夜の誘い


頬に泥をつけた少女がふりかえる
沼を泳ぐおたまじゃくしの群れに
ふたつの白い顔が重なり
森の夕暮れが来ていた

赤紫色の雲
円状にひろがるそのふちに
青のおもいがけない深さ
低く独り言をつぶやきながら
森への道を
老人の影が通り過ぎる

草むらに捨てられた
黒いバッグから
色あせた手紙がのぞいている
「もう、あなたに会うことはないでしょう」
うつむいた女の影だけが
白い石に消え残っている

ちいさな谷の漆黒を
見下ろすひとつの街灯
森の上に
大きな月がのぼり
夜に誘われたものたちを
背後の闇に眠らせる