まぼろしの夏


花火のあとの沈黙が
街灯の下の川面にひろがり
遠い駅から走り始める黒い列車
誰もいないロビーの鏡に
青白い女が佇む

堤防は闇の奥に大きく曲がり
冷たい石の匂いが漂ってくる
茂みの奥に
ちらちらと燃える青い炎

場末の古い喫茶店
肖像画の並ぶ灰色の壁を見上げ
初老の男が
指先から血のついた煙草を落とす

原始林を背負う住宅地に
靴音だけが通りすぎる
二階の窓に浮かぶ白い顔
どこかで午前三時を告げる鳩の声が響く

草に侵食された廃屋に
テープレコーダーだけがまわり続ける
・・・夏の夜、夏の夢、
崖の上にはあなたの影法師・・・

空の深みから
静かに降りてくる赤い星
山道のカーブの手前
星と呼び合うように
街灯が煌々と輝いている