ボサノバ歌謡をあなたに!
つぐまるのボサノバ天国にもどる

はじめに

「ボサノバっていうのはなんとなくわかるんだけど、これがボサノバだというのはよく
わからないなぁー。曲はイパネマの娘とか、アストラッド・ジルベルトという歌手が
いるぐらいはわかるんだけど・・とにかくけだるいやつでしょ。」
というようなかたいらっしゃるでしょう。

実は評論している世話人もそのへんのところはズバッと一言で答えられないのです。
それほどボサノバは奥が深いというか奥がないのです。

それで、今回はもっと身近でボサノバを楽しんでもらおう。いままでなにげなく聞いて
いた音楽が実はボサノバだったりして、意外と親しんでいることがあります。
じゃあ、そこから理解を深めていただこう。

という訳で今回のテーマは「ボサノバ歌謡をあなたに!」であります。

 じゃあボサノバ歌謡ってなに?ますますわからないというひとのために。

 ボサノバ歌謡の定義

日本の歌謡曲でボサノバ風なもの、本場のボサノバよりボサノバ臭さが強いもの、
本場のボサノバよりヨロメキ度及びタメ息度が高いものをさす。
またボサノバテイストの利いたポップス、ニューミュージック系の曲なども便宜上
ボサノバ歌謡に含まれる。

注、世話人が勝手に決めた定義であり、一般社会においてオーソライズ
されているものではございません。

それでは元になるボサノバとは何か?
これを語るともぉー大変なことになって収拾がつきません。
それで今回のテーマが納得できる程度にボサノバの簡単な定義付けをしてみましょう。

ボサノバの定義

曲想

どこか夏を感じさせるものがよろしい、それもすずしげな夏だ!暑苦しい夏だと
サンバになってしまう。
また海とか風とか雨とか寒色系の世界がテーマになっているものでもよいし、
別れとかせつないとかネガティヴなたそがれテーマでもよい。
要するにあまり元気のいいのはむかないということ。
そしてサビらしいサビがなくてもよい。

リズム

基本は2ビートがよろしい。(ズンチャ、ズンチャです。ちなみにワルツはズン
チャッチャ、ズンチャッチャですが、ボサノバとワルツは相性があまりよろしく
ない。)
そして随所にでてくるシンコペーションです。
よくわからない人のためにちょっと説明しましょう。
先ほどの2ビートを例にとるとズンチャ、ズンチャが強弱強弱となるのが普通
ですが、これが逆転して弱強弱強となります。そして後になった強が勢い余って
次の小節の弱までのびてしまい、何かひきずったような感じになる
一種の変態的リズムです。
ンチャ、ンチャ、ンチャァーチャァーという感じかな。
よけいにわからなくなったかしら。

楽器

ギター1本で軽目のパーカッションだけで十分。
ちょっとだけフルート等の笛ものがはいるぐらいがでもよろしい。
とにかく大勢でやるものではない。ビックバンドなどもってのほか。
ストリングス等もあまりいれないほうがよろしい。
いれすぎるとムードミュージックに早変わりしてしまう。

歌い方

とにかく淡々と無機的、無表情にボソボソとタメ息まじりで独り言をいっている
みたいに歌うのがよろしい。
決して見事に歌い上げるような歌い方はいけません。
こぶしをまわすなどもってのほか!
(ここのところにボサノバ演歌というのが存在しない理由があります。)

歌声

声についてはあまりこだわりませんが、元気のいい声やさわやかなすきとおった
声よりは、ハスキーなアルトでちょっと不安定な感じの声のほうがよろしい。
そのうえちょっぴりセクシーだとなおよろしい。

聞き方:
聞き方は曲の形態とはまったく関係ないので余計なお世話かもしれませんが、
参考までに正しいボサノバの聞き方を紹介します。

部屋

温度は涼しいなと感じるぐらいに設定して、余計な物はなるべく片づけておく。
観葉植物は必ず置かなければならないが、間違っても幸福の木みたいな幹太の
ワサワサしたものは置かない。ゴムの木ぐらいにしておく。

姿勢

基本的に自由だが、立ったまま聞くようなことはしてはいけない。なるべく
寝そべるのがよい。ボンボンベッドがベスト。(最近見ないなぁー)

服装

基本的に自由だが、楽なかっこうで、男性ならばバミューダはいてアロハを着る、
女性ならばホットパンツにタンクトップがよろしい。
(いまどきこんなかっこうができるんか?)

