・・・滴る水の音。たぶん、あの時が来たのだ。部屋の片隅の水晶から影が抜け出す。壁の肖像画は闇のなか、かっておまえのものだったかもしれない歌声が響いてくる・・・

・・・炎が水を覆いつくし、枯れ枝が厚みのない鉛の空を引きおろす。道は大きくたわみ、卵を跳ね上げ、死んだはずの海が一滴の闇からひろがってくる・・・

・・・おまえの腕、おまえの髪、おまえの唇・・・すべては白い渦のなかにある。今はひそかな降臨の時。すすきに包まれた木の家が記憶のはずれで炎上する。誰もがおまえの欠け落ちた瞳を探し、或る空虚な鉄塔で灰の霧に包まれる・・・

・・・回り続ける水車は病棟の窓に嵌め込まれ、空に伸び上がる都市は絶えず揺れ動いている。夕映えに似た光の中に黒い鳥影が飛び去り、青く燃える丘には犬を抱いた人影が佇んでいる・・・

・・・冬の歩廊に固く結晶する指と指の間の距離。死者たちの歩みは青黒い氷原の上。月は己の光に耐えられず、暗くけむる雲を不安な色に染め上げる・・・

・・・銀の河にすべりいる影・・・
   ・・・或る真昼、水路のある都市で愛された花々は・・・

・・・吹きすぎる風。春の柔らかな光。獣も鳥もうすく目を開いて、黄色い花、青い草、赤い木の実が渦上に立ち昇る。青白くけむった地平線から海の炎が燃え上がり、めまいする雲たちが空の奥で陶質の旗に結晶する。水のなかに生まれる白い幼児たち。やがて虫たちに導かれ捨てられた水晶が目覚める時、なだらかな大地の起伏は何処までも伸び広がり、貝の塔のまわりに不可能な己を夢見る・・・