暗い林に続く
壊れかけた古い木の橋
遠いむかしに
誰かと渡った橋だ

幼いわたしが
灰色の部屋の隅で
思い描いたまぼろしの母
不幸の翳りもなく
光のなかに微笑む横顔

一緒に渡ったのは
あの母だったのだろうか
何処までも曇った空を
黒い鳥が滑り去り
記憶の乱れに
雨が降りはじめる

小さな骨片が
白く雨にけむり
不思議に林は
明るくなる

枯れ木の下
顔のない女に抱かれ
ひとりの幼児が
わたしを見ている
あるいは背後の
くずれかけた石の家を

殺すことのできないもの
そして抱きしめようとすれば
どんなまぼろしよりもはかない
ひとつの宿命が
わたしのなかに
波紋をひろげる

浅い眠りと
崩れ去ることの上に
築かれた幸福に
しがみつく女の
子守唄が聞こえる

わたしはここにいる
あなたと同じ地平に
明日を知らない目で
雨にけむる空を見上げている
だから、
もう二度と

この橋を
渡ることはないだろう