代ではないが、遊郭、木造旅館、洋風バーなどの
歓楽街の建物の写真をぼんやり見ているとノスタルジーを感じるのなぜだろう?

 世の途中から隠されていること  著:木下直之 晶文社 2002年2月

張りぼて、記念碑、肖像写真、見世物趣味、古代神話など、歴史に埋もれた物を掘り起こし、日本人の美意識の変遷をたどる。美術からみたもう一つの明治の歴史をさぐっている。
確かにこれらは廃墟とは直接結びつかない。だけど廃墟とはパラレルで非常に密接な関係
であるといえると思う。決してイコールでも同じ器に入るものではないのだけれど・・・。

 「太陽」1999年11月号 特集・産業遺産の旅   平凡社 1999年11月

「太陽」の特集も時々こういったものを取り上げるので油断ができない。
この99年11月号の産業遺産特集はこれといって珍しいものがあるわけではなく、
周知の産業遺産ばかりだが、奇をてらっていない構成と大判の写真に結構満足できる。
芸術新潮あたりもこういった特集を組んで欲しい。

  戦争遺跡から学ぶ  戦争遺跡保存全国ネットワーク編 岩波ジュニア新書 2003年6月

実にたくさんの戦争遺跡が網羅されている。新書とは思えない充実度だ。
戦争の傷跡というものに真正面から取り組んでいる。だから内容的には廃墟というような
扱いや見方はしていない。当然である。だけど丁寧な説明でわかりやすく、
戦争遺跡というものを色々な切り口で考えさせられる一冊だ。

   明治の迷宮都市        著:橋爪紳也 平凡社 1990年5月

見世物小屋、パノラマ館、高塔ブーム、博覧会とまるで江戸川乱歩の世界だが、都市部の遊楽空間の
刹那的というか、実験的文明というか、とにかく仮想の世界をとりあげている。
この手のものは有機的で廃墟感はないのだが、一歩間違うと?廃墟世界に転がり込む危うさがある。
だから廃墟と切り離せないのだ。


D V D編 *DVDは今のところどれもハズレなし

カバー                内容とコメント                 ・

virtual trip 廃墟 中国・九州
(ポニーキャニオン) 2003/06
収録時間:75min.

廃墟写真の第一人者の小林伸一郎氏監修。 九州、瀬戸内海の産業系の廃虚を中心に収録。
ハイビジョンカメラ、大型クレーン、移動撮影車等の映画撮影用機材を使用した
本格的映像、超高画質作品。廃墟説明の字幕をオフにしてボンヤリみれば確かに
リラクゼーションビデオになると思った。
 

 廃墟ロマネスク ROMANESQUE  FROM LOST PARADISE
(ポニーキャニオン) 2003/06 収録時間:85min.

小林伸一郎氏の監修。東北地方の鉱山廃墟が中心だが、日本全国の廃虚が多数収録。
「virtual trip 廃墟」と異なり大型撮影機材を使用せず、手持ちカメラの
臨場感溢れる映像がイイ。廃墟探検をしているような気分になる。
悪い夢を見ているようでちょっと怖いが・・・
サウンドがバロック音楽だったりするのはなんともハァーだが、とにかく楽しめる。 
監督がピンク映画の田中昭二氏というのもスゴイ!

廃墟巡礼 北海道 
大映ファーストディストリビューション 2002/04 収録時間:42min.

 監督:鈴木秀幸、小林伸一郎氏のプロデュースによる炭鉱、発電所、小学校を中心に、
北海道に点在する廃墟のある風景集。それぞれの廃墟のイメージに合わせて作られた
オリジナル・サウンドも有り、これがなかなかイイ。廃墟が"体感"できる画期的な1枚
だが、この3枚の中では一番静的だ。