雨のかすかな抑揚に
可愛いちいさな黄色い傘が
いくつも林の向こうに消えていきます
保育所の窓に明かりが灯り
女の人の細い影が佇んで
遠くで雨に濡れている
白いブランコを見つめています

紫の血潮が空を濡らし
顔のない淋しい影がただよう夕暮れ
堤防の向こうから聞こえる
川の響きにうなだれながら
無邪気な遠い影絵を
麻酔の奥の古い扉にうずめます

わたしは
凍った傘の下で崩れていく白い墓標
さぐる指が薄れ
だれもいない岸辺に枯れていく
わたしはくるおしく肩を抱きしめて
他人のようにこわばった腕に
長い黒髪を垂らします
うつろう記憶の果てから
うちよせる薄明の冷気を浴びながら

だれもいなくなり
保育所の明りが消えてしまうと
冷たい闇が静かに降りてきます
ふと祈り声のようなものが聞こえて
ふりかえると
ただ雨が降りしきるばかり
・・・遠く響く汽笛
暗く閉じかかるまぶたに
黄色い傘がまわり
闇に沈むブランコが
青白い少女を乗せて
静かに揺れはじめます