殺意


胡桃の枝影の映る窓
残照の黙す冷ややかな時刻
手の届かない高さに
そのなかのうなだれた顔は
もう見えない

遠ざかる雨雲
静かに星の降る夜が来ても
あの雲の捉えがたい中心に
くるおしく抱かれた世界のひろがりに
及ぶはずもない
知っていたはずだ
あなただけは

神の通った傷痕のように
薄闇に白く浮かび上がる道を
後姿が遠ざかる
そんな終わりをひそかに喜びながら
あなたのふりかえる未明を
わたしは永遠に恐れ続けるだろう

夢のなかには
まだ雨が降っていた
胡桃の樹の下に佇む少年は
白い絵の具を顔に塗り
空を見上げていた
雨水に溶けようとする絵の具
わたしは激しく震えた
殺意がこみ上げてきた