ニッポンの廃墟本の紹介

つぐまるの廃墟アワーにもどる

ニッポンの廃墟本

隠れた廃墟ブームがあるのかどうかわからないけれど、ここ数年廃墟関連本が続々と出版
されている。大変喜ばしいことではあるけれど、幼少より廃墟フリークの世話人と
致しましてはもっとこういった本が早くから出て欲しかった。

という訳でとりあえず世話人所有の日本にある廃墟本を一挙紹介してみたい!

別に廃墟に関心のない人はおもしろくもなんともない話だと
思いますが,結構奥の深いもんであります。
ちなみに廃墟本には廃墟系と遺蹟系とあって前者は芸術的、後者は学術的傾向にあり、
また両方入り混じったものも見受けられますが、今回は廃墟系を中心にあげております。

廃墟と遺蹟の区別がつかないという人のために簡単な見分け方は、そのものが積極的に
保存されようとしているか否かであります。もちろん保存されているほうが遺蹟です。

 表紙                内容とコメント           ・

 廃墟の歩き方 探索篇 監修:栗原亨 発行:イーストプレス 2002年5月10日

廃墟本の中では最新刊だ。やっとこういったものが出てきたか
という感じだ。全国各地の廃墟の紹介がしてある。既に有名な廃墟も
紹介されているが、廃墟は有名になった時点で色々と不具合が生じて
くるので痛し痒しだ。廃墟探訪の心得みたいなものもあって
廃墟趣味のない人も結構楽しめる。

 ニッポン近代化遺産の旅     文:清水慶一写真:増田彰久
                 発行:朝日新聞社 2002年4月5日

遺産であるからして扱われているのは由緒正しいものばかりだ。
一部廃墟状態のものも掲載されているが、それでも歴史的に貴重な物だ。
そういった意味では廃墟専門本ではなく、近代産業の歴史を学ぶための
ものといった傾向が強い本だ。写真がとっても美しい。

 棄景 廃墟への旅   写真:丸田祥三 発行:宝島社 1993年7月10日

この写真家の丸田祥三氏の写真集は続刊がほかにもでている。
廃墟風景のなかでも廃線、列車の破棄されたものなどの交通関連が多く、
モノクロのコントラストの強い写真が特徴だ。
とにかくこれらの写真の風景にはなぜか音が感じられない。
静かというのではなく、音がまったく存在しないという感じだ。
世話人は結構好きだが、こういった風景は怖くて絶対イヤだという人も
ずいぶんといるような気がする。
真夏の太陽の下、貧血で意識を失っていくようなイメージだろうか。

 萬 廃墟の魔力 発行:ゆとり文化研究所 愚童学舎 1999年11月25日

雑誌みたいな本だけど数少ない廃墟専門のひとつだ。
とにかく廃墟づくしだ。それもかなりマニアックなので
(廃墟趣味自体かなりマニアックだが・・・)
あまり廃墟と関係ない人には理解しづらいかも・・
廃墟はサブカルチャーだとはっきりと割り切っているようだ。

 廃墟大全    監修:谷川 渥 発行:トレヴィル 1997年3月10日

やはり大全と謳うだけあって廃墟に対する姿勢はなかなかのものだ。
色々な視点から廃墟というものを研究した本だ。
トレヴィルらしい。
かなりの知識人が廃墟について述べているが、芸術的な観点のみならず
学術的に捉えられる側面も廃墟にはあることを認識させられる。

 廃墟遊戯 写真:小林伸一郎 発行:メディアファクトリー  1998年10月28日

なかなか廃墟専門の写真集なんかにお目にかかることはなかったのだけれど
この本は廃墟に視点を定めた最初の写真集のような気がする。廃墟写真集
には珍しくカラーだ。写真家の小林伸一郎氏は10年にわたって北海道から
沖縄まで全国の工場や鉱山を中心とした廃墟写真を撮り続けている。

廃墟は本当に短命なのでその時撮り逃がすともう撮ることは出来ない。
そういった意味でも廃墟写真を撮り続けるというのは大変な作業だ。

 廃墟漂流 写真:小林伸一郎 発行:マガジンハウス 2001年9月20日

前作の廃墟遊戯の続編ともいえる写真集だが、世話人としては前作のもの
とはっきり色分けをしてもらえたらもっと楽しめたと思う。
しかし無機的な廃墟の風景はなかなか見ごたえがある。

