深夜


雪に覆われた街路に
子供の長靴が落ちていた
寝静まった病棟の窓には
乾いた唇だけがひらいている

身を隠すように生きていた頃
不眠のまま迎えた夜明けに
原始林に歩む母子を
窓に顔を押し付けて見送ったことがある

空高く輝くオリオン
ペテルギウスの赤い光が
電柱に隠れた子供の目を
仄かに染める

眠りのなかでも消えない赤い光は
少しずつ灰色の壁を遠ざけ
生きようとしていたあなたの喜びと悲しみが
わたしのなかに潮のようにひろがり
わたしをこえてあふれだそうと身をふるわせる