デパートの入り口近く
雨を見上げる目は灰色
捨てられた広告が
女子高生の足元で濡れ
信号が赤に変わる

中学生らしい快活さで
彼の話す幾つもの夢が
わたしの耳には冷たかった
あてもない空想
見知らぬ生活だけが
今を償う日々

無数の暗いビルディング
二人は方角を失い
幼女の回す傘の滴に濡れる
それぞれの暗い玄関は遠ざかり
迷うことは胸苦しい喜び

(わたしたちが
今も二人で迷っているとは言えない
わたしたちが見ていたのは
別の都市、別の雨だった
駅にはついにたどり着けずに)

紺の制服の女性が
手渡そうとするパンフレット
わたしは無言で傘を開き
老女の佇む交差点に向かう
青に変わる信号

静かな雨に匂うリラの紫
雑踏の集う駅から
発車のベルが鳴り響く
歩みだすわたしの背後に
吐息のように佇む影
(ヤット帰レルネ)
ふるえながらどうしても
振返ることができない