第二病棟


灰色の空から
沈黙の叫びが
コスモスに落ちてくる
古い病院の
長いひび割れた壁に
風が吹きつけて
窓辺の男の眠りを覗き込む

頬から
摘み取られた薔薇
薄命の海に
漂う小船は
岸辺を探しながら沈みかかる

首を振り
空を仰ぎ見る木々
やがて
目覚めた青銅の胸に
翳を満たしながら
雨が窓を濡らしはじめる

夕暮れ
消毒液の匂い
美しい看護師が
体温計をかざし見る
かすかに眉をひそめて出て行く姿を
ぼんやりと追う空ろな目

彼は宙を見上げ
隣の部屋の
空白のベッドを思い出す
幼い娘に微笑みかける
白い女の横顔

(あのひとが
死んだのは
こんな雨の暮れ方だった
なぜいつも
あんなに澄んだ目で
俺を見つめたのだろう
夕暮れ
金色に輝く木々を眺める姿は
まるで童女のようだった)

降り続ける雨
夜の甘美な肉体が
その隅々にまで秋を宿らせる
男の眠りのなかに
鳴り響く潮騒
コスモスのなかには
誰かがいつまでも
ひっそりと目覚めている