トテモ・・・トテモ冷タイ腕・・・
  星空ヘノ眼差シハ銀ト青ニ瞬ク・・・
  アノ沈黙ノ時間・・・白イ峡谷・・・
  トテモ・・・トテモ寒イ

星辰のめぐり
太古からの波音
彼女は溺れ死に
黄金のようにけむる砂浜で
青い乳首を天に向ける
わたしは木を組み上げて
亡骸を燃やした
炎と煙が空を覆い
明け方には
冷たい雨が降りそそいだ

「海沿いの道を走っていたの
間違って乗ったバスから降りて。
何処までも見知らぬ景色ばかりで
あの停留所を探したけれど
太陽と海だけが眩しかったわ」

真昼の白い喫茶室に
彼女は頬杖をついて座っていた
黒と青が紋様を描くスーツ
窓の外には
ポプラの葉が風にふるえ
その下に
一人の少年が佇んでいた
ふと、彼女の腕を見ると
凍った枯れ枝が浮かび上がり
陽光にきらめいていた

「わたしたち、上っていったわね
白くて長い階段を。
そう、ずいぶん昔のこと
踊場の窓に海が輝いて
あなたは子供の頃
溺れかけた時に見た女性が
わたしに似ていたって言ったわ」

雨の降る夕暮れ
誰もいないはずの窓に
白い顔が浮かんでいた
遠くを見るような瞳と
口元のかすかな笑み
わたしは踵を返し
街灯の続く路地を歩み去った
彼女のいない眠りに
再び落ちるために
海の底のような夢のなかには
またあの低い歌声だけが鳴り響いているだろう

  トテモ・・・トテモ冷タイ腕・・・
  星空ヘノ眼差シハ銀ト青ニ瞬ク・・・
  アノ沈黙ノ時間・・・白イ峡谷・・・
  トテモ・・・トテモ寒イ