飲み物

どんなに飲みたくてもココアなどは飲んではいけない。ボサノバはコーラフロートと相場が決まっている。ワタナベのジュースのもとがベースのクリームソーダ
でもよろしい。(色は、ビビッドな緑色がなおよい)

こうして聞けばボサノバのすばらしさが体じゅうにしみわたっていきます。

注、世話人が勝手に決めた定義であり、かなり偏っている部分も見られ、一般社会においてボサノバの定義としてオーソライズされているもの
ではございません。

いよいよ本題

ボサノバ歌謡の黎明から成長の1970年代

日本で最初にボサノバという言葉がでた歌謡曲は梓みちよの1963年「恋のボッサ・
ノバ」
と思われますが、これはイーディ・ゴーメなどが歌ったBLAME IT ON
THE BOSSA−NOVAという曲の日本語カバーでした。
ただ残念なことにこの原曲自体がボサノバの雰囲気ではありません。他のボサノバもどき
ではずっと後の1990年に岡本夏生が歌った
「いけないボサノバ」というのがあります
が、これはタイトルだけで中身はボサノバではありません。
どうも、タイトルにボサノバ何とかや、歌詞にボサノバのリズムで何とかというような物は
ちょっと注意したほうがいいかもしれません。

1960年代はそれまでラテンをやっていた人なんかもボサノバがおしゃれだっていうん
でイントロだけボサノバであとは関係ないというダマシみたいな曲をやっていたようです。
それでも中身がそれらしくなってきたボサノバ歌謡は
由紀さおりの
「夜明けのスキャット」ではないでしょうか。
特にボサノバのリズムというわけではないのですが、あのスキャットとちょっと
けだるい感じの歌い方がボサノバの雰囲気をかもしだしていました。
B面の「バラのためいき」を含めてボサノバ歌謡の原点といえるかもしれません。
当時の曲にはない新鮮さがうけて、紹介されたのが深夜のラジオ番組であったにも
かかわらず、問い合わせが殺到してヒットとなりました。

やはりこのスキャットというのはボサノバの重要なアイテムのようで、これがあると
タメ息度も高くなってボサノバにひっかかってきます。
フランシス・レイが映画音楽を担当した「男と女」は有名な曲ですが、これもボサノバ
として扱われています。べつにこの点にについて異論があるわけではありませんが、あの
シャバダバダというスキャットによるところのボサノバ化が大であると思います。
しかし、このスキャットもシャバダバ系であるということが重要で、金井克子の「他人の
関係」みたいにパッパッパヤッパーというようなパヤパヤ系となってしまっては、ボサノバ
としてはちょっとさまになりません。

その後登場したのが、長谷川きよし「別れのサンバ」です。はっきりとタイトルにサンバ
とあるのだからボサノバではなくサンバではないかと思われるかもしれませんが、これは
もうサンバというよりはるかにボサノバに近いものです。
なぜか?それは暗いから。もちろん明るいボサノバだってあるわけだけど、暗いサンバは
なかなか見つからない。サンバにならない。それはサンバを知らない人だって森山加代子の
「白い蝶のサンバ」(あなたに抱かれてワ・タ・シはちょぉーになるぅーというやつです。
思い出したかな?)とか「てんとう虫のサンバ」や「お嫁サンバ」を聞けばわかるはず!
長谷川きよしのギターはとっても熱がこもっていて、確かにサンバのような気がしてきます
が、これをちょっとテンポをおとしておとなしく無表情に弾けば、まさしくボサノバギター
です。そもそもギター1本で弾き語るんだからボサノバです。

1970年代のボサノバ歌謡は純ボサノバ歌謡曲が衰退してきて、ニューミュージック系
ボサノバ歌謡が台頭してきます。

その筆頭が1975年荒井由美「あの日にかえりたい」です。べつにユーミンはボサノバ
の曲を作ろうしたのではないと思いますが、ここは将来夫となる松任谷正隆の感性による
ところではないでしょうか。
ニューミュージック系の人以降はもうすでにボサノバを音楽的にこなしていて、ボサノバ
テイストが体に染み付いて曲が仕上がったという感があります。

1970年代後半は八神純子「思い出は美しすぎて」、サーカス「Mr.サマータイム」、
丸山圭子「どうぞこのまま」とボサノバ歌謡の充実した時期でありました。
八神純子の
「思い出は美しすぎて」はけっこう歌いあげてしまったというボサノバとして
は致命的欠陥があるにも関わらず、ボサノバ歌謡として認知されています。ボサノバじゃ
ないんだけれどもボサノバに聞かせてしまう不思議な力があります。
サーカスの
「Mr.サマータイム」ですが、ボサノバは基本的にはソロかデュエット
ぐらいがちょうどいいところで、コーラスになって人数がふえるとグッとムード音楽に近
づいてしまう傾向があります。しかし、このグループはそんなにボサノバを意識していない
にもかかわらず、そのへんのところをしっかりとわきまえていてボサノバ的雰囲気を維持
していたのはさすがです。
丸山圭子の
「どうぞこのまま」、これは雨をテーマにした水っぽさ、声の質、淡々とした
歌い方、バックのグッと押さえた雰囲気、正統派ボサノバリズム、タメ息度の高さとどの
切り口でみてもボサノバ的要素をすべて備えており、もちろん全体でみてもボサノバとして
まとまっている絶品です。

