走れ、走れ


走れ、走れ
おまえがまだ、幸福なら

目に、鼻に、唇に
雲が白く覆いかぶさる
まわりに
蒼穹が深くなる

向こうに
透き通った水の向こうに
ひまわりが燃え上がる
おまえを照らすために
冷たい草たちに取り囲まれて

空、青く
その記憶に曳かれて
高圧電線が
無数に垂れる地平から
白く乾いた街がやって来る

走れ、走れ
おまえがまだ、幸福なら

子供が生まれた白い窓
黒い傘の刺さった窓
砂色の顔を映す窓
その高みに、傾いた空
光る髪に洗われて
硝子より痛い蒼穹

なぜ、それが
そんなふうに、なぜ
固く閉じた窓の中の唇
通りに転がる水晶玉
おまえのうしろから
白い傷がひろがっていく
誰にも知られずに、そんなふうに
開かずに消える、生まれたばかりの子供の眼は
黄色いひまわりの花、のように輝いて

走れ、走れ
おまえがまだ、幸福なら