最後の青


風はすでに遠ざかり
太陽の光は見えない
枯れた林の向こうには
底なし沼が干上がっている
途切れた道の上
開かれたままの掌に
一枚の写真が灰に変わる

いつのまにか
浮遊しはじめる青に
何処からか染み透る光
彼女は
沈黙の生み出した幼女を抱き上げる
眠りよりも死よりも
深く閉じたその目
霧のような
青のなかを
通りすぎる人影
それは
照れたように笑う癖のある
ひとりの男に似ていた
滑空するように
彼の姿は遠ざかる
まるですべてが
償われたかのように

彼女は
静かに空を見上げる
幼女の閉じたまぶたと重なり
浮かび上がる一粒の涙
(彼の間違いのような
死の瞬間のように)
最後の青を見上げるために
彼女は生き続けてきた
最後の青に奪われながら
彼女はそれでも
生きようとしていた