ふりかえってはいけない


灰白色の夜明け
盲目の赤い花が
ほのかに匂いながら
霧にけむる山を
遠く見上げる

壊れた水道管に
流れる滴
わずかに開いた扉から
青い目が覗き
木目をなぞる
石の指

橋の向こうには
黒い枯れ枝
動かない川面に
白く浮かぶ顔は
唇だけが赤い

霧雨が
枯葉の褥に
ただそのために
いつか
ひとつの祈りを
ちぎれた虫の羽から
こぼれる卵は
石の指に
ころがり

わかっていた・・・
何も
わからない
寄り添う常緑樹の
見分けがたい闇のなかの
ちいさな形見

ふりかえっては
いけない
空を見上げ
雨に黒ずむ小道に
人形のように
倒れて