夜明け


目の中を幾つもの線条が走る
叫びよりも早く白蝋の廊下を渡り
扉の隙間に見た夏の光
うずくまる一匹の犬

灰緑色の根を張る
水色の森に雲が沈む
千切られた紙片から
飛び立つ古い歌声
名を消された地図のように
街が夕の光を浴びる

もう一度だけ
と言いかけ
林越しの夜の海に
黙秘した永遠
指の描く窓辺から
淋しい横顔が消えていく

潮騒が近づく
家具の闇を通り抜けてくる
彼は起き上がり
壁の傷跡にそっと触れた
かなわない喜びのように
ひろがりはじめる微光

・・・これがあなたの
   夜明けだった・・・