終わりのない旅


凍った枯れ枝が
夜明けの冴えた空気のなかで
ふるえはじめる
冬の森は美しい針の城
黄金の月が
中空に消えかかり
透明な声が
森から空へ
宝石のように飛散していく

          *
女の横顔の向こうに窓がある
窓の向こうには古い塀がある
海のような曇天のひろがり
そこから落ちる滴が
ひとつ ふたつ
窓にふりかかる

病床の痩せた男に
雨の顔が亡霊のようにのりうつる
地平線まで続く高圧電線
揺れる枯れ草
かすかに光を含む雨雲の垂れた空
女は遠くたたずみ
彼はぼんやりと後姿を見つめていた
(このままでいいのだろうか?ほんとうにこのままで・・・)
やがて音もなく雨が降り始めた
女は不意にふりかえり
笑いながら大きく手を振った

・・・何を考えているの?
・・・いや、別に何も

雨を見つめる疲れた女の横顔
もうなにも夢みはしないだろう
(それは俺のせいだ、しかし)
激しく窓に打ちつける雨
(俺は・・・)

        *
女は髪を風になびかせながら
宝石のような声に耳をすませる
不在の傷口から
生命は流れ出し
雪の地平に広がっていく
地平線には太陽の予感・・・
藍色の空には一粒の星・・・
女は川辺に跪き
青白い唇を静かにひたす
夜は少しずつ明けかかり
遠く明滅する街の光
(・・・サヨナラ)
冷たい空がかすかにふるえ
今は名を持たないためいきが
掌のように女の頬をつつみこむ