冬の花


水色に澄んだ大気
陽に溶ける虫の羽
白樺の樹の下に
黄色い花々が揺れ動き
川は小石を転がしながら
丘の裾に消えていく
乱れ飛ぶ白い胞子
静寂に隠れた瞳たちは
まだ眠りから覚めない
柔らかく道をふむ小鳥
丈高い草に覆われた野をかきわけ
遠いのか近いのかもわからない
子供たちの声を聞いた

・・・そこにいるのはだれ?
・・・だれもいない、だれもいないよ

錆付いた塔の向こう
灰白色にけむる町並み
紅白の縞の煙突が煙を上げて
廃屋の校舎の屋上には
白い石片が乾いている
あの雨の午後
階段を上ってきた男
黒傘を傾け
遠くを見つめるその肩を
抱きすくめたのは死んだ女だ
高圧電線の続く北の空
川辺にうずくまる子犬
古い牧舎のなかに少女が倒れ
痩せた男が覆いかぶさる
湿った木と藁の匂い
錆付いて時針は動かない
記憶の結節は黒く塗りつぶされ
(君ノ髪ガ揺レテイタノハ・・・)
何処か遠くに上がる炎
目の前を通り過ぎる影は
枯れ木の下でぼんやりと振り返る
・・・火事だ!
だれ一人目覚めない深夜の町
崖の向こうを炎が覆いつくす
(燃ヤシテナンカイナイ・・・ボクニハ火ナドナイノデス)
闇の奥から伸びる青白い手の群れ
古い鐘の響き
遠ざかりながら星たちは呼び合う

・・・・・・・・・・

降りしきる雪
白 そして 白
見えない海のかすかな声
赤さびた列車が通りすぎる
窓に浮かぶ青白い少女の顔
樹木の影ひとつない
窓の明りひとつない
何処までも夜の闇
ひろがる雪の白 そして 白

「それがわたしの罪ならばすべてを受け入れよう。しかしわたしの孤独では追いつけないあの青ざめた空のことをどう話せばいいのだろう。雪は彼方まで静かだった。結晶のひとつひとつが目を閉じたままの記憶だった。その記憶は・・・」

未来を記憶しているだろう
冬の花がふるえながら
海よりも遠くひろがりはじめる