ルルカ


すれ違いだった
何も始まらなかった
悲しみも喜びもなく
風さえ吹いてこなかった

坂は交差点まで下り
風の音だけが遠く聞こえていた
どこまでも灰色の空
古い木の家の窓から
子供の白い顔が覗いていた

白い犬に寄り添われ
前を歩む盲目の少女が
不意にふりかえった
・・・わたしを、呼びませんでしたか?
わたしの声はかすれていた
・・・いいえ

そうだ、
あれは「ルルカ」という物語
盲目の少女の背中に
無言で呼びかけた青年
彼は少女に導かれ
微笑む人々のなかに
軽やかに入っていった

・・・いいえ
少女は立ち去り
交差点を曲がっていった
冷たい風が
遠く低く叫び続けていた

どこまでも灰色の空
わたしはふりかえり
坂をのぼりはじめた
悲しみも喜びもなく
鈍い痛みを覚えながら
ただひたすらにのぼっていった