目を閉じたままの夢


裏切られてもかまわない
そんな言葉は嘘だった
苦しむ前に顔をそむけ
遠く沈む夕日を見つめるための

裏切られることを怖れながら
繰り返してきた多くの裏切り
暗い舗道に置き去りにされた乳母車
眠る幼子のまぶたにそっとふれる
まだ、目を覚ましてはいけない

あなたの後ろ姿を見つめた夜
手の届かない悲しみを見送った夜
幼子が目を覚ましかけた
永遠にも似た夢に別れようとした

遠ざかり
消え去るように見えるものは
そのままに
抱き締めたいという
来歴のわからない炎に焼かれて

長い坂道を走りはじめる乳母車
閉じたまぶたに風が吹き付け
星の光が降りかかる
さあ、目を覚ますがいい
大きく息を吐き出すがいい
近づく闇を見つめるがいい

わたしはあなたの顔を持ち上げる
長い髪を耳の後ろにかき寄せる
目を閉じたままのあなたの唇に
冷たい唇を押し付ける