回帰


水のなかで
君が咲いている
まだ何も失くしていない時の
不思議に淋しい青空と
他人の楽しげな笑い声を吸っているだけの
君には何の意味もなかった曇天を
混ぜ合わせた色を帯びて

白く乾いた道は
旭川の市街地への長い下り坂
墓地の隅々にまで行き渡った夏の光に
追い立てられるように
ぼくは確かに
きみの方角に降りていった

時間の隙間につくったあばら家の
半分開いた裏口から
石狩川に似た夕映えの川岸へ
そして
赤く染まった川面の下に
透明度を増した水の層のなかに
君は素足から入っていった

しかしそれは
死でも狂気でもない
不在というからくりの手前で迷う君を
つなぎとめるために
ぼくはここに来た
それが長い忘却の後の
きまぐれな偶然だとしても
それを必然に変えよう

たとえ
ぼく自身が
すでに死んでいるとしても