炎(Long version)


夜明けは近いのか
それとも夜はこれから深くなるのか
凍りついた窓を溶かすと
森の教会が仄白く浮かび上がる
星は何処にも見えない

扉を低くたたく音
底知れぬ静寂のなかに
永遠のようにこだまする
・・・どうぞ
扉は急に押し黙る
はるか遠く
鳥のさえずる声が聞こえる
やはり夜明けが近いのだろうか

うなじにかかる冷たい息
振り返ると
彼女がひっそりと佇んでいる
青白く肌を燃やしながら
遠い教会を見つめている
・・・いつかも
  こんなことがあったような気がするわ
わたしは震える
夜の彼方に
失われた歳月を見つめながら

いつのまにか
雪が降りはじめていた
雲の裂け目が紅色にけむり
森からの白い道を
ひとりの幼女が近づいてくる
・・・行こう、
  あれはぼくたちの娘だ
彼女は寂しく目をそむける
・・・いいえ、
  わたしは何ひとつ産めなかったから

雪は降りしきる炎
矢に射られたように
わたしは立ちすくむ
・・・ぼくは・・・
・・・いいのよ、
  もう何も言わないで
唇を動かすこともできずに
彼女の冷たい肩を抱きしめた
燃え上がる青白い炎のなかに
遠くから響く誰かの歌声

  マワレ マワレ 子供タチ
  遠ク 遠ク 朝日ガノボル
  マワレ マワレ・・・

落葉樹の続く道を
わたしはうつむきながら歩いていた
不意に幼女が立ち止まり
あどけなく問いかけてくる
・・・おかあさんは、どこ?
わたしは無言で空を見上げた

白い道を燃やしながら
夜明けが世界を生みだしつつある
わたしは
どうしても振り返ることができない
あの窓には彼女の青白いまなざしが・・・
もう抱くことのできない孤独が・・・
いつまでも静かに目覚めている