曇り空


硝子窓の前の
古い机
波状に木目のはしる
汚れた天井
いつもと変わらぬ部屋が
他人のように静まりかえる
そんな
曇り日の朝がある

広い傾斜を
何処までも埋め尽くす
家と木々
知り尽くしたはずの道が
見知らぬ路地に続いてしまう
そんな
曇り日の真昼がある

道は
森の途中で消え去り
枝越しに漂う
世界の境界は紫
寒さにふるえながら
半身に声の地層を宿す
そんな
曇り日の夕暮れがある

受話器を取り
かすかな雑音に
子供の頃
家族と見渡した
灰色の海を思い出す
そんな
曇り日の夜がある

眠りのなかの
野を貫く白い道
遠く
半透明の街が
霧のようにけむり
かすかな
波の音が聞こえる
すぐそばには
誰かが仄白く匂っているのに
ふれることができない
歩くことがすべてであるかのように
ただ、歩み続けた

何処まで行っても
曇り空