明日


重く雲の垂れ込めた空の下
林へと続く小道
一叢の秋桜が静まる場所で
誰かとすれ違う
死んだ友人だった
声をかけるための
わずかなためらいの間に
彼は遠い石橋を渡っていた
これは明日
待ち続けていたはずの
もう幸福とも
不幸とも名づけられない後姿に
霧雨が降り始めた

明日、あなたに・・・
ラジオの笑い声のなかから
低く聞こえる声
窓外の
崩れた壁の前を
老いた夫婦が通りすぎていく
ありえたかもしれない時へ遡行するように
ゆるやかに歩む姿に
眩しい光が降りそそいでいた

緩慢な自殺のように
愛し食べそして眠る
陸橋から線路を見下ろす
彼女の動かない肩
遠い街路を
夕暮れの光に染められながら
多くの人々が往来している
あれほどの人たちが
それぞれに意味を強いられているなんて
何か信じられないことだね
振り返らない彼女の姿は
遠い昨日のように色あせていく
それでも
明日、あなたに
光を

陸橋の下の黒い塊は
わたしなのかもしれない
あるいは
幼い頃に倒れ
空を見上げつづける
あなたなのかもしれない