至高の名
遠ざかる青ざめた少女のまぼろし
墓地へと続く宵闇の白い道
鐘の音が聞こえる
未だ訪れぬ時を告げるように
あなたはわたしの肩にそっと手を置く
見えない星たちから露が滴る
*
黒い鳥影が墓地の空を舞う
見知らぬ名を刻んだ墓石の列
あなたは青い目でわたしを促す
わたしは墓の名を読み続ける
青黒い風のなかの海の匂い
あの丘の向こうには海があるのかしら?
雷が轟きわたり、雨粒が落ちてくる
あなたの黒いレインコートに滴がはじける
*
今日も雨が降っている。わたしの生まれる前から降り続いている
みたいに。
さっき彼が出ていった。あのひとが死んだ夜のことを、いつもの
ように尋ねて。
病室の灰色の壁。雨の降り続く終わりのない荒れ野。夜毎、わた
しはこのなかに塗りこめられていく。死んだのは、わたしじゃない
のかしら?
彼は何も知らない。彼には何もわかりはしない。
窓の外には鉛の森・・・。そのなかをわたしに似た黒い影が、誰かと
寄り添いながら遠ざかるのが見える。
*
雨の奥に
海鳴りと星のざわめき
あなたの姿は
闇に少しずつ奪われてしまう
わたしの凍えた体の奥に
静かに燃えている青白い炎
そして・・・
そしてわたしは眠る
闇のなかに
かすかに光る墓の名を読みながら