天使


夜の深み
天使の吐く白い雪

公園の古い街灯に
雪の影がゆっくりと沈む
堤防の向こう
川面を流れる人形
何かが無言で過ぎ去る気配
霧に包まれた川辺で
痩せた少年が向けたまなざしのような

ひそかな予感に
ふるえる天使の唇
かすかな鐘の音が聞こえる

地下の白い喫茶室
うつむいた肖像のかけられた壁
どこからかささやくような声が聞こえる
   (あれは、ぼくだったのだろうか?)
   (それは、わたしだったのかしら?)
沈黙は硝子のように
ふたつの声を永遠に遠ざける

漆黒の川の底に
天使の肉体が沈みかかる

誰も通らない橋の上
つかの間の至福に酔うものの影
絶えず過ぎ去り
けっして訪れないものの気配が
孤独な母のようにやさしく寄り添う
   (何かの間違いのように
   また夜明けが来るだろう)

細い針の上のような真夜中
天使の指先は
天をつかむかたちに
水面から消えていった