来るべき蒼穹


すべての大地が透明になる瞬間がある
在ることの喜びと悲しみが
翼あるもののように浮遊する時だ

死者の残したひとつの折鶴が
窓辺で春の光を浴びている
わたしはぼんやりと鏡の前を横切る
映るのは見知らぬ白い顔
そらしてしまった目のなかを
折鶴が羽を広げて飛びはじめる

来るべきもの
それはすでに失われている
愛しはじめた女の
子供じみた仕草のなかに
世界の比喩と化した
わたしの影が通り過ぎる

遠ざかりながら
いっそう近づく顔
咲き乱れる花々の根が漂い
蒼穹がのぼってくる
わたしは
遊ぶ女の指を握りしめた
驚いて見上げる瞳に
死者のかすかなためらいが浮かぶ

わたしは
叫ぼうとした
しかしそれよりも早く
折鶴が
蒼穹とともにに舞い上がる姿を
声もなく見上げた