無限


荒れ果てた、無限よ

   *

静寂は極みに達して
白銀の炎が燃え上がる
川を流れる氷片の光
岸辺を迷う子犬の青い瞳

   *

石に閉ざされた鳥が
燃え落ちる空の果てから
翡翠色の叫びをあげる

   *

冷たい霧のなかを
その石段はどこへ続くのか
青と緑の縞模様
窓枠に滴る水の音
黒々ととりまく鬱蒼たる森

   *

月光に侵された寝台に
彼女は無言で横たわる
黒い衣をつけて扉に佇む星の影
白蝋のように垂れる
その指先

   *

少女の乳首が結晶する明け方
誰の叫びも聞こえない
雪のように降りしきる沈黙
廊下は凍りつき
風の顔が
灰色の壁に塗りこまれている

   *

蒼穹
過剰な眠り
触手をもつ固い樹木が
窓に忍び寄り
彼女は叫ぶ

叫びのなかの薔薇

   *

誰だ
なぜそこにいるのか
正午、いや真夜中なのか
流れ去った白銀の川は
どの岸辺を濡らしている
空に消える石段は
どの星と結ばれたのか

彼女は
消えたのだろうか
子犬はまだ
迷っているのか
悲痛な祈りの声で
森に落ちていったのは
鳥なのか
それともわたしなのか

   *

風よ
冷たい水晶の霧よ
闇に浮かぶ白蝋の仮面よ
交差する夢の道に咲く花々よ

   *

太陽
夜よりも暗い太陽の降臨
石段を古い靴が見出した時
目の中に燃え落ちる薔薇

鉛色の硝子の向こう
太陽のように燃えあがる贖罪の歳月よ

   *

荒れ果てた、無限よ