 日本怪奇幻想紀行 六之巻 奇っ怪建築見聞
           
発行:同朋舎 発売:角川書店 2001年3月10日

廃墟本というより、幻想建築系の本だが廃墟的建築もとりあげている。
しかし、全般にわたって怪奇趣味的傾向が強く、二笑亭についての
水木しげるの漫画なんかもある。そういったつもりで見れば楽しめるが、
怖いものとか気持ち悪いものがあまり好きでない人は
閉口するかもしれない。

 カラー版 近代化遺産を歩く 著:増田彰久 中公新書 2001年9月25日

ニッポン近代化遺産の旅の新書版という感じだ。著者も同じだ。
小さいけど内容は濃い。ニッポン近代化遺産の旅と同じく廃墟色は
薄いが、猿島要塞や函館要塞なども掲載されている。

 栄光の残像     詩:倉橋健一 写真:細川和昭 解説:足立祐司
           発行:澪標 2000年5月10日

関西を中心をした遺構や廃墟のモノクロの写真に詩をつけてある。巻末には
きちんとした説明文もあり、廃墟本のなかでは一風変わっているが、
センスのあるつくりとなっている。表紙には由良要塞の写真が使われて
いて、猿島要塞などと同じ明治の軍事遺構に通じた妙な渋さがある。
廃墟には本当にモノクロ写真がよく似合う。

 LIME WORKS 著:畠山直哉 発行:シナジー幾何学1996年3月10日

この写真集は直接廃墟とは関係がない。日本国内の石灰石の採石場と
その処理工場の写真集だ。しかし石灰石の採石場と処理工場の風景という
のは白とライム色がベースとなったとても美しい廃墟的風景なのだ。
一見すれば意図するところが理解できると思う。
見ていると何だかクリームソーダが食べたくなった。

 都市住宅 7705      発行:鹿島出版会 1976年5月1日

もともとは建築の専門誌だが、この号で軍艦島の研究調査で有名な
東京電気大の阿久井研究室の詳細レポートが特集されている。
廃島からそんなに時がたっていないが、かなり廃墟化されているにも
かかわらず詳細な測量やサーベイが行われ、模型まで作られているのには
驚かされる。廃墟もここまでされれば本望であろう。

世話人はこの専門誌の発売当時は建築学科の学生であったが、
あまり勉強してなかったのでこの特集の存在を知らなかった。
そして10年ほど前にこのバックナンバーを手に入れるのに
神保町の古本屋街でえらく苦労した。

 崩れゆく記憶 端島炭鉱閉山18年目の記録
            
著:柿田清英 発行:葦書房 1993年10月25日

軍艦島が廃墟になった後の写真集のなかでは充実したものだ。
暴雨風の中の軍艦島の写真などは凄惨な印象を受ける。
廃墟としての生臭さが伝わってくる。
モノクロと数点のカラー写真があるが、カラーの廃墟写真を見ると
モノクロと比べてどこか優しい感じがするのは不思議だ。

 軍艦島 海上産業都市に住む   文:阿久井喜孝 写真:伊藤千行
                 発行:岩波書店 1995年2月24日

軍艦島が廃島になる前のそこに住む人たちの生活を撮った写真集だ。
廃墟写真という意味では廃墟とは関係ない写真集だが、廃墟になった後の
写真集などと見比べると感慨深いものがある。日本の歴史の中でも
これほど高密度の集合居住区はなかった。
それが廃墟と化すのだから・・

 月の道        著:雑賀雄二 発行:新潮社 1993年3月20日

軍艦島の写真集だ。夜間の長時間露光による撮影というのもあるが、
廃墟の泥臭さみたいなものが消され、透明感のあるソフトな仕上がりの
写真にひきつけられる。その静謐感は黄泉の世界を連想させ、
じっと眺めていると息が止まる。
廃墟写真というジャンルにとらわれないでも優れた写真集のひとつだ。

 林良文画集「脳髄を懐胎したある唯物論者の花嫁」
                
発行:トレヴィル 1997年3月10日

林良文氏はパリ在住の鉛筆画家。
別に廃墟の絵を専門に書いている訳ではなく、
どちらかといえばかなり過激なエロチックアートに属する画家だけれど、
その背景が廃墟的なので紹介した。
それにしても廃墟というのは、モノクロで鉛筆のようなタッチが本当に
よく似合う。