 

ボサノバ歌謡衰退の1980年代:

1980年代はスカの時代といわれるようにどうも社会的にも浮かれる
だけで中身のない時期ではなかったでしょうか。まぁそんなことは
どうでもよいのですが、ボサノバ歌謡にとっても1980年代は不毛の
時代でこれといったものが生まれませんでした。かろうじて稲垣純一の
「246:3AM」がかすっているような気がしますが1980年代
はじめの頃で、1970年代の余韻かもしれません

 

ボサノバ歌謡復活の1990年代:

ボサノバ歌謡は死んでしまったかに思われた1980年代でしたが、1990年代にはいる
とまたポツポツでてきて復活のきざしがみえはじめました。

ここ数年の代表作では具島直子「Love song」、渡瀬マキ「メサージュダムール」
谷村有美「Moon」があげられます。
具島直子
「Love song」は一頃東芝日曜劇場のCMイメージソングで流れていた
のでよく聞いた人もいると思います。あと数時間で月曜日という落ち込んだ状況を緩和
してくれました。
渡瀬マキの
「メサージュダムール」、あのLINDBERGの渡瀬マキのソロですが、
歌詞にあの夏、潮風、海辺、夕陽、月あかりとボサノバの歌詞アイテムがちりばめてあり
ます。じつによく手順をふまれたボサノバ歌謡です。そして作曲はかまやつひろしです。
あのスパイダースにいて、その後「ゲタをならしてぇーヤツがくるぅー」と吉田拓郎の曲
を歌っていたかまやつひろしがボサノバとは・・だけどとってもいい曲です。
谷村有美の
「Moon」は「メサージュダムール」ともよく似ていますが、谷村有美自体
がボサノバ的で何をやってもボサノバで通用するタイプです。そういった意味では、
今井美樹もこのタイプに属します。

最近のボサノバ歌謡に共通しているのは、癒し系音楽の傾向が強くなっている点です。
また、ここのところのニューミュージック系ボサノバ歌謡の特徴ですが、年代をおうごとに
コテコテしていない、グッと洗練されてきている(ほかのジャンルもそうでしょうが・・)
ボサノバ特有のタメ息度の高さは維持しているんだけどタメ息の温度は高くないなどが
あげられます。

初期の純歌謡曲系ボサノバ歌謡はボサノバへの思い入れが強いためかボサノバが意識され
ているのが見えかくれしていました。それに比較してニューミュージック系ボサノバ歌謡
の人たちはもうボサノバをぜんぜん意識していなくって、こうゆうスタイルがこうゆう
状況にはちょうどいい!といった案配で自然になりたっている感じがします。
だからボサノバ感に無理がない。暑苦しくない。昔に比較してかまえて聞かなくっても
よくなった。ボサノバの定義からは別にはずれてはいないからボサノバと考えていいんだ
けれど、なぜか楽ちんすぎて別のものに聞こえてしまうことがある。ここが不思議な
ところです。やはり癒し系の音楽と考えたほうがよいのかもしれません。

 

今回のまとめ:「ボサノバ歌謡をあなたに!」

あなたに贈るボサノバ歌謡のベストは・・丸山圭子の「どうぞこのまま」です。

シャバダバ手法で安易に逃げることなくボサノバ度100%にしているところは見事という
ほかはありません。これをポルトガル語の歌詞にかえて歌えば、ボサノバのスタンダード
となることは間違いないと思います。

もちろんいままで紹介した他の曲もみんなすばらしく、特に1990年代後半のものは
すでに完成されているといってもいいでしょう。しかし、
ボサノバは美しくなくちゃいけ
ない。しかし美しすぎるボサノバはボサノバではない!
(注:世話人の提言)ここに
丸山圭子の曲を選んだ理由があります。

でも、あまりややこしいことは考えずに(考えてはいないと思いますが)、いままで紹介
した曲のなかにもし大好きな曲があったら、あなたはもうりっぱなボサノバファンです。
本場ブラジル系ボサノバも十分うけいれられます。少なくともフレンチ系ボサノバは
大丈夫です。