白い道


何処までも降りていく
夕映えに染まる古い階段を


彼女が喀血したのはこの部屋
衣装棚の上には
埃をかぶった人形が座り
青味を帯びたまなざしで
部屋の空虚を支配している
彼女は死んだのだろうか?
いつからかわたしには
生と死の境界すら
わからなくなってしまった

窓の向こう
銀の塔が
最後の光を浴びて
ぎらぎらと燃えている

・・・白い道へ行くのよ・・・
誰だろう、そんな言葉をささやいたのは
遠い昔
陽光に白く乾いた墓地の道に佇んでいたことがある
墓石の間には
狂った老女が女に連れられ歩いていた

姉さん
鍵の錆び付いた部屋で
あなたは永遠の幼時にくるまっている
・・・こっちにいらっしゃい・・・
取り囲む古い玩具たち
眼のある柱時計
わたしが逃げるように扉を閉めてから
どれだけの時が過ぎたのだろう

日が沈み
紫に澄んだ山の上に
残照がたなびいている
もうすぐ星が輝きはじめるだろう

おかあさん
暗い夜明けに
幼いわたしたちを
あなたは何処に連れていこうとしたのだろう
誰も住んでいない淋しい村や
冷たくうす闇を抱いた林
記憶は不意に途切れてしまう
あれは現実の光景だったのだろうか
無数の硝子玉が階段を転がり落ちる
そんなまぼろしに襲われる時
あなたの細いまなざしが
わたしのなかを通り過ぎる

骨と骨が
擦り合わされるような音
いったい
何が失われたのだろうか
M、姉さん
そして母の冷たい面影が渦を巻く
その渦の向こう
暗い扉にかすかな星の光がさしこみ
浮かび上がるひとつの顔
それは
かすれた声で
わたしにささやきかけてくる

・・・白い道へ行くのよ